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by nicoxz

アジア欧州便が高騰する理由 中東ハブ停止と直行便争奪戦の構図

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はじめに

アジアと欧州を結ぶ航空券が、2026年3月以降に急騰しました。背景にあるのは、単純な需要増ではありません。ドバイ、ドーハ、アブダビといった中東の巨大ハブが機能低下を起こし、これまで乗り継ぎで分散していた需要が、直行便や中東外ハブへ一気に流れ込んだためです。

この変化は、旅行者の出費だけでなく、企業出張、貨物輸送、観光回復のテンポにも影響します。公開情報をたどると、問題の本質は「中東が使えないから高い」という一言では足りません。なぜ直行便にプレミアムが付き、航空会社がどの路線に機材を振り向けているのかを整理すると、今回の高騰の持続性も見えてきます。

中東ハブ停止で崩れた従来の乗り継ぎ網

ドバイ・ドーハ・アブダビの空白

アジアと欧州の往来は、長年にわたり中東ハブを前提に組み立てられてきました。ドバイ国際空港は2025年に9520万人を受け入れ、過去最高かつ世界最大の国際旅客空港を維持しました。通常時のDXBは1日1000便超を扱う巨大結節点で、ドーハやアブダビと合わせて、豪州発欧州行きや東南アジア発欧州行きの需要を吸い上げてきました。

ところが、3月以降の地域空域混乱で、この前提が崩れました。Reutersの3月31日配信の航空各社一覧では、世界の航空網はなお深刻な混乱下にあり、ドバイ、ドーハ、アブダビを含む主要ハブの閉鎖や減便が継続していると整理されています。エミレーツは減便運航、シンガポール航空はシンガポール-ドバイ便の運休延長、日本航空も東京-ドーハ線を一時停止するなど、ネットワーク全体が細っています。

ここで重要なのは、空港が完全閉鎖か部分再開かより、乗り継ぎの確実性が失われた点です。ハブ型ネットワークは、複数便を時間どおり接続できて初めて価値が出ます。便数が減り、再開予定も流動的になると、旅行者も企業も最初から中東経由を避け、直行便や別地域のハブへ需要を振り替えます。

直行便シフトと価格急騰

Reutersが航空会社サイトを確認した3月上旬時点で、アジア発ロンドン行きの近接出発便は、空席が極端に少なくなっていました。たとえばキャセイパシフィックの香港-ロンドン線では、3月11日までエコノミー席が見当たらず、同日の片道最低運賃は2万1158香港ドルでした。月後半には5054香港ドルの水準が示されており、近接日程だけ見れば4倍前後の開きが生じていました。

タイ航空でも同様です。バンコク-ロンドン線は翌週後半まで売り切れが目立ち、3月15日の片道エコノミーは7万1190バーツだった一方、3月18日には2万7045バーツまで下がる表示でした。北京-ロンドンでも、平時は1万元未満が目安の往復エコノミーに対し、直近出発ではビジネスクラス片道が5万490元しか残っていない例が報じられています。公開データで厳密な「戦前比」を一本化するのは難しいものの、少なくとも直近手配では3倍前後、路線によっては4倍超の価格差が発生していたとみてよいです。

旅行会社の現場でも需要の逃避が確認できます。豪州のFlight Centre Travel Groupは、危機発生後に店舗と緊急支援窓口への問い合わせが75%増え、欧州方面の再予約は中国、シンガポール、北米経由へ急速に移っていると説明しました。つまり値上がりは、単なる便数減ではなく、顧客の経路選択そのものが変わった結果です。

直行便でも安くならない理由

供給不足と遠回り運航

中東を避ける便は、飛べば済むという話ではありません。Reutersによると、直行便を運航する航空会社も、北回りならコーカサス経由からアフガニスタン方面、南回りならエジプト、サウジアラビア、オマーン方面を通る必要があり、飛行時間と燃料消費が増えます。Association of Asia Pacific Airlinesのスバス・メノン事務局長が述べた通り、欧州便を高コストでしか維持できなければ、最終的に失われるのは価格競争力だけでなく接続性そのものです。

燃料面の逆風も重なります。国際エネルギー機関は、ホルムズ海峡を2025年に平均日量2000万バレルの原油・石油製品が通過し、世界の海上石油取引の約25%を占めると整理しています。さらに3月公表の分析では、海峡経由の流れが大きく落ち込んだことで、ディーゼルやジェット燃料など中間留分の市場が特に締まりやすいと指摘しました。航空会社にとっては、座席供給が細るだけでなく、1便当たりのコストも上がる構図です。

その結果、直行便は「中東を避けられる便利な選択肢」であると同時に、「供給が限られた高コスト商品」に変わりました。旅行者が直行便へ殺到し、航空会社が燃料と運航の不確実性を価格に転嫁すれば、近接日程のチケットほど値が跳ねやすくなります。

航空会社の再配分と勝ち筋

もっとも、航空会社は受け身ではありません。Euronewsによると、ルフトハンザはミュンヘン-シンガポール便を追加し、オーストリア航空はウィーン-バンコクで特別便を設定しました。Air Franceもバンコク、シンガポール、デリー、ムンバイ、上海、東京、プーケットなどで大型機投入や増便を進めています。

シンガポール航空も、もともとはドバイ線の輸送力をA380投入で厚くする計画を示していましたが、Reutersの3月31日時点ではドバイ便の運休を5月31日まで延長する一方、ロンドン・ガトウィック線とメルボルン線を追加して需要を取り込む方向へ切り替えました。英国航空もバンコクとシンガポールへの便を積み増しています。要するに、航空会社は中東ハブに依存する乗り継ぎ需要を、シンガポール、バンコク、香港、北米などへ付け替えながら、収益が見込める直行路線に機材を再配置しているのです。

ここで恩恵を受けやすいのは、もともと長距離直行便を持つ会社です。キャセイ、シンガポール航空、トルコ航空、欧州大手のアジア直行便は、短期的には単価上昇の追い風を受けやすいです。一方で、中東ハブに強く依存していた旅行者は、料金だけでなく所要時間や予約の柔軟性でも不利になります。

注意点・展望

このニュースで注意したいのは、「すべての欧州行きがずっと3倍」という理解です。公開サイトの価格差が最も大きいのは、出発が近い便や代替需要が集中する都市ペアです。実際、香港-ロンドンやバンコク-ロンドンでは数日ずらすだけで価格が大きく下がる例も確認されています。

ただし、短期の乱高下で済むとも言い切れません。ハブ再開後も、機材の位置調整、乗員繰り、保険、燃油コスト、夏ダイヤ需要が残るからです。今後の焦点は、1. ドバイ、ドーハ、アブダビの運航正常化の速度、2. 欧州・アジア直行便の増便がどこまで続くか、3. 燃油価格とサーチャージの高止まり、の3点です。

まとめ

アジア-欧州便の高騰は、単なる一時的な需給逼迫ではなく、中東ハブ型ネットワークの機能低下が生んだ構造変化です。乗り継ぎの信頼性が崩れたことで、需要は直行便と中東外ハブへ集中し、空席不足と迂回コストの上昇が運賃を押し上げました。

今後の見方としては、航空券検索で表示される価格そのものより、どの都市に機材が再配置されているかを追う方が本質に近いです。運賃高騰は結果であり、原因は中東ハブの空白をめぐる座席争奪戦にあります。

参考資料:

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