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by nicoxz

透明エアフライヤー競争の真相 見える調理家電が伸びる理由を解く

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はじめに

油をほとんど使わずに揚げ物風の調理ができるエアフライヤーは、日本でもすでに珍しい家電ではありません。ところが2025年後半から目立ち始めたのは、単に「ヘルシー」なだけではない新しい競争です。透明なガラスや窓付き構造で調理中の様子を見せる製品が増え、各社が見た目、蒸気機能、コンパクトさ、PFAS不使用、大容量といった別々の強みで差別化し始めました。

この変化は、家電の小さな改良に見えて、実はかなり本質的です。従来のエアフライヤーは、便利でも「中が見えない」「途中で開けると温度が落ちる」「置くと無機質で圧迫感がある」といった不満を抱えがちでした。そこに各社が異なる解決策を持ち込み、エアフライヤーを単なる健康家電から、見せる調理家電へ変えようとしているのです。本稿では、2026年4月13日時点で確認できる公開情報をもとに、透明エアフライヤーが伸びる理由と、メーカーごとの競争軸を整理します。

なぜ「透明」が価値になるのか

中が見えない不安の解消

透明モデルが支持される最大の理由は、従来機の弱点をそのまま解消するからです。BRUNOの公式商品説明は、エアフライヤーについて「ちゃんと焼けているかな」と不安になる人がいると明記し、ガラス製バスケットで焼き加減や色づきがひと目で分かることを価値として打ち出しています。これは単なる演出ではありません。バスケットを開けずに状態を確認できれば、熱が逃げにくく、調理失敗も減らせます。

従来の黒い樹脂バスケット型は、調理途中で中を確認するには一度引き出すしかなく、結果として「まだ白い」「揚げ過ぎた」といったズレが起きやすい構造でした。透明なガラスや窓付き設計は、この小さなストレスを正面から潰します。家電WatchもBRUNOの新製品について、焼き加減や食材の色づきが一目で分かり、仕上がりのタイミングを逃さず調理できる点を特徴として挙げています。

見えることの意味は、初心者ほど大きいです。鍋やフライパンなら音や匂いで火加減を読めますが、エアフライヤーは内部が閉じているぶん、調理の進行が分かりにくいです。透明化は「操作性」よりも「安心感」に効く改良だといえます。だからこそ、性能競争が成熟してくると、各社はワット数や温度帯だけでなく、視認性を新しい価値として前面に出し始めたのです。

キッチンに置ける見せる家電への転換

もう一つの理由は、エアフライヤーがしまう家電から、置いて使う家電へ変わってきたことです。BRUNOはガラスエアフライヤーを「魅せる家電」と位置づけています。透明なガラスバスケットは調理確認だけでなく、家電の圧迫感を減らし、インテリア家電としての存在感を高めます。秋冬限定のキャストブラックを追加したのも、その延長線上にあります。

この方向性は、BRUNOだけではありません。EPEIOSのガラスボウルエアフライヤーも、耐熱ガラスのボウルを使い、調理の様子を見せること自体を商品価値にしています。エアフライヤーは使用頻度が高いほど出しっぱなしになりやすく、デザインと視認性は購入のハードルを左右します。透明化は実用性とインテリア性を同時に改善できるため、生活空間の家電として相性がよいのです。

各社が競う差別化の軸

BRUNOとEPEIOSの透明戦略

透明路線の代表格は、BRUNOとEPEIOSです。BRUNOのガラスエアフライヤーは、2025年6月発売、価格13,200円、容量約3.5L、12種類のプリセットメニュー、60〜200℃の温度調節を備えています。自社試験では、ノンフライ調理で鶏もも肉のカロリーを約34%抑えられると訴求し、電気代も1回あたり約5.22円として、健康と節約の両面を打ち出しました。透明であることに加え、価格も2万円未満に抑え、デザイン家電として導入しやすい位置を取っています。

EPEIOSはもう一段違う方向へ振っています。2025年12月に発売したガラスボウルエアフライヤーは、約4Lと約1.5Lのガラスボウルを交換できる構成で、価格は19,860円です。PR TIMESによれば、小型時はW210×H215×D215mm、大型時はW294×H272×D250mmで、1人分から家族向けまで対応できる設計です。透明化に加えて、容量の可変性そのものを強みに変えた点が特徴です。

この2社の共通点は、エアフライヤーを「ヘルシー家電」より「体験家電」として売っていることです。調理中の見た目、食卓での存在感、洗いやすさ、気分の上がり方まで含めて訴求している。性能の絶対値より、使っている時間の快適さを売る設計だといえます。

蒸気、強力熱風、PFAS不使用、大容量という別解

一方、透明化以外の軸で勝負するメーカーも増えています。レコルトのハイスチームエアーオーブンは、蒸気を加えて潤いを閉じ込める「ハイスチーム」モードを前面に出し、価格は29,700円です。単純なノンフライ調理だけではなく、蒸し焼きの仕上がりに寄せることで、オーブンとエアフライヤーの中間を狙っています。

アイリスオーヤマの過熱水蒸気エアフライヤーも同じく蒸気を差別化要素にしています。2025年12月発表の公式リリースでは、共働き世帯の増加に伴う健康志向、簡便化志向、経済性志向の高まりを背景に挙げ、自社独自のスチームモードで揚げ物や焼き物をよりジューシーに仕上げると説明しています。透明ではなく「おいしさの改善」に軸足を置く戦略です。

Ninjaは逆に、強力熱風とコンパクトさを売りにします。日本初上陸のミニエアフライヤーは幅20cm、容量約1.9Lで、油で揚げるより脂質を75%低減すると自社比較で訴求しています。加えて、バスケット内とプレートにPFAS不使用のナノセラミック加工を採用し、健康だけでなく素材安全性にも踏み込んでいます。見た目よりも、火力、扱いやすさ、素材への不安解消で差を付ける考え方です。

Xiaomiはさらに別の切り口です。2025年10月発売のエアフライヤー6.5Lは、6.5Lの大容量、1200W、40〜210℃、7種類のプリセット、101種類のオンラインレシピ、食洗機対応を前面に出し、油で揚げたフライドポテト比で脂質88.3%カット、一般的な58Lオーブンと比べて調理効率48%向上とうたいます。こちらは透明でも蒸気でもなく、「一台で幅広く、しかも大きく使える」ことを重視しています。

こうして見ると、エアフライヤー市場は単一の勝ち筋に向かっているわけではありません。透明化は有力な流れですが、蒸気、火力、素材安全性、容量、スマート機能といった別解も並走しています。各社はエアフライヤーを何の代替として売るかで、戦い方が異なるのです。

市場を押している需要の正体

健康、簡便、経済性が同時に高い時代

エアフライヤーの人気を支えているのは、健康志向だけではありません。日本政策金融公庫の消費者動向調査(令和7年1月)では、食に関する3大志向は「経済性志向」45.6%、「健康志向」44.0%、「簡便化志向」40.3%でした。エアフライヤーは、この3つを同時に満たしやすい珍しい家電です。油が少なく済む、後片付けが楽、惣菜の温め直しもできるという特性が、現在の食生活の不満にそのまま刺さります。

BRUNOが電気代の安さを、NinjaやXiaomiが脂質カットを、アイリスが簡単・おいしい・ヘルシーの両立を前面に出すのは、消費者ニーズがはっきりしているからです。透明化も、この文脈の中にあります。見えることは安心感を与え、失敗を減らし、再加熱や追加調理の手間を減らします。見た目の良さだけでなく、簡便化の一部として理解するほうが実態に近いでしょう。

1人暮らしと少人数世帯のキッチン事情

もう一つ重要なのは、住環境です。エアフライヤーはオーブンより小さく、揚げ物鍋より油の管理が要らず、電子レンジより表面をカリッと仕上げやすいという中間的な立場にあります。レコルトの旧来のエアーオーブンは約2.8L、Ninjaは約1.9L、BRUNOは約3.5L、Toffyのエアフライヤーミニは1.2Lと、各社が明確に1〜3人暮らしを意識したサイズを用意しているのはこのためです。

一方で、ホームパーティーや家族向けにはXiaomiの6.5LやEPEIOSの4Lボウルのような大容量機が伸びています。市場は一枚岩ではなく、少人数向けの省スペース家電と、家族向けの多機能家電に分かれ始めています。透明モデルが強いのは、この中間帯です。見た目の軽さと適度な容量が、都会のキッチン事情に合いやすいからです。

注意点・展望

このテーマで注意したいのは、透明であれば必ず売れるわけではないことです。実際の使い勝手を左右するのは、容量、音、洗いやすさ、ニオイ残り、温度制御、バスケット素材、安全性表示など多くの要素です。透明ガラスは視認性に優れる一方、重量や破損リスク、熱の持ち方で樹脂バスケットと異なる設計課題もあります。

また、各社の脂質カットや調理効率の数値は、自社試験に基づくものが多く、比較条件がそろっているとは限りません。消費者が本当に比べるべきなのは、宣伝文句の大きさより、自分の世帯人数と使用頻度に合うかどうかです。毎日温め直しに使うなら掃除のしやすさが重要ですし、休日にまとめて作るなら容量と火力が効きます。

今後の展望としては、透明化は一時的な流行ではなく、エアフライヤーが成熟家電に向かう過程の自然な進化と見るべきです。その先では、蒸気機能、アプリ連携、PFAS不使用、交換ボウル、静音性、さらにはレシピ配信まで含めた競争が強まるでしょう。つまり各社は、もう「油を使わない」だけでは売れない段階に入っています。

まとめ

透明なエアフライヤーが支持を集めるのは、見た目が新しいからだけではありません。中が見えないという従来機の不満を解消し、失敗しにくく、置いたままでも気分が上がる家電へ変えたからです。BRUNOとEPEIOSはその流れを代表し、見える調理を商品価値の中心に据えています。

ただし、市場全体では透明化だけが答えではありません。レコルトやアイリスは蒸気で仕上がりを差別化し、NinjaはコンパクトさとPFAS不使用、Xiaomiは大容量と高効率で攻めています。透明エアフライヤー競争の本質は、見えることそのものより、エアフライヤーをどんな暮らしの不満に対応させるかという提案競争にあります。これからの勝敗を分けるのは、見た目と機能をどこまで暮らしに自然につなげられるかです。

参考資料:

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