イラン新指導者がホルムズ海峡封鎖継続を宣言、原油100ドル突破
はじめに
イランの新たな最高指導者モジタバ・ハメネイ師が2026年3月12日、就任後初となる声明を発表し、ホルムズ海峡の封鎖を継続する方針を明確にしました。この声明を受けて、国際指標のブレント原油は1バレル100ドルを突破し、2022年8月以来の高値水準を記録しました。
ホルムズ海峡は世界の原油輸送量の約20%が通過する「エネルギーの大動脈」です。2月末の米国・イスラエルによるイラン攻撃をきっかけに始まった封鎖が長期化の様相を呈しており、世界経済への影響が一段と深刻化しています。
この記事では、ホルムズ海峡危機の最新状況と、エネルギー市場・日本経済への影響を解説します。
モジタバ師の初声明と封鎖継続の背景
新最高指導者の強硬姿勢
モジタバ・ハメネイ師は、父である故アリー・ハメネイ師の後を継ぎ、イランの最高指導者に就任しました。就任から4日後に発表した初の声明で、「ホルムズ海峡閉鎖のレバーは引き続き、確実に利用される必要がある」と述べ、封鎖を「敵に圧力をかける手段」と位置づけました。
さらに、中東にあるすべての米軍基地の即時閉鎖を要求し、攻撃が続くなら「他の戦線を開く」意思があることも示唆しました。これは、紛争の拡大をも辞さない強硬な姿勢を示すものです。
危機の発端
今回のホルムズ海峡危機は、2026年2月28日に米国とイスラエルがイランに対して行った合同軍事攻撃に端を発しています。この攻撃でアリー・ハメネイ最高指導者が死亡し、イランは激しい報復に出ました。
イラン革命防衛隊(IRGC)は米軍基地やイスラエル領土への報復攻撃を実施するとともに、ホルムズ海峡を通過する船舶への攻撃を警告しました。タンカー3隻への攻撃を表明したことで、日本郵船や川崎汽船を含む海運各社が相次いで通峡を停止し、3月1日から2日にかけて海峡は事実上の封鎖状態に入りました。
原油市場と世界経済への衝撃
原油価格100ドル突破
モジタバ師の声明を受けた3月12日、ブレント原油先物は前日比9.22%(8.48ドル)上昇し、100.46ドルで取引を終えました。ブレント原油が100ドルを超えて引けたのは、2022年8月以来のことです。
封鎖開始前の2月下旬には70ドル台だった原油価格は、わずか2週間で約30ドル上昇しました。一時は119ドル台まで急騰する場面もありました。
湾岸諸国の減産も追い打ち
原油価格の高騰に拍車をかけているのが、湾岸諸国の動きです。UAE(アラブ首長国連邦)、クウェート、イラクが原油生産の削減を開始しました。ホルムズ海峡の封鎖により輸出ルートが断たれたことに加え、自国の安全保障上の懸念も影響しています。
IEAが過去最大の備蓄放出を決定
国際エネルギー機関(IEA)は3月11日、加盟32カ国で合計4億バレルの石油備蓄の放出を全会一致で決定しました。これは史上最大規模の緊急放出です。米国は戦略石油備蓄(SPR)から1億7200万バレルを放出する計画です。
しかし、4億バレルは世界の石油消費量の約4日分に相当するにすぎず、市場の不安を払拭するには至っていません。備蓄放出は短期的なショックの緩和策であり、封鎖が長期化すれば供給不足は避けられません。
米軍の護衛と海峡再開の見通し
米軍は「護衛の準備ができていない」
米国のクリス・ライト・エネルギー長官は3月12日、米海軍はホルムズ海峡でのタンカー護衛を「まだ開始する準備ができていない」と述べました。現在、中東に展開する米軍の全戦力がイランの攻撃能力の破壊に集中しているためです。
ライト長官は、3月末までに護衛が開始できる可能性に言及しましたが、具体的な時期は明示しませんでした。仮に護衛が始まっても、駆逐艦7〜8隻の防空カバーのもとで1日あたり3〜4隻の商業船を護衛できる程度とされており、通常の通航量を回復するには程遠い状態です。
フランスの多国籍護衛構想
フランスのマクロン大統領は、ホルムズ海峡での多国籍護衛任務の編成を提唱しています。しかし、参加国の調整や作戦計画の策定には時間がかかるとみられ、短期間での実現は困難です。
日本経済への影響と懸念
中東依存度の高さ
日本は原油輸入の約9割を中東地域に依存しています。ホルムズ海峡の封鎖は、日本のエネルギー安全保障にとって最悪のシナリオの一つです。
国内には約254日分の石油備蓄がありますが、封鎖が長期化すれば備蓄の取り崩しにも限界があります。原油価格が100ドルを超える水準が続けば、国内のガソリン価格は1リットルあたり20〜30円程度の上昇圧力を受けるとの試算があります。
インフレ加速のリスク
エネルギー価格の高騰は、輸送コストの上昇を通じて幅広い物価に波及します。すでに食品やサービス価格の上昇に苦しむ日本の家計にとって、さらなるインフレの加速は大きな打撃となります。日本銀行の金融政策にも影響を与える可能性があります。
注意点・展望
封鎖の長期化リスク
モジタバ師の声明は、封鎖が短期間で解除される可能性が低いことを示唆しています。米軍の護衛開始にも時間がかかる見通しであり、少なくとも3月中は封鎖状態が続く公算が大きいです。
ただし、封鎖の「完全性」には疑問の余地もあります。国際法上、ホルムズ海峡は国際海峡として通過通航権が認められており、イランが法的に完全封鎖を維持し続けることは困難との指摘もあります。実際の封鎖は、軍事的な威嚇による「事実上の封鎖」であり、状況次第で流動的に変化する可能性もあります。
原油価格のさらなる上昇リスク
封鎖が長期化すれば、原油価格がさらに上昇する可能性があります。一部のアナリストは、120ドル超えも視野に入ると指摘しています。一方で、IEAの備蓄放出や米国のシェールオイル増産が下支え要因となり、価格上昇のペースは鈍化する可能性もあります。
まとめ
イランの新最高指導者モジタバ・ハメネイ師によるホルムズ海峡封鎖継続の宣言は、エネルギー市場と世界経済に深刻な影響を与えています。原油価格は100ドルを突破し、日本を含む原油輸入国への打撃は避けられない状況です。
米軍による護衛の開始やIEAの備蓄放出といった対応策が講じられていますが、封鎖の早期解除は見通せません。今後の焦点は、米国の護衛作戦の開始時期、イランとの外交交渉の進展、そして原油価格のさらなる動向に移ります。日本としては、エネルギー調達の多角化という長年の課題が、改めて突きつけられた形です。
参考資料:
- Iran’s supreme leader Khamenei: Strait of Hormuz must remain closed - CNBC
- Brent oil closes at $100 after Iran’s new supreme leader says Strait of Hormuz must remain closed - CNBC
- 2026 Strait of Hormuz crisis - Wikipedia
- イラン新最高指導者、ホルムズ海峡閉鎖継続を主張 - Bloomberg
- Energy Secretary Wright says U.S. ‘not ready’ to escort oil tankers through Strait of Hormuz yet - CNBC
- Iran war updates: IEA to release oil reserves - Al Jazeera
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