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by nicoxz

日欧ホルムズ共同声明が示す「ドンロー主義」への処方箋

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はじめに

2026年3月19日、日本と英国・フランス・ドイツ・イタリア・オランダの欧州5カ国の首脳が、ホルムズ海峡の安全航行に関する共同声明を発表しました。イランによるホルムズ海峡の事実上の封鎖を「最も強い言葉で非難する」とした声明は、その後カナダや韓国、オーストラリアなども加わり、わずか2日で参加国が20カ国に急増しています。

この声明は、翌日に控えた日米首脳会談を前に発表されたものであり、トランプ大統領が掲げる「ドンロー主義」の下で強まる米国からの圧力に対して、日欧が協調して対処する枠組みとしても機能しました。本記事では、共同声明の背景と意義、日米首脳会談との関係、そして今後の国際情勢への影響を解説します。

ホルムズ海峡封鎖の経緯と影響

米国・イスラエルによるイラン攻撃

事態の発端は2026年2月28日に遡ります。米国とイスラエルがイランの軍事施設に対して突如攻撃を開始し、イランの最高指導者ハメネイ師が殺害されました。この攻撃に対するイランの報復行動として、ペルシャ湾岸地域での軍事行動が活発化し、ホルムズ海峡が事実上の封鎖状態に陥りました。

イランのアラグチ外相は海峡封鎖の意図を否定していますが、イラン革命防衛隊がタンカー3隻を攻撃したと表明するなど、実態としては海峡の安全な通航が著しく困難になっています。それまで1日あたり約120隻が通航していたホルムズ海峡は、3月6日時点でわずか5隻にまで激減しました。

世界経済と日本への深刻な影響

ホルムズ海峡はペルシャ湾とインド洋を結ぶ海上交通の要衝です。サウジアラビアやUAEなどの産油国から、1日あたり約2,000万バレルの原油と石油製品がこの海峡を通じて輸出されており、世界の原油供給の約5分の1を占めています。

日本への影響は特に深刻です。2022年にロシア産原油の輸入を控えた結果、日本はほぼ全ての原油を湾岸産油国から輸入する体制となっており、原油の中東依存度は2025年に約94%に達しています。ホルムズ海峡を経由した原油輸入量は全体の9割にのぼり、封鎖が長期化すればエネルギー供給に甚大な影響が及びます。北海ブレント原油価格は、攻撃前日の2月27日の1バレル73ドルから、3月1日には78ドルまで急騰しました。

日欧6カ国共同声明の内容と意義

声明の核心

外務省が公表した共同声明の正式名称は「ホルムズ海峡に関する英・仏・独・伊・蘭・日の首脳による共同声明」です。声明の核心は以下の3点に集約されます。

第一に、ペルシャ湾でのイランによる非武装の商船や民間の石油・ガス施設への攻撃、ホルムズ海峡の事実上の封鎖を「最も強い言葉で非難する」こと。第二に、イランに対して機雷敷設・ドローン・ミサイルによる攻撃、商船航行の妨害を即時にやめるよう求めること。第三に、安全な航行の確保を目的とした「適切な取り組みに貢献する用意がある」と表明したことです。

20カ国への急速な拡大

当初6カ国で発表された共同声明は、翌日にカナダが加わり7カ国となりました。その後、韓国・ニュージーランド・スウェーデンなどが次々と参加を表明し、3月21日にはオーストラリアのアルバニージー首相も参加を発表しました。わずか2日で20カ国にまで拡大したことは、国際社会がホルムズ海峡の問題を看過できないと考えていることを如実に示しています。

なお韓国については、当初声明への参加を提案されたものの加わらず、発表から一夜明けて参加を表明したとの報道もあり、各国の外交的な駆け引きが垣間見えます。

「ドンロー主義」と日米首脳会談

トランプ大統領の「ドンロー主義」とは

共同声明の意義を理解するには、トランプ大統領が掲げる「ドンロー主義(Don-roe Doctrine)」を知る必要があります。これは19世紀のモンロー主義をトランプ流に拡大解釈した外交方針で、トランプ自身の名前「ドナルド」とモンロー主義を掛け合わせた造語です。2026年1月のベネズエラへの軍事介入の際にトランプ大統領自らがこの言葉を使い、西半球における米国の圧倒的な主導権を主張しました。

ドンロー主義の特徴は、米国の国益や安全保障に関わる問題について、同盟国にも相応の「貢献」を強く求める点にあります。ホルムズ海峡の問題でも、トランプ大統領は日本を含む同盟国に軍事的な貢献を要請していました。

共同声明が果たした外交的役割

高市早苗首相は3月19日(日本時間3月20日)にワシントンで日米首脳会談に臨みました。この会談で、トランプ大統領はホルムズ海峡の航行の自由を確保するための「貢献」を日本に要請しています。

ここで共同声明が重要な役割を果たしました。高市首相は、日本が法的にできることとできないことをトランプ大統領に説明し、自衛隊の海外派遣に関する法制上の制約への理解を求めました。同時に、日米首脳会談の直前に発表された日欧6カ国の共同声明は、日本が単独ではなく国際社会と連携してホルムズ海峡問題に対処する姿勢を明確に示すものとなりました。

つまり、共同声明は米国からの軍事的貢献の圧力を緩和する「緩衝材」の役割を果たしたのです。日本は武力行使はできないが、国際的な枠組みの中で外交的な貢献を主導しているという立場を示すことで、トランプ大統領との交渉における立場を有利にしたと考えられます。

日米首脳会談のその他の成果

首脳会談では、ホルムズ海峡以外にも多岐にわたるテーマが議論されました。高市首相はイラン情勢について「早期沈静化の必要性」をトランプ大統領に伝えています。経済面では、小型原発建設を含む対米投融資の第2弾について合意が成立しました。安全保障分野では、ミサイルの共同開発・共同生産を含む幅広い協力を進めることで一致し、エネルギー安定供給や重要鉱物、AI技術などの経済安全保障分野での協力強化も確認されています。

今後の展望と注意点

声明から行動へ移す段階

共同声明は重要な第一歩ですが、「適切な取り組みに貢献する用意がある」という表現は、具体的な行動を約束したものではありません。今後、参加国がどのような形でホルムズ海峡の安全航行に実質的に寄与するかが問われます。

日本の場合、憲法上の制約から自衛隊の武力行使を伴う海外展開は困難です。しかし、海上自衛隊による情報収集活動の拡大や、護衛艦の派遣による「航行の安全確保」への貢献など、法制度の枠内でできる選択肢は存在します。2019年から中東海域で実施している情報収集活動の実績を活かす形が現実的な選択肢です。

エネルギー安全保障の見直し

ホルムズ海峡の封鎖は、日本のエネルギー安全保障の脆弱性を改めて浮き彫りにしました。中東依存度94%という現状は、地政学的リスクに対する備えとして十分とは言えません。原油の調達先の多様化や、再生可能エネルギーの拡大、戦略的石油備蓄の活用など、中長期的な対策の加速が求められています。

まとめ

日欧6カ国のホルムズ海峡共同声明は、単なるイラン非難にとどまらず、トランプ政権の「ドンロー主義」がもたらす一国主義的な圧力に対する国際協調の処方箋としても機能しました。高市首相は共同声明を外交カードとして活用し、日米首脳会談で法的制約への理解を引き出すことに成功しています。

参加国が20カ国に急拡大したことは、この枠組みへの国際的な支持の広がりを示しています。今後は声明の理念を具体的な行動に落とし込む段階に入ります。日本がエネルギー安全保障と外交の両面で、どのような実効性ある貢献を行えるかが問われています。

参考資料:

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