日本が石油備蓄2割放出へ、中東危機で先手
はじめに
高市早苗政権は、国際エネルギー機関(IEA)加盟国による協調放出の正式決定を待たず、国内で備蓄する石油の約2割にあたる約8,000万バレルを3月16日にも放出開始する方針を決めました。あわせて、ガソリン価格の高騰に対応するため、燃料補助金を3月19日の出荷分から再開します。
背景にあるのは、2月末の米国・イスラエルによるイラン攻撃に端を発する中東情勢の急速な悪化です。ホルムズ海峡が事実上の封鎖状態に陥り、原油の中東依存度が94%に達する日本は、エネルギー供給の危機に直面しています。本記事では、備蓄放出の詳細と今後の見通しを解説します。
石油備蓄放出の全容
IEAに先立つ異例の単独判断
IEAは3月11日、加盟国に対して過去最大規模となる合計約4億バレルの石油備蓄協調放出を提案しました。これは2022年のロシアによるウクライナ侵攻時の放出規模を大きく上回るものです。
高市政権はこのIEAの正式決定を待たず、日本単独で備蓄放出に踏み切る判断をしました。中東からのタンカー到着が大幅に減少する見通しであることから、一刻も早い対応が必要と判断した形です。
放出の具体的な内容
日本の石油備蓄は、国家備蓄、民間備蓄、産油国共同備蓄の3つで構成されています。2025年12月末時点で、国家備蓄は146日分、民間備蓄は101日分、産油国共同備蓄を含め合計約254日分(約7,445万キロリットル)が確保されていました。
今回の放出では、まず民間備蓄の15日分を即時放出し、3月下旬以降には国家備蓄の約1カ月分を追加放出する計画です。放出量は合計約8,000万バレルに達し、2022年のウクライナ危機時に放出した2,250万バレルの約3.5倍という過去最大の規模です。
ホルムズ海峡封鎖がもたらす供給危機
通航隻数は120隻から5隻に激減
2月28日、米国とイスラエルがイランに対する軍事攻撃を開始しました。これに対しイラン革命防衛隊は3月2日、世界のエネルギー輸送の要衝であるホルムズ海峡の封鎖を宣言しました。
ホルムズ海峡はペルシャ湾と外洋を結ぶ唯一の出口で、2024年時点で日量約1,420万バレルの原油と約590万バレルの石油製品が通過していました。これは世界の海上石油輸送量の25%以上、世界の石油消費量の約20%に相当します。
封鎖宣言後、それまで1日あたり約120隻が通航していた海峡の通航隻数は、3月6日時点でわずか5隻にまで激減しました。
原油価格は72ドルから110ドルへ急騰
国際原油価格は急激な上昇を見せています。北海ブレント原油価格は、攻撃前日の2月27日には1バレルあたり72ドルでしたが、3月9日には110ドルまで急騰しました。約2週間で53%もの上昇です。
日本向けのLNG(液化天然ガス)のスポット価格も、同期間に100万BTUあたり10ドルから15ドルへと50%上昇しています。
ガソリン補助金の再開と国民生活への影響
廃止から3カ月で異例の復活
ガソリン補助金(燃料油価格激変緩和補助金)は、暫定税率の廃止に伴い2025年末に終了していました。しかし、中東危機による原油価格の急騰を受けて、廃止からわずか3カ月で再開に追い込まれた形です。
3月2日時点のレギュラーガソリン全国平均価格は158.5円/Lで3週連続の値上がりとなっていますが、原油価格の上昇がガソリン小売価格に本格的に反映されるのはこれからです。補助金がなければ180円台を超える見通しとされています。
財源の課題
2026年度予算にはガソリン補助金は計上されていないため、予備費の活用や補正予算の編成による財源確保が課題となります。エネルギー価格の高騰が長期化すれば、財政負担は大きく膨らむ可能性があります。
注意点・展望
備蓄放出は「時間稼ぎ」にすぎない
石油備蓄の放出は、供給不足を一時的に補う緊急措置です。254日分の備蓄があるとはいえ、中東からの供給が完全に途絶えた場合、放出だけで長期間の需要を賄うことは困難です。専門家からは「約2週間分の時間稼ぎ」にすぎないとの指摘もあります。
根本的な解決には、中東情勢の安定化や代替調達先の確保が不可欠です。日本は原油輸入の94%を中東に依存しており、このエネルギー安全保障上の脆弱性が改めて浮き彫りになりました。
IEA協調放出の実効性
IEA加盟国による合計4億バレルの協調放出が実現すれば、短期的には原油価格の上昇を抑制する効果が期待されます。しかし、ホルムズ海峡の封鎖が長期化した場合、備蓄放出だけでは世界的な供給不足を解消できません。軍事衝突の行方が、エネルギー市場の最大の不確定要素となっています。
まとめ
日本政府がIEAの正式決定に先立って石油備蓄の大規模放出を決断したことは、中東危機の深刻さを物語っています。8,000万バレルという過去最大規模の放出に加え、ガソリン補助金の異例の復活という二段構えの対策は、国民生活への影響を最小限に抑える狙いがあります。
ただし、これらはあくまで時間的猶予を確保するための緊急措置です。中東情勢の推移を注視しつつ、調達先の多様化や再生可能エネルギーの活用拡大など、中長期的なエネルギー安全保障戦略の見直しが急務となっています。
参考資料:
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