キオクシアと古河電工、急騰後なお上値を探る視点
はじめに
株価が短期間で何倍にもなると、多くの投資家は「もう高すぎるのではないか」と考えます。実際、2026年4月15日時点でキオクシアホールディングス株は1年騰落率が1565%、古河電工株は923%と、どちらも異常値に見えるほどの上昇率を記録しています。チャートだけを見れば、逆張りしたくなる局面です。
ただし、米テック株の分析で重視されるのは、足元の株価上昇率そのものではなく、利益成長に対して株価がどこまで先回りしているかです。いわゆるPERやPEGの考え方です。この記事では、キオクシアと古河電工を「急騰株」としてではなく、AIインフラ需要を取り込む成長株として見直した場合に、なお上昇余地があるのかを整理します。
急騰を支えた事業変化
キオクシアの再評価
キオクシアの株価上昇は、単なる半導体テーマ物色ではありません。2026年2月のTrendForce報道によれば、同社の2025年12月期第3四半期売上高は5436億円と過去最高を更新し、純利益は895億円でした。さらに第4四半期の売上高見通しは中間値で約8900億円と、市場予想の6482億円を大きく上回りました。ここで市場が見たのは、NAND市況の回復ではなく、AIサーバー向け需要がメモリー企業の利益水準そのものを押し上げ始めたことです。
TrendForceの記事では、キオクシアが2026年のNAND市場について「需給は引き締まった状態が続く」と説明し、2026年の需要ビット成長率は前年比で10%台後半、しかも2026年の生産能力はすでに売り切れていると伝えています。これは価格主導の回復というより、AIデータセンター需要が供給計画を上回り始めたことを意味します。メモリー株の評価は、景気循環株としての低PERだけでなく、供給制約下の成長株としての見方へ移りやすくなります。
製品面でも、キオクシアはAI用途の説明力を強めています。2026年3月17日には、GPUが高速フラッシュメモリーへ直接アクセスできる「KIOXIA GPシリーズ」を発表しました。4月15日公開の技術解説では、同シリーズの第1世代製品はPCIe 6.0対応で、将来はPCIe 7.0世代で1億IOPSを目指すとしています。AIモデルの大規模化でKVキャッシュの負担が増えるなか、HBMを補完する低遅延ストレージという位置付けは、単なるNANDメーカーからAIメモリー階層の一角へ評価軸を押し広げる材料です。
加えて、需給以外の株価押し上げ要因もありました。キオクシアは2026年4月1日から日経平均株価の構成銘柄に採用されています。指数連動資金の流入は短期的な需給改善につながりやすく、Reutersは3月5日時点で、上場後の株価がすでに12倍超に上昇していると伝えました。つまり同社株は、業績期待、AIテーマ、指数採用という三つの資金流入経路を同時に持っています。
古河電工の変質
古河電工も、従来の「電線株」や「素材株」という見方だけでは説明しにくくなっています。2026年2月9日の会社開示では、2025年度第3四半期累計の売上高は9489億円、営業利益は351億円、親会社株主に帰属する利益は355億円でした。通期見通しも上方修正され、売上高1兆3000億円、営業利益560億円、最終利益540億円を見込んでいます。とくに会社は、コミュニケーションソリューション事業でデータセンター関連製品の販売増が続き、営業利益が従来予想を上回ると明記しました。
株価がより強く反応したのは、AIインフラ向けの供給能力増強が、単発受注ではなく設備投資を伴うトレンドに見えたからです。2026年3月12日、古河電工グループのLighteraは、13824心の超多心光ファイバーケーブルの量産開始を発表しました。従来製品の2倍の伝送容量を持ち、三重事業所の専用工場稼働によって、生産能力は2023年度比で2倍超へ拡大したとしています。生成AI時代のハイパースケールデータセンターは、GPUを並べるだけではなく、建屋間やラック間の高密度接続が必要です。このボトルネックを解く部材企業として、古河電工の位置付けが変わっています。
さらに同社は、光だけでなく冷却でもAI需要を取り込もうとしています。機能製品セグメントの説明では、2025年度実績で放熱・冷却製品の需要を取り込み、セグメント売上高は1470億円、営業利益は140億円へ拡大しました。加えて、データセンター向けでは従来の空冷ヒートシンクに加え、水冷モジュールの量産を始めるため新工場を整備するとしています。別の会社資料では、AI向けデータセンターでは高性能チップの発熱増大により、空冷から液冷までを含む包括的な熱対策が必要だと説明しています。
古河電工の再評価が興味深いのは、光ファイバー、コネクター、放熱、液冷という複数の部材が、すべてAIデータセンターの増設という一本のストーリーに収れんしている点です。単独製品のブームではなく、AIインフラ全体への面展開が起きているため、利益拡大の持続性に対する期待が生まれやすいです。
米テック株流の評価軸
PERからPEGへの発想
米テック株では、高PERそのものを危険視するより、成長率で割り戻して妥当かどうかを見る考え方が広く使われます。T. Rowe Priceは2026年2月時点で、ビッグテックの評価は利益成長を踏まえるとなお合理的で、PEG比率でみると大型テックや大型半導体は市場全体より割高とは言い切れないと説明しました。つまり「高いか安いか」は、株価水準単独ではなく、利益がどれだけ伸びるかとの関係で判断すべきだという発想です。
この見方をキオクシアに当てはめると、チャートの過熱感と指標の印象が大きくずれます。Stock Analysisによれば、2026年4月15日時点のキオクシア株価は3万2410円、時価総額は17.68兆円、1年騰落率は1565%です。一方で同日時点のForward PERは8.10倍でした。トレーリングPERは106倍でも、投資家は直近の利益水準ではなく、AI需要を織り込んだ先行利益を見ています。急騰後でもForward PERが一桁なら、市場は「すでに高すぎる」と断じているわけではありません。
古河電工は少し異なる見方が必要です。2026年4月15日時点で株価は4万4240円、時価総額は3.11兆円、1年騰落率は923%でした。トレーリングPERは59.33倍、Forward PERは50.78倍です。数値だけを見ればキオクシアより割高です。ただし、同社はまだAIインフラ関連の利益寄与が事業全体に十分反映されきっていない移行局面にあります。売上高1.27兆円に対し時価総額3.11兆円ですから、時価総額売上高倍率は筆者試算で約2.4倍です。市場は高利益率の純AI銘柄ではなく、「旧来事業を持つインフラ部材企業がAIで変身する可能性」に賭けていると読めます。
上昇余地をどう測るか
米国の成長株投資で重視されるのは、利益予想の上方修正が株価上昇にまだ追いついていない銘柄です。キオクシアはその典型です。第4四半期売上高見通しの中間値8900億円は、市場予想を大きく上回りました。しかも2026年の生産能力は売り切れとされ、SanDiskとの契約見直しで2026〜2029年に計11.65億ドルを受け取る見通しも示されています。需給、製品競争力、契約条件の改善が同時進行しているため、利益予想の切り上がりが続くなら、株価がさらに上を試しても不思議ではありません。
古河電工は、利益予想そのものより「どの事業が利益率を押し上げるか」が焦点です。会社側はコミュニケーションソリューションの増益と、放熱・冷却製品の増産を明示しています。ハイパースケールデータセンター向け超多心ケーブルの量産、水冷モジュールの量産準備、AIデータセンター向け熱対策ソリューションの拡張が、個別材料ではなく一連の設備能力拡張として並んでいる点は重要です。部材企業の評価は、売上より稼働率とミックス改善で大きく変わります。もしAI向け高付加価値製品の比率が高まれば、現時点で高く見えるPERも低下しやすいです。
注意点・展望
もっとも、上昇余地があることと、短期的に安全であることは別です。キオクシアの最大のリスクは、メモリー市場が依然として循環産業である点です。2026年の生産能力売り切れや価格上昇は強力な材料ですが、AI投資の減速や技術の省メモリー化が起きれば、需給は想定より早く緩む可能性があります。Forward PERが低いのは魅力ですが、それは利益予想の前提が崩れない限りにおいてです。
古河電工は、さらに実行リスクが大きい銘柄です。AI向けの光・冷却需要を取り込めても、全社としては自動車、エネルギー、機能製品など多事業を抱えています。会社資料でも、機能製品では半導体プロセス用テープの需要回復遅れや銅価格上昇が重荷だと説明しています。つまりAI関連の強さだけで全社利益が決まる構造ではありません。投資家は、AI向け高採算製品の伸びが他部門の逆風を上回るかを確認する必要があります。
そのうえで今後を見ると、両社とも次のチェックポイントは明確です。キオクシアは2026年5月15日に本決算を予定しており、AI需要を前提にした利益見通しがどこまで積み上がるかが焦点です。古河電工は2026年5月12日の決算で、データセンター関連製品の利益寄与がどの程度通期計画へ反映されるかが問われます。いずれも、株価の勢いより利益予想の上方修正幅を見る局面に入っています。
まとめ
キオクシアと古河電工の株価は、たしかに急騰しました。ただし、米テック株流に「利益成長で株価を測る」視点へ切り替えると、見え方は大きく変わります。キオクシアはAIメモリー需給の逼迫と先行利益の急拡大を背景に、急騰後でもForward PERが一桁にとどまります。古河電工は光と冷却の両面でAIデータセンター需要を取り込み、事業の質が変わりつつあります。
結論として、両銘柄は「高くなった株」ではなく、「利益の見られ方が変わった株」と考えるほうが実態に近いです。上昇余地の有無は、チャートの角度ではなく、次の決算で利益予想がさらに切り上がるかどうかで判断すべきでしょう。
参考資料:
- KIOXIA Holdings Investor Relations
- Kioxia Holdings Added to the Nikkei Stock Average
- KIOXIA GPシリーズ発表
- KIOXIA GP Series 技術解説
- TrendForce: Kioxia Posts Record Q3 Revenue
- Kioxia Holdings Stock Price & Overview
- Furukawa Electric Financial Summary and Forecasts
- Furukawa Electric Financial Results and FACT BOOK
- Furukawa Electric 13824心光ファイバーケーブル量産開始
- Furukawa Electric Functional Products Segment
- Furukawa Electric Thermal Management and Cooling Solutions
- Furukawa Electric Data Center Solutions
- Furukawa Electric Stock Price & Overview
- T. Rowe Price: Tech Tour 2026
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