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by nicoxz

NY原油が119ドル台に急騰、イラン情勢が市場を直撃

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はじめに

2026年3月8日、ニューヨーク商業取引所(NYMEX)の原油先物市場で、米国産標準油種WTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)の先物価格が一時1バレル=119ドル台に達しました。これは2022年6月以来、約3年9カ月ぶりの高水準です。背景には、米国・イスラエルによるイラン攻撃に端を発した中東情勢の急激な悪化があります。

イランの最高指導者アリ・ハメネイ師が2月28日の攻撃で死亡し、その後継として次男のモジタバ・ハメネイ師が専門家会議によって選出されました。モジタバ師は反米強硬派として知られており、軍事的緊張のさらなる激化が懸念されています。本記事では、原油価格急騰の要因、ホルムズ海峡封鎖の影響、そして日本経済への波及について詳しく解説します。

原油価格急騰の背景と要因

米国・イスラエルのイラン攻撃と市場の反応

2026年2月28日、米国はイスラエルと共同でイランに対する大規模な軍事攻撃を開始しました。核開発をめぐる外交交渉の決裂が直接的な引き金とされています。この攻撃により、イランの最高指導者アリ・ハメネイ師が死亡するという衝撃的な事態が発生しました。

原油市場は即座に反応し、攻撃前の2月27日にWTIが1バレル約70ドル台後半だった価格は、わずか10日間で約50%上昇しました。3月8日の時間外取引では一時119.48ドルを記録し、市場参加者の間に動揺が広がりました。特に注目すべきは、先週1週間のWTI先物の上昇率が約36%に達し、1983年の先物取引開始以降で最大の週間上昇率を記録したことです。

イスラエル軍のテヘラン空爆と石油施設への打撃

3月7日には、イスラエル軍がイランの首都テヘランにある石油貯蔵施設などを空爆したと報じられました。イランは世界有数の産油国であり、同国の石油インフラへの直接的な攻撃は、世界の原油供給に対する深刻な懸念を引き起こしました。

さらに、湾岸地域ではアラブ首長国連邦(UAE)やクウェートが原油生産の削減を開始し、イラクの生産量も約60%減少したと報じられています。これらの供給サイドの縮小が、原油価格を一段と押し上げる要因となりました。

過去の原油急騰との比較

歴史を振り返ると、原油価格の急騰は常に中東の地政学リスクと密接に結びついてきました。1973年の第一次オイルショックでは、第四次中東戦争をきっかけにOPECが原油価格を約4倍に引き上げ、世界経済に甚大な影響を与えました。1979年の第二次オイルショックでは、イラン革命とイラン・イラク戦争の影響で原油価格が約2.7倍に跳ね上がりました。

今回の急騰は、これらの歴史的な事例と比較しても極めて急激なペースで進行しています。わずか1週間で36%という上昇率は、先物取引の歴史上前例のない規模です。ただし、1バレル119ドルという水準は、2008年のリーマン・ショック前に記録した147ドルの史上最高値にはまだ届いていません。

モジタバ・ハメネイ師の選出とホルムズ海峡封鎖

新最高指導者モジタバ師とは何者か

2026年3月8日、イラン国営メディアは、聖職者で構成する「専門家会議」(定数88名)がモジタバ・ハメネイ師(56歳)を新たな最高指導者に選出したと報じました。モジタバ師は、殺害されたアリ・ハメネイ師の次男にあたります。

モジタバ師はこれまで公職に就いたことがなく、公の場に姿を見せることもまれでした。しかし、イランの情報・治安機関や精鋭軍事組織「革命防衛隊(IRGC)」との緊密な関係が知られており、政権の内部で大きな影響力を持っていたとされています。反米強硬派として知られるモジタバ師の選出により、イランが対米・対イスラエルの軍事的対決姿勢をさらに強める可能性が高まっています。

なお、この人事については国内外で議論を呼んでいます。シーア派の神学上の原則では、このような世襲的な権力継承は認められておらず、テヘラン市内では「モジタバに死を」と叫ぶ抗議の声も上がったと報じられています。国際社会の反応も割れており、ロシアのプーチン大統領が「揺るぎない支持」を表明した一方、トランプ米大統領は「気に入らない」と発言し、イスラエル軍は後継指導者の排除も辞さない姿勢を示しています。

ホルムズ海峡の事実上の封鎖

今回の原油価格急騰を語るうえで避けて通れないのが、ホルムズ海峡の封鎖問題です。3月2日、イラン革命防衛隊はホルムズ海峡の封鎖を宣言し、同海峡を通航しようとする船舶に警告を発しました。現地時間2月28日夜の時点で、海峡を通過する船舶は約7割減少したと報じられています。

ホルムズ海峡は、世界のエネルギー輸送における最大の要衝です。2024年の統計では、同海峡を通過した原油量は日量約1,420万バレル、石油製品は約590万バレルに達し、これは世界の海上石油輸送量の25%以上、世界の石油消費量の約20%に相当します。この「チョークポイント」が事実上閉ざされたことで、世界のエネルギー供給網に深刻な混乱が生じています。

一方、サウジアラビアは紅海沿岸のヤンブー港からの迂回輸出を開始するなど、産油国側も対応策を模索しています。しかし、迂回ルートの輸送能力には限界があり、ホルムズ海峡封鎖の影響を完全に相殺することは困難とみられています。

注意点・今後の展望

原油価格の今後については、複数のシナリオが想定されています。アナリストの分析によれば、現在の状況が4カ月間続いた場合、北海ブレント原油価格は1バレル135ドルまで上昇する可能性があります。一方、2カ月間の継続であれば110ドル超の水準にとどまるとの見方もあります。

日本経済への影響は特に深刻です。日本は原油輸入の約94%を中東地域に依存しており、タンカーの約8割がホルムズ海峡を経由しています。野村総合研究所の試算によれば、WTI原油先物価格が約30%上昇した場合、国内のレギュラーガソリン価格は1リットルあたり204円と200円の大台を超える計算になります。原油価格の上昇は、まずガソリン価格に反映され、その後、電気・ガス料金の上昇、さらには幅広い物価の上昇へと段階的に波及していくことが予想されます。

トランプ米大統領がホルムズ海峡の管理権取得を検討していると伝えられるなど、地政学的な不確実性は依然として高い状態です。投資家や企業は、原油価格のボラティリティが当面高止まりする可能性に備える必要があります。また、日本は254日分の石油備蓄を保有していますが、封鎖が長期化すれば備蓄の取り崩しだけでは対応しきれない局面も想定されます。

まとめ

NY原油先物のWTI価格が一時119ドル台に急騰した背景には、米国・イスラエルによるイラン攻撃、ホルムズ海峡の事実上の封鎖、そして反米強硬派モジタバ・ハメネイ師の最高指導者選出という、複合的な地政学リスクの高まりがあります。わずか1週間で約36%という歴史的な上昇率は、市場が中東情勢の先行きに極めて強い警戒感を抱いていることを示しています。

日本にとっては、中東依存度の高いエネルギー供給構造の脆弱性が改めて浮き彫りになった形です。短期的にはガソリン価格や光熱費の上昇を通じて家計への打撃が懸念されるとともに、中長期的にはエネルギー安全保障のあり方を根本から見直す契機となる可能性があります。今後の中東情勢と原油市場の動向を、引き続き注視していく必要があるでしょう。

参考資料

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