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by nicoxz

米国がイスラエルにイラン石油攻撃の自制を要請

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はじめに

2026年2月28日に開始された米国・イスラエルによるイランへの軍事作戦「エピック・フューリー作戦」は、開戦から約2週間が経過し、世界のエネルギー市場に甚大な影響を及ぼしています。こうした中、米ニュースサイトのアクシオスは3月10日、トランプ政権がイスラエルに対してイランのエネルギー施設、とりわけ石油インフラへの追加攻撃を控えるよう要請したと報じました。

この要請は、開戦以来初めて米国がイスラエルの軍事行動に明確な制約を求めたケースとして注目されています。原油価格の急騰が米国内の経済に直接的な打撃を与える中、トランプ大統領がエネルギー価格の抑制に神経をとがらせている現状が浮き彫りになりました。本記事では、この要請の背景、原油市場への影響、そして今後の展望について詳しく解説します。

米国の要請とその3つの理由

イスラエルの燃料貯蔵施設攻撃が引き金に

事の発端は、3月8日にイスラエルがイラン国内の30か所の燃料貯蔵施設に対して大規模な空爆を実施したことです。この攻撃は、イスラエルが事前に米国に通知した範囲を大幅に超えるものでした。アクシオスの報道によれば、トランプ政権はこの攻撃の規模に「失望」し、開戦以来初めて同盟国間の「重大な意見の相違」が表面化しました。

これを受けて、米政府は3月9日にイスラエルの政治指導部およびイスラエル国防軍(IDF)のエヤル・ザミル参謀総長に対し、エネルギー施設への追加攻撃を控えるよう直接要請しました。

トランプ政権が示した3つの理由

米国がこの要請を行った背景には、3つの戦略的な理由があります。

第一に、石油施設への攻撃はイランの一般市民を直接的に苦しめるという懸念です。イラン国民の相当数は現政権に反対しており、生活インフラへの攻撃は市民の反米・反イスラエル感情を高め、むしろ体制側への支持を強めるリスクがあります。テヘランでは石油施設攻撃後に有毒な「黒い雨」が降ったとの報道もあり、環境被害も深刻化しています。

第二に、トランプ大統領は戦後にイランの石油セクターと協力関係を築くことを構想しています。これはベネズエラに対して取ったアプローチと類似しており、石油インフラを破壊してしまうと戦後の経済再建や米国のエネルギー戦略に支障をきたすことになります。

第三に、イランの石油施設への攻撃がエスカレートすれば、イランが報復として湾岸諸国のエネルギーインフラに対する大規模攻撃を仕掛けるリスクがあります。サウジアラビアやUAEなどの石油施設が攻撃された場合、原油供給への打撃は現在をはるかに上回る水準になります。

原油市場の混乱とホルムズ海峡危機

原油価格が100ドルを突破

エピック・フューリー作戦の開始以降、原油市場は歴史的な混乱に陥っています。北海ブレント原油の価格は、開戦前の1バレルあたり約72ドルから急騰し、3月9日には一時110ドルに達しました。NPRの報道によれば、週間ベースの上昇率は「1983年の先物取引開始以来、史上最大」を記録しています。

3月11日時点ではブレント原油が一時100ドルを超えたものの、国際エネルギー機関(IEA)が世界の戦略石油備蓄から過去最大規模となる1億8,200万バレルの放出を準備しているとの報道を受け、88ドル付近まで下落する場面もありました。それでも、開戦前と比較すると依然として大幅な高値水準が続いています。

ホルムズ海峡の事実上の封鎖

原油価格高騰の最大の要因は、世界の石油消費量の約20%が通過するホルムズ海峡が事実上封鎖されたことです。イランの革命防衛隊は同海峡の航行を禁止する警告を発し、タンカーの通航量は約90%減少しました。150隻以上の船舶が海峡の外に停泊を余儀なくされ、世界各地への原油供給が圧迫されています。

イラク南部の主要油田もホルムズ海峡経由の輸出が困難となり、同国の産油量は紛争前の日量約430万バレルから約130万バレルへ、およそ7割の減少を記録しました。アナリストの間では、この混乱が長期化した場合、原油価格は120〜150ドルまで上昇する可能性があるとの見方も出ています。

米国内の政治的動向

グラハム上院議員も自制を要請

注目すべきは、イスラエルへの自制要請がトランプ政権だけでなく、共和党内からも上がっていることです。リンジー・グラハム上院議員は、自らがこの戦争の実現を後押ししたと認めつつも、イスラエルに対してイランの燃料インフラへの攻撃を控えるよう公に呼びかけました。

グラハム議員は「イラン国民がいずれ自らの運命を切り開く時、新しいより良い生活を始めるチャンスを損なうような標的を選ばないよう慎重であるべきだ」と述べ、戦後のイラン再建を見据えた発言を行っています。

トランプ大統領の「短期的な代償」発言

一方、トランプ大統領自身はエネルギー価格の高騰について「イランの核の脅威を排除するための小さな代償だ」と述べ、戦争終結後にはガソリン価格が「急速に下がる」と主張しています。クリス・ライト・エネルギー長官も、ガソリン価格の安定は「数か月ではなく数週間以内」に実現するとの見通しを示しました。

ただし、こうした楽観的な見通しに対しては懐疑的な声も多く、CNNは「トランプ大統領はイラン戦争による原油価格ショックから逃れられない」と報じています。

注意点・展望

石油施設は「最後の手段」か

トランプ大統領はイランの石油施設への攻撃を「最終手段(ドゥームズデー・オプション)」と位置づけています。イランが先に湾岸の石油施設を攻撃した場合にのみ使用する切り札として温存する戦略です。イスラエルが米国の要請を受け入れ、石油施設への追加攻撃を停止したことで、当面はさらなるエスカレーションは回避される見通しです。

今後の原油価格の行方

短期的には、IEAによる戦略石油備蓄の大規模放出が価格の安定に寄与する可能性があります。しかし、ホルムズ海峡の航行正常化がなければ、根本的な供給不安は解消されません。戦争の長期化は世界的なインフレ加速や景気後退のリスクを高めるとの分析もあり、日本を含むアジア諸国への影響も注視が必要です。

特に日本は中東への原油依存度が高く、野村総合研究所は原油価格の上昇が日本経済に与える影響について試算を公表しています。ガソリン価格の高騰や電気料金への転嫁など、国内の家計への負担増大も懸念されています。

まとめ

米国がイスラエルにイランの石油施設への攻撃自制を求めた今回の動きは、原油価格の高騰、戦後のイランとの関係構築、そして湾岸地域へのエスカレーション防止という3つの戦略的判断に基づいています。エピック・フューリー作戦の開始以来、ブレント原油は72ドルから一時110ドルまで急騰し、ホルムズ海峡の事実上の封鎖が世界のエネルギー供給を脅かしています。

今後は、IEAの戦略備蓄放出による価格安定化の効果、ホルムズ海峡の航行正常化の時期、そして戦争の終結に向けた外交的努力の行方が、エネルギー市場の動向を大きく左右することになります。日本を含む各国は、エネルギー調達の多角化やリスク管理体制の強化を急ぐ必要があります。

参考資料:

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