日銀の春利上げ確率6割、市場が織り込む背景とは
はじめに
日本銀行の金融政策をめぐり、市場の注目が一段と高まっています。2025年12月に政策金利が0.75%へ引き上げられて以降、次の利上げ時期がいつになるかが最大の焦点です。金利スワップ市場のデータによれば、4月までに0.25%の追加利上げが行われる確率は依然として約6割と織り込まれています。
リフレ派とされる新たな審議委員の人事案や、米国・イスラエルによるイラン攻撃という地政学リスクなど、利上げへの逆風要因は確かに増えています。しかし、市場の利上げ観測は意外にも根強く残っているのが現状です。この記事では、その背景にある要因を整理し、日銀が今後どのような判断を下す可能性があるのかを探ります。
金利スワップ市場が示す利上げ確率
OIS市場の読み方
金利スワップ市場、特にOIS(オーバーナイト・インデックス・スワップ)市場は、日銀の政策変更に対する市場参加者の予想を最も直接的に反映する指標です。東短リサーチなどが公表するデータによれば、6月決定会合後の政策金利水準は0.910%と見積もられており、6月までの利上げ確率は約73%に達しています。
4月に限っても約6割の確率が示されているということは、市場参加者の過半数が春の利上げを現実的なシナリオとして織り込んでいることを意味します。これは逆風材料が重なる中でも、日銀の利上げ路線に対する信認が根強いことを示しています。
なぜ確率が下がらないのか
利上げ確率が維持されている最大の理由は、日銀自身が利上げ路線を堅持する姿勢を崩していないことです。Bloombergの報道によれば、日銀は中東情勢の緊迫化を受けて内外経済の不確実性が高まる中でも、4月に利上げが必要な状況になる可能性を排除していません。
加えて、2026年春闘の賃上げ率が高水準を維持する見通しであることも大きな支援材料です。第一生命経済研究所の予測では、2026年の春闘賃上げ率は5.45%と前年並みの高い水準が実現する見込みとされています。賃金と物価の好循環が持続していることは、日銀が利上げを正当化する最も重要な根拠となります。
利上げに対する逆風要因
リフレ派審議委員の人事案
2026年2月25日、政府は日銀審議委員の後任人事案を国会に提示しました。3月末に任期満了となる野口旭委員の後任には中央大学名誉教授の浅田統一郎氏、6月末の中川順子委員の後任には青山学院大学教授の佐藤綾野氏がそれぞれ指名されました。
両氏はいずれも金融緩和と積極財政を重視する「リフレ派」とされており、高市首相の意向が色濃く反映された人選です。リフレ派が2人同時に就任すれば、政策委員会の構成が変わり、利上げへの慎重論が強まる可能性があります。ただし、ダイヤモンド・オンラインの分析では、リフレ派が2人加わっても現在の利上げ路線そのものは変わらないとの見方も示されています。
イラン情勢と原油価格高騰
2月28日に始まった米国・イスラエルによるイラン攻撃は、原油価格を一時1バレル100ドル超まで押し上げました。原油高は日本経済にとってコストプッシュ型のインフレ要因となりますが、同時に景気の下押し圧力にもなります。
野村総合研究所の試算によれば、WTI原油価格が100ドルで推移した場合、日本の実質GDPは1年間で0.30%低下し、物価は0.52%上昇するとされています。景気悪化と物価上昇が同時に進む「スタグフレーション」のリスクが意識されれば、日銀にとって利上げの判断はより難しくなります。
日銀の判断ポイント
3月会合は据え置きが有力
市場のコンセンサスでは、3月の金融政策決定会合では政策金利が据え置かれる公算が大きいとされています。4月1日から浅田氏が新たに審議委員に就任するため、その直前に駆け込みで利上げを行うことは日銀のスタイルに合わないとの見方が支配的です。
本命は4月会合
利上げの本命と目されているのは、4月27日・28日の決定会合です。この時点では春闘の第1次回答集計が出そろっており、賃上げの勢いを確認した上で判断できます。第一生命経済研究所は、2026年春闘から考える利上げタイミングとして4月会合の可能性を指摘しています。
一方、みずほリサーチ&テクノロジーズは、利上げ再開は2026年半ば以降になるとの見方を示しており、6月あるいは7月の会合が有力とする予測もあります。中東情勢の展開次第で、利上げ時期がさらに後ずれする可能性も残されています。
注意点・展望
市場が織り込む「確率6割」という数字は、あくまで金融市場の取引に基づく推計であり、日銀の意思決定そのものを示すものではありません。日銀は「データ次第」のスタンスを貫いており、経済指標や国際情勢の変化に応じて柔軟に判断を変える余地を残しています。
今後注目すべきポイントは、春闘の回答状況、イラン情勢の収束度合い、そして円相場の動向です。円安圧力がくすぶり続ける中、利上げは為替安定の手段としても期待されています。日銀が1995年以来の高金利水準から、さらにどこまで金利を引き上げるのかは、2026年の日本経済における最大のテーマの一つといえるでしょう。
まとめ
金利スワップ市場が示す春の利上げ確率は約6割と、逆風要因が増える中でも根強い水準を維持しています。リフレ派審議委員の人事やイラン情勢は不透明要因ですが、春闘での高い賃上げ率と日銀の利上げ路線堅持が市場の期待を支えています。
個人の資産運用や住宅ローンの判断においても、日銀の動向は直接的な影響を及ぼします。3月会合での据え置きが見込まれる中、本命とされる4月会合に向けて、春闘の結果や中東情勢の推移を注視することが重要です。
参考資料:
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