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by nicoxz

商品市場が未曾有の混乱、ジェット燃料が異常高騰

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はじめに

2026年2月末から3月にかけて、世界の商品市場はかつてないほどの混乱に見舞われています。米国とイスラエルによるイランへの軍事攻撃をきっかけに、エネルギー輸送の大動脈であるホルムズ海峡が事実上の封鎖状態に陥りました。

特に注目すべきは、ジェット燃料価格の「いびつな」高騰です。原油価格の上昇幅を大きく上回るペースで急騰しており、ロンドンの商品トレーダーたちは「一度も経験したことのないマーケット」と表現しています。本記事では、この未曾有の商品市場の混乱がなぜ起きているのか、そしてジェット燃料価格が突出して上昇している構造的な理由を解説します。

ホルムズ海峡封鎖がもたらした衝撃

タンカー通航の急減と滞留

2月28日の米国・イスラエルによるイラン攻撃を受け、ホルムズ海峡の状況は一変しました。攻撃前には1日あたり数百隻が通過していた同海峡ですが、2月28日から3月1日にかけて通過した船舶数はLNG船2隻、原油タンカー28隻を含むわずか126隻にまで激減しています。

3月2日午後の時点で、ペルシャ湾内にはLNG船17隻、原油タンカー250隻が滞留する異常事態となりました。日本郵船や川崎汽船など国内大手海運会社も通峡を停止しており、タンカー通航量は70〜80%減少したとされています。

さらに、オマーン湾で商船3隻が攻撃を受け船員に死傷者が出たことで、保険料(戦争リスクプレミアム)が急騰し、通航を試みる船舶のコストも跳ね上がっています。

カタールLNG施設への攻撃

混乱に拍車をかけたのが、イランによるカタールのLNG施設への攻撃です。3月2日、イランから発射されたドローンが、カタールのラスラファン工業都市とメサイード工業都市の施設を攻撃しました。

これを受けてカタールエナジーは、世界最大規模のLNG輸出施設での生産を停止し、顧客への供給義務について不可抗力(フォースマジュール)を宣言しました。カタールは世界のLNG輸出の約20%を占めており、この生産停止は欧州やアジアのガス市場に即座に波及しています。

オランダとイギリスの卸売ガス価格は約50%急騰し、アジアのLNG指標価格も39%近く上昇しました。

ジェット燃料価格の「いびつな」高騰

原油を大幅に上回る上昇率

今回の危機で最も際立っているのが、ジェット燃料価格の異常な高騰です。北海ブレント原油は攻撃前日の2月27日に1バレル73ドルだったものが85〜90ドル台へ上昇しましたが、これは約20〜25%の上昇にとどまります。

一方、アジアの指標であるシンガポールのジェット燃料価格は、1バレル約230ドルにまで跳ね上がり、上昇率は実に約140%に達しました。仮に原油がジェット燃料と同じ比率で上昇していた場合、ブレント価格は175ドル前後になる計算です。この「いびつさ」こそが、今回の商品市場の混乱を象徴しています。

なぜジェット燃料だけが突出して上がるのか

ジェット燃料がここまで突出して高騰している背景には、いくつかの構造的要因があります。

第一に、ジェット燃料の供給源が中東に集中していることです。精製済みのジェット燃料やその原料となるケロシン(灯油留分)は、中東の製油所からアジアや欧州へ大量に輸出されています。ホルムズ海峡の封鎖は、原油だけでなくこれら精製品の物流も直撃しました。

第二に、アジア地域でのタイミングの悪さがあります。シンガポールと韓国の製油所で定期メンテナンスが同時に行われていたため、代替供給の余力が極めて限られていました。需給がただでさえ逼迫していたところに、中東からの供給途絶が重なった形です。

第三に、戦争リスク保険料の上乗せです。ペルシャ湾周辺を航行する船舶の保険料が急騰し、仮にジェット燃料を積んだタンカーが通航を試みても、コストが大幅に上乗せされる状況になっています。

航空業界と日本経済への影響

航空会社に年間50億ドル超の追加負担も

ジェット燃料は航空会社の運航コストの20〜30%を占める最大の変動費です。ユナイテッド航空のスコット・カービーCEOは、今回の燃料価格高騰が航空会社の財務に「重大な影響」を及ぼすと警告し、燃料高が続けば運賃の引き上げが「かなり早く始まる」との見通しを示しました。

現在の価格水準が年末まで続いた場合、主要航空会社の追加燃料コストは合計で50億ドル(約7,500億円)を超える可能性があります。旅客への転嫁は避けられず、燃油サーチャージの大幅引き上げが確実視されています。

中東依存度94%の日本への打撃

日本にとって、ホルムズ海峡の封鎖は死活問題です。2022年のロシア産原油輸入の自主規制以降、日本のエネルギー中東依存度はさらに高まり、2025年時点で原油の中東依存度は約94%に達しています。ホルムズ海峡を経由する原油輸入量は全体の9割にのぼります。

原油価格の高騰は、ガソリン価格や物流コストの上昇を通じてインフレ加速の要因となります。すでに日本のCPI上昇率は高水準にありますが、エネルギー価格のさらなる上昇は家計や企業収益を一層圧迫する恐れがあります。

注意点・今後の展望

シナリオ別の価格見通し

今後の商品市場の動向は、米国とイランの交渉の行方に大きく左右されます。欧州調査会社ケプラーのアナリストによれば、4週間以内に米・イラン間で合意が成立した場合、ブレント原油は一時85ドルまで上昇するものの、2026年末には70ドル前後に落ち着く見通しです。

一方、紛争が長期化しホルムズ海峡の混乱が深刻化すれば100ドルに達する可能性があります。最悪のシナリオとして、イランが周辺国のエネルギーインフラを本格的に攻撃し、海峡の通航が完全に遮断された場合には、ブレント原油が130ドルを超える局面もあり得るとされています。

今後注視すべきポイント

短期的には、米国のタンカー護衛作戦の実効性と、イランの報復攻撃の範囲拡大の有無が焦点です。中期的には、各国の戦略備蓄の放出規模、代替輸送ルートの確保状況、そして米・イラン間の外交交渉の進展が、価格の方向性を決めることになります。

まとめ

2026年3月の商品市場は、ホルムズ海峡の事実上の封鎖という前例のない事態に直面しています。特にジェット燃料価格は原油を大幅に上回る異常な高騰を見せており、供給源の集中とタイミングの悪い製油所メンテナンスが重なった構造的な問題が浮き彫りになりました。

航空業界や日本経済への影響は深刻で、今後の展開は米・イラン間の交渉次第です。エネルギー安全保障の脆弱性が改めて露呈した今、商品市場の動向から目が離せない状況が続きます。

参考資料:

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