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by nicoxz

G7がホルムズ海峡護衛で協調、多国間海軍体制の構築へ

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はじめに

主要7カ国(G7)の首脳が2026年3月11日、ホルムズ海峡の安全確保に向けた重要な一歩を踏み出しました。フランス主催のオンライン首脳会合で、中東情勢が世界経済やエネルギー市場に与える影響を協議し、多国間による船舶護衛体制の構築に向けた検討を開始したのです。

議長国フランスのマクロン大統領は会合後の記者会見で、「今後数週間をかけて複数国の海軍が船舶の航行を護衛する体制をつくる」と表明しました。2月末の米国・イスラエルによるイラン攻撃以降、ホルムズ海峡は事実上の封鎖状態にあり、世界の石油供給の約20%が通過するこの海峡の安全回復は、国際社会にとって喫緊の課題です。

この記事では、G7の護衛体制構築の具体的な内容と背景、エネルギー市場への影響、そして日本にとっての意味を解説します。

ホルムズ海峡危機の現状と船舶護衛構想

事実上の封鎖がもたらした衝撃

2026年2月28日の米国・イスラエルによるイラン攻撃を受け、イランはペルシャ湾岸地域での軍事行動を活発化させました。複数の船舶が攻撃を受け、3月11日にはホルムズ海峡・ペルシャ湾で3隻に飛翔体が直撃し、貨物船が炎上する事態が発生しています。

海上保険各社はイラン情勢の急変を理由に、湾岸地域を航行する船舶向けの戦争リスク補償の引き受けを停止しました。その結果、ホルムズ海峡を通過する船舶数はイラン攻撃前日の95隻から、3月5日には4隻にまで激減しています。海峡は物理的に閉鎖されたわけではありませんが、保険なしでの航行はリスクが高すぎるため、実質的に通航不能の状態です。

マクロン大統領の護衛計画

マクロン大統領が示した船舶護衛計画は、「純粋に防衛的な」作戦として位置づけられています。具体的には、フリゲート艦8隻、航空母艦1隻、ヘリコプター搭載母艦2隻を地中海・紅海・ホルムズ海峡に配備する方針です。

重要なのは、この計画が即時実行ではなく「紛争の最も深刻な局面が過ぎた後」の段階的な再開を目指している点です。マクロン大統領は「これは国際貿易にとって不可欠であり、ガスや石油の流れにとっても重要だ」と強調しました。計画には欧州諸国だけでなく、非欧州諸国との共同準備も含まれています。

米国のタンカー護衛とG7の役割

米国もすでに独自の動きを見せています。トランプ大統領は3月3日、ホルムズ海峡での米海軍によるタンカー護衛と保険の提供を表明しました。ただし、米国単独の護衛には限界があるとの指摘もあり、イランの対艦ミサイルを誘発するリスクも懸念されています。

G7としては、各国の海軍力を結集した多国間体制を構築することで、護衛の実効性を高め、かつ特定の国への負担集中を避ける狙いがあります。首脳声明では「航行の自由の回復に向けて、船舶の護衛について検討を始めた」と表明しました。

エネルギー市場への影響と備蓄放出

原油価格120ドルに接近

ホルムズ海峡の事実上の封鎖は、エネルギー市場に即座に反映されました。WTI原油先物価格は1バレル120ドルの水準に接近し、危機前の水準から大幅に上昇しています。2024年にホルムズ海峡を通過した原油は日量1,420万バレル、石油製品が約590万バレルで、世界の海上輸送量の25%以上に相当します。

天然ガス市場でも深刻な影響が出ています。ホルムズ海峡を通過するLNG(液化天然ガス)の大半がアジア向けであり、日本をはじめとするアジア諸国のエネルギー供給に直結する問題です。

IEA加盟国による過去最大の備蓄放出

エネルギー供給の逼迫に対応するため、国際エネルギー機関(IEA)加盟32カ国は過去最大となる計4億バレルの石油備蓄の協調放出を全会一致で決定しました。国別の放出量は、日本が約8,000万バレルと最大規模で、次いで韓国が約2,246万バレル、ドイツが約1,800万バレル、フランスが1,450万バレル、英国が1,350万バレルとなっています。

G7首脳会合でもこのIEAの決定が歓迎され、日本は先陣を切って備蓄放出を発表しました。石油備蓄の放出は、戦争や大規模災害で供給が急減した際の「安全弁」として機能しますが、長期的な解決策ではなく時間稼ぎの措置です。

日本にとっての影響と課題

エネルギー供給の8割がホルムズ海峡経由

日本は日々消費する原油とLNGの約80%をホルムズ海峡経由で調達しています。ホルムズ海峡の通航困難は、日本のエネルギー安全保障にとって最も深刻なシナリオの一つです。

原油価格が持続的に1バレル120〜130ドルで推移した場合、日本の輸入コストは大幅に増加し、貿易赤字が拡大します。円安圧力が一段と強まり、2026年のGDPは想定よりも0.6%低下するとの予測も出ています。ガソリン価格や電気料金の上昇を通じて、家計への負担も増大する見通しです。

日本政府の対応と自衛隊派遣の議論

日本政府は3月2日にエネルギー対策本部を設置し、3月7日には志布志国家石油備蓄基地に原油放出準備態勢を指示しました。日本は政府・民間・共同合わせて約254日分の石油備蓄を保有しており、G7加盟国の中でも手厚い備蓄量を確保しています。

一方、高市首相はホルムズ海峡の機雷除去準備での自衛隊派遣について「想定できない」との立場を示しており、軍事的な関与には慎重な姿勢を維持しています。G7の護衛体制にどのような形で貢献するかは、今後の外交課題となります。

注意点・今後の展望

護衛体制構築までの空白期間

マクロン大統領の護衛計画は「紛争の最も深刻な局面が過ぎた後」を想定しており、実現までには数週間から数カ月かかる可能性があります。その間、ホルムズ海峡の通航困難が続けば、エネルギー価格の高止まりは避けられません。備蓄放出で時間は稼げても、供給構造の根本的な解決にはなりません。

エネルギー調達の多角化が急務

中長期的には、ホルムズ海峡に依存しないエネルギー調達ルートの確立が求められます。日本企業はすでに米国、オーストラリア、カナダ、インドネシア、マレーシアなどホルムズ海峡を通過しない地域からのLNG輸入増強を進めています。今回の危機は、エネルギー調達の多角化がいかに重要かを改めて突きつけました。

また、イラン情勢の収束が見通せない中、G7各国がどこまで足並みを揃えて護衛体制を維持できるかも不透明です。ロシア制裁との両立も含め、国際協調の真価が問われる局面です。

まとめ

G7首脳会合では、ホルムズ海峡の船舶護衛体制の構築に向けた検討が始まり、IEA加盟国は過去最大4億バレルの石油備蓄放出を決定しました。短期的にはエネルギー供給の安定化に一定の効果が期待できますが、護衛体制の実現と海峡の安全な通航回復には時間がかかります。

日本にとっては、約254日分の石油備蓄を有効に活用しつつ、調達先の多角化を加速させることが重要です。G7の護衛体制への貢献のあり方を含め、エネルギー安全保障の戦略を根本から見直す契機となるでしょう。

参考資料:

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