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by nicoxz

ホルムズ海峡護衛に欧州が慎重論を示す背景

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はじめに

米国とイランの軍事衝突が続く中、エネルギー輸送の要衝であるホルムズ海峡が事実上の封鎖状態に陥っています。トランプ米大統領は日本や欧州各国に対し、海峡の安全を確保するための艦船派遣を繰り返し要請しています。

しかし、英国のスターマー首相は「より広範な戦争には関わらない」と明言し、ドイツのメルツ首相も基本法(憲法)が求める国連等の委任がないことを理由に派遣を拒否しました。欧州全体で慎重論が広がる中、トランプ大統領の思惑は外れつつあります。

本記事では、欧州各国が慎重姿勢を示す背景と、ホルムズ海峡危機が世界経済に与える影響を解説します。

欧州各国の反応と慎重論の理由

英国:「より広範な戦争には関わらない」

スターマー英首相は3月16日、トランプ大統領との電話会談後、「英国はより広範な戦争には関わらない」と述べました。英国はホルムズ海峡での掃海活動に無人機を提供する用意があるとされていますが、艦船の派遣には懐疑的な姿勢を示しています。

英国にとって、米国との「特別な関係」は外交の基軸です。しかし、米国が主導する戦争に引きずり込まれるリスクと、欧州の同盟国との関係悪化の懸念が、慎重な判断につながっています。

ドイツ:基本法と「我々の戦争ではない」

ドイツの対応はさらに明確です。ワーデフール外相は3月15日、独軍艦を送らないと公共放送のインタビューで明言しました。翌16日にはピストリウス国防相が「そうした行動を取るいかなる理由も見当たらない」と述べ、紛争に引きずり込まれるリスクを指摘しました。

メルツ首相は、ドイツの基本法(憲法)が海外への軍事派遣に国連安保理決議などの国際的委任を求めている点を強調しています。「これは我々が始めた戦争ではない」という立場は、ドイツ国内で広く支持されています。

フランス・EU:条件付きの姿勢

フランスは他国との協調による護衛任務への参加に一定の意欲を示していますが、それは戦闘が沈静化した後という条件付きです。現在の戦闘が続く中での艦船派遣は検討していません。

EU外相会合でも、カラス外交安全保障上級代表が「ホルムズ海峡に自国民を危険にさらす用意のある国はない」と発言しました。紅海の航行確保を目的とするEU海軍任務「アスピデス」をホルムズ海峡に振り向ける案についても、消極的な立場が示されています。

トランプ大統領の要請と同盟関係への圧力

約7カ国への派遣要求

トランプ大統領は3月14日、日本、中国、英国、フランスなど約7カ国に対し、ホルムズ海峡への軍艦派遣を要求しました。海峡を通過する原油に依存するすべての国が安全確保に貢献すべきだという論理です。

しかし、公式に艦船派遣を表明した国は現時点でありません。トランプ大統領自身も「一部の国は乗り気ではない」と認めています。

NATOへの警告

トランプ大統領は英フィナンシャル・タイムズのインタビューで、ホルムズ海峡の護衛に協力しない場合「NATOにとって悪い未来が待っている」と警告しました。米国のNATOへの関与やウクライナ支援と、ホルムズ海峡問題を結びつける姿勢を鮮明にしています。

しかし、この圧力はむしろ欧州側の反発を招いています。欧州各国は、事前に協議なく始まった戦争の後始末に巻き込まれることへの不満を募らせています。

「有志連合」構想の行方

トランプ政権は、ホルムズ海峡の航行の自由を確保する「有志連合」の形成を目指していますが、合意の見通しは立っていません。過去にも2019年にイランによるタンカー攻撃を受けて「国際海洋安全保障構成体(IMSC)」が結成された前例がありますが、当時とは状況が大きく異なります。

現在は米国とイランが直接交戦中であり、護衛任務に参加すること自体がイランとの対立を意味します。欧州各国はこのリスクを重く見ています。

原油価格高騰と世界経済への影響

原油価格は100ドル超え

ホルムズ海峡の封鎖により、世界の原油供給は日量約800万バレルの減少に直面しています。通常、海峡を通過する原油は日量約2,000万バレルで、世界の消費量の約20%を占めます。

ブレント原油は一時1バレル106ドルを超え、戦争開始以降40%以上の上昇を記録しました。米国のガソリン価格も1ガロンあたり3.72ドル近くまで急騰し、2023年10月以来の高値となっています。

日本経済への影響

日本は原油輸入の約95%を中東に依存し、その約70%がホルムズ海峡を経由しています。ニッセイ基礎研究所の試算によると、ドバイ原油が110ドルまで上昇した場合、国内ガソリン価格は1リットルあたり204円前後に達する見込みです。

石油化学業界では、三井化学や三菱ケミカルなどがすでにエチレンの減産に着手しています。電気・ガス料金への波及も避けられず、家計への影響が広がる懸念があります。ただし、日本は消費254日分の石油備蓄を保有しており、物理的な供給途絶は当面回避される見通しです。

世界経済のリセッションリスク

ゴールドマン・サックスは2026年のインフレ予測を0.8ポイント引き上げて2.9%に修正し、GDP成長率見通しを0.3ポイント引き下げて2.2%としました。原油価格が1バレル110ドル台で1カ月間推移した場合、景気後退確率は25%に達するとの分析もあります。

スタグフレーション(景気停滞とインフレの同時進行)への懸念が高まっており、各国の中央銀行は難しい政策判断を迫られています。

注意点・今後の展望

ホルムズ海峡問題の行方は、米イラン間の戦闘の推移に大きく左右されます。トランプ政権は短期終結を見込んでいましたが、すでに開戦から2週間以上が経過し、目標は当初の核施設への限定攻撃から、イラン政権の転換にまで拡大しているとの指摘もあります。

欧州各国が護衛に参加しない場合、米国が単独で海峡の安全確保を担う負担が増大します。一方で、トランプ大統領がNATOへの関与を条件に同盟国への圧力を強めれば、大西洋同盟の亀裂がさらに深まる可能性があります。

日本に対しても艦船派遣の期待が示されており、日米首脳会談での議論が注目されます。自民党内にも慎重論がある中、どのような対応を取るかは日本の安全保障政策にとって重要な判断となります。

まとめ

トランプ大統領によるホルムズ海峡への艦船派遣要請に対し、英独仏をはじめ欧州各国は「戦争には関わらない」と慎重姿勢を貫いています。法的根拠の欠如、紛争拡大のリスク、事前協議なき戦争への不満が、慎重論の主な理由です。

一方、海峡封鎖の長期化は原油価格の高騰を通じて世界経済に深刻な打撃を与えています。日本を含む各国は、安全保障と経済的利益の両面から難しい判断を迫られています。有志連合の行方と米イラン戦争の推移が、今後の国際情勢を左右する最大の焦点です。

参考資料:

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