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by nicoxz

イラン戦争の出口見えず――後継指導者選びと米国の誤算

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はじめに

2026年2月28日、米国とイスラエルによるイランへの大規模空爆が開始され、イランの最高指導者アリー・ハメネイ師が死亡しました。開戦から1週間が経過した現在、軍事作戦そのものの行方に加え、ハメネイ師亡き後の「誰がイランを率いるのか」という後継指導者問題が、この紛争の帰趨を左右する最大の焦点となっています。

トランプ米大統領は当初、イランの完全な体制転換を呼びかけていましたが、3月5日のAxiosとのインタビューでは「現体制の内部から適切な人物を選ぶべき」との考えを表明し、方針の修正が見られます。一方、イラン側では専門家会議(定数88名)による次期最高指導者の選出作業が進行中ですが、戦時下での選出プロセスは混乱を極めています。本記事では、トランプ政権のイラン戦略がどう変遷してきたのか、そしてイランの後継指導者問題が和平にどのような影響を及ぼすのかを多角的に解説します。

トランプ政権のイラン戦略――揺れ動く目標設定

「体制転換」から「体制調整」へ

トランプ大統領のイラン政策は、開戦前後で大きく揺れ動いてきました。2026年2月13日、トランプ氏は「イランにおける体制転換は起こり得る最善のことだ」と明言し、イスラム共和国体制そのものの打倒を示唆しました。そして2月28日の空爆開始に際しては、Truth Socialに投稿した8分間のビデオ声明で、攻撃の目的が事実上の体制転換であることを認めました。

しかし、その後の発言は日を追うごとに変化しています。国防長官ピート・ヘグセス氏は3月3日、「これはいわゆる体制転換戦争ではない」と記者団に述べ、作戦の主目的はイランの核開発能力の破壊であると説明しました。ところがトランプ氏自身は同じ日に「イランの人々に自由を」と体制転換を想起させる発言を行っており、政権内部でも目標設定の整合性が取れていない状況が浮き彫りとなりました。

CNBCの報道によれば、トランプ政権の戦争目標は「核兵器開発の阻止」「弾道ミサイル戦力の削減」「テロ組織・代理勢力への支援停止」「体制転換」の間を行き来しており、CNNもトランプ氏の説明が「誇張された脅威と矛盾する目標」に特徴づけられると分析しています。

「内部から適切な指導者を」――パフラヴィー擁立の断念

戦略の転換を最も端的に示したのが、3月5日のAxios独占インタビューです。トランプ氏は「私は(次の指導者の)任命に関与しなければならない。ベネズエラのデルシー(・ロドリゲス)の時と同じだ」と述べ、後継指導者選びへの米国の直接関与を主張しました。

注目すべきは、トランプ氏が亡命中のレザー・パフラヴィー元皇太子(1979年のイラン革命で倒された旧王制の後継者)を後継候補から事実上除外したことです。パフラヴィー氏について問われたトランプ氏は、「彼を支持する人もいるが、我々はあまり考えていない。内部にいる人物の方がより適切だろう」と回答しました。The Nationalの報道でも、トランプ氏がパフラヴィー氏の擁立に消極的であることが確認されています。

一方で、米国のウィトコフ中東担当特使がトランプ氏の指示でパフラヴィー元皇太子と面会していたことも明らかになっており、当初は亡命勢力を通じた体制転換も選択肢に含まれていたことがうかがえます。結果として、外部から指導者を据えるのではなく、現体制内から親米的な人物を見出すという「体制調整」路線へと方針が転換されたと見られています。The Interceptは、この転換を「レジームチェンジ(体制転換)ではなく、レジームアジャストメント(体制調整)」と表現しています。

「無条件降伏」要求と交渉の頓挫

さらに事態を複雑にしているのが、トランプ氏の交渉姿勢です。Bloombergによると、トランプ氏は3月6日に「イランとのディールは無条件降伏以外にあり得ない」と述べ、交渉の余地を自ら狭めました。

イラン情報省がCIAに対し間接的に紛争終結に向けた協議を打診したとの報道もありましたが(Jerusalem Post)、トランプ氏はこの報道後にSNSで「もう遅すぎる」と投稿し、対話の扉を閉ざしました。イラン側も外相が停戦や新たな交渉を拒否する姿勢を示しており、外交的な出口は現時点で見えていません。

イランの後継指導者問題と和平の行方

暫定指導評議会の発足と選出プロセスの混乱

ハメネイ師の死去を受け、イラン憲法の規定に基づき、3月1日に「暫定指導評議会」が発足しました。評議会はペゼシュキアン大統領、モフセニエジェイー司法府長官、アラフィー護憲評議会メンバーの3名で構成され、新最高指導者が選出されるまで国家元首の職務を代行しています。

次期最高指導者の選出権限を持つのは、88名の聖職者で構成される「専門家会議」です。時事通信の報道によると、専門家会議は「議論は最終段階にある」として、早ければ翌週にも選出を行う方針を示しています。

しかし、選出プロセスは戦時下の混乱に見舞われています。Wikipediaの記録によれば、3月3日に行われた第1回のオンライン投票では「不自然な雰囲気」だったと参加者が証言しています。モジタバ・ハメネイ師に反対する意見を述べた議員には「限られた時間」しか与えられず、議論が打ち切られた上で採決が行われました。さらに、投票が完了した後、集計前に米イスラエル軍がゴム市にある専門家会議事務所を空爆するという事態も発生しています。手続きに対する異議が噴出したため、3月5日に第2回の選出セッションが開催されることとなりました。

モジタバ・ハメネイ師――最有力候補の素顔

後継者として最も有力視されているのが、ハメネイ師の次男モジタバ・ハメネイ師(56歳)です。ニューヨーク・タイムズは3月3日、複数のイラン当局者の話として、革命防衛隊がモジタバ師を推しているとの情報を報じました。

モジタバ師は公職に就いた経験がないものの、父ハメネイ師の最側近として長年活動し、権限の一部を委譲されてきた人物です。革命防衛隊との緊密な関係を持つ強硬派の聖職者であり、Al Jazeeraの分析でも「権力構造の中枢に深く根を張っている」と評されています。

トランプ氏はAxiosのインタビューでモジタバ師について「軽量級だ。私にとって受け入れられない」と一蹴し、「(新指導者が)反米強硬路線を継続するなら、5年以内に米軍が戻ることになる」と警告しました(毎日新聞)。

その他の候補者たち

カーネギー国際平和財団の分析によると、モジタバ師以外にも複数の候補が取り沙汰されています。ハメネイ師の側近であるアスガル・ヒジャーズィー師、アリー・ラーリージャーニー師、サーデグ・ラーリージャーニー師、アリレザー・アラフィー師、モハンマドマフディー・ミールバーゲリー師、モフセン・アラキー師などが挙がっています。また、イスラム共和国の創設者ホメイニー師の孫であるハサン・ホメイニー師の名前も浮上しています。

しかし、専門家の間では「現体制内からトランプ氏の要求を受け入れる人物を見つけることは困難」との見方が支配的です。PBS Newsの報道でも、ある分析官が「既存のイラン体制内部から(トランプ氏が望むような)人物を見つけることはできないだろう」と指摘しています。

注意点・展望――「永遠の戦争」のリスク

この紛争の最大の問題は、出口戦略が明確でないことです。ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)の分析は、「曖昧な期限、不明確な勝利目標、出口戦略の欠如、そして容易な終結手段がない」と米国の戦略的課題を端的にまとめています。

CNBCの報道では、米政府関係者が「永遠の戦争にはならない」と主張する一方、複数の専門家がこれに異を唱えています。半世紀近くにわたってイスラム共和国を支えてきた権力構造やネットワークは深く根付いており、地上軍を投入しない空爆だけでは体制転換はおろか、親米的な後継政権の樹立も極めて困難だとの指摘が相次いでいます。

さらに懸念されるのは、イランの後継指導者選出が米国の想定とは異なる方向に進む可能性です。Jerusalem Postの論説は、「体制は予測可能な行動を取る。『改革』として包装された『許容可能な』後継体制を作り上げ、革命防衛隊を中心とした体制を温存するだろう」と警告しています。トランプ政権がこの「偽装された改革」を本物の変化と見なしてしまえば、体制が最も脆弱な瞬間に延命の機会を与えることになりかねません。

まとめ

2026年のイラン紛争は、軍事作戦の段階を超えて、「誰がイランの次の指導者になるのか」という政治的問題が中心的な課題となっています。トランプ大統領は完全な体制転換から現体制内の親米的指導者の擁立へと方針を修正しましたが、ハメネイ師の息子モジタバ師が最有力候補として浮上する一方で、米国の意向に沿う候補は見当たらないのが現実です。

交渉の窓口も事実上閉ざされた中、明確な出口戦略を持たないまま紛争が長期化するリスクは日増しに高まっています。リチャード・ハース元米外交問題評議会会長が指摘するように、「開戦1週間で戦争の終わり方が見えない」という状況は、この紛争が中東地域全体の安定を揺るがす長期的な危機へと発展する可能性を示唆しています。

参考資料

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