トランプ氏「イラン戦争ほぼ完了」の真意
はじめに
2026年3月9日、トランプ米大統領は米CBSテレビのインタビューで「戦争はほぼ完了した」と述べ、対イラン軍事作戦の終結が近いとの認識を示しました。2月28日に開始された攻撃からわずか10日での発言です。
当初4〜5週間と見込まれていた作戦期間を「予定より大幅に前倒し」できるとも語りましたが、一方で共和党議員との会合では「まだ十分に勝っていない」とも発言しており、情報が錯綜しています。本記事では、戦争の経緯と現状、石油利権をめぐる動き、そして今後の展望を整理します。
軍事作戦の経緯
2月28日の攻撃開始
2026年2月28日、米国はイスラエルと共同でイランへの大規模軍事作戦を開始しました。作戦には「エピック・フューリー(壮絶な怒り)」などのコードネームがつけられ、米宇宙軍とサイバー軍がまずイランの通信網を遮断しました。
その後、周辺基地と2隻の空母から100機以上の航空機が発進して空爆を実施し、海軍は巡航ミサイル「トマホーク」でイラン南部の拠点を攻撃しました。この攻撃によって、イランの最高指導者アリー・ハーメネイー師が殺害されたと報じられています。
イランの軍事力壊滅
米中央軍(CENTCOM)の発表によれば、最初の1週間で米軍は3,000以上の標的を攻撃しました。トランプ大統領は「5,000以上の目標を攻撃した」とも表明しています。具体的な被害状況は以下の通りです。
海軍: イラン海軍の主要艦艇が壊滅的な打撃を受けました。43隻のイラン船舶が破壊または損傷を受け、30隻以上が沈没しています。3月2日には、イランが最近就役させたばかりのドローン・ヘリコプター空母「シャヒード・バゲリ」も撃沈されました。
空軍: エスファハーンの空軍基地ではF-14戦闘機が破壊されました。イスラエル空軍は2月28日以降、イランの17の戦術航空基地のうち10カ所、地上軍航空基地6カ所のうち3カ所を攻撃しています。
ミサイル能力: 米B-2爆撃機が地下の弾道ミサイル発射装置を集中的に爆撃し、イスラエル軍は300基以上の弾道ミサイル発射装置を無力化しました。その結果、イランの弾道ミサイル攻撃は開戦初日から90%減少し、ドローン攻撃も83%減少しています。
トランプ大統領が「海軍も通信網も空軍もない。ミサイルもない」と語った背景には、こうした圧倒的な戦果があります。
「終結近い」発言の分析
楽観的なメッセージと矛盾
トランプ大統領はCBSのインタビューで「戦争はかなり完了している」と述べ、同日のフロリダでの記者会見でも「戦争は間もなく終わる」と語りました。この発言を受けて、WTI原油先物は13.7%(約13ドル)急落し、市場に大きな安堵感が広がりました。
しかし、同日の共和党下院議員との会合では「まだ十分に勝っていない」とも述べています。TIME誌はこれらの発言について「混合したメッセージ」と報じ、戦争の実態と大統領の発信の間にギャップがあることを指摘しています。
新指導者選出への警告
イランでは、殺害されたハーメネイー師の後継として、息子のモジタバ・ハーメネイー氏が新たな指導者に選出されたと報じられています。トランプ大統領はこれに対し「大きな間違いだ」と警告しました。新指導者の選出は、イラン側が体制を維持して抗戦を続ける意思の表れとも解釈できます。
石油利権の差し押さえ問題
否定せず含みを持たせる
注目を集めているのが、イランの石油資産の差し押さえの可能性です。トランプ大統領は米NBCテレビのインタビューで、イランの原油差し押さえについて「話すのは時期尚早だ」としつつも、その可能性を否定しませんでした。
さらに、ホルムズ海峡の管理権についても「接収を検討している」と発言し、「イランが何か悪いことをすれば、イランの終わりだ。二度とその名前を聞くことはない」と強硬姿勢を示しています。
ホルムズ海峡の正常化
世界の石油供給の約5分の1が通過するホルムズ海峡は、戦闘開始以来事実上封鎖されていました。トランプ大統領は「海峡は現在開いており、船舶が通過している」と述べ、米海軍によるタンカー護衛計画を明らかにしています。
ただし、海峡の完全な正常化にはまだ時間がかかるとの見方が優勢です。イランが残存する戦力で海峡を脅かす可能性も完全には排除できていません。
注意点・展望
トランプ大統領の「終結近い」発言には、原油市場の鎮静化を狙った政治的意図も含まれていると考えられます。実際に発言直後に原油価格は大幅に下落しており、市場心理への影響は大きいものがあります。
しかし、イラン側が新指導者を選出し抗戦姿勢を崩していないこと、ロシアがイランの米軍攻撃を支援しているとの報道があること、そして議会では「違憲の戦争」との批判も出ていることなど、終結への道筋は必ずしも明確ではありません。
日本にとっても、ホルムズ海峡を通じたエネルギー供給の安定は死活問題です。野村総合研究所の試算によれば、原油価格の高騰は日本経済に深刻な打撃を与える可能性があり、今後の情勢を注視する必要があります。
まとめ
トランプ大統領の「イラン戦争ほぼ完了」発言は、10日間でイランの軍事インフラを壊滅させた戦果を背景にしたものです。海軍・空軍・ミサイル能力の大半が無力化され、トランプ大統領は予定より大幅に前倒しで終結できるとの見通しを示しています。
一方で、石油利権の差し押さえやホルムズ海峡の管理権という新たな論点も浮上しています。軍事作戦の「完了」と政治的な「終結」は別の問題であり、今後の交渉の行方が原油市場と国際秩序の安定を左右するでしょう。
参考資料:
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