米国がイラン地上作戦を検討、高濃縮ウラン押収が焦点に
はじめに
2026年3月、米国とイスラエルによるイラン攻撃が続くなか、新たな局面が浮上しています。トランプ大統領が、イラン国内に残存する高濃縮ウランを物理的に押収するため、特殊部隊の地上投入を検討していることが複数の米メディアによって報じられました。2月28日に開始された「オペレーション・エピック・フューリー」による空爆では、イランの核施設に大きな打撃を与えたものの、地下深くに貯蔵されたウランの完全な除去には至っていません。核兵器11発分に相当するとされる高濃縮ウランの行方が、この紛争の最大の焦点となっています。
イラン核交渉の決裂と軍事攻撃の経緯
オマーン仲介の核交渉が頓挫
米国とイランの核交渉は、オマーンの仲介のもとで3回にわたって実施されました。2026年2月26日に行われた第3回交渉の後、オマーンのバドル・ビン・ハマド・アル・ブサイディ外相は「実質的な進展があり、合意は手の届くところにある」と述べていました。しかし、トランプ大統領は翌27日に「交渉の進展にも、相手の交渉姿勢にも満足していない」と不満を表明しました。
交渉が頓挫した根本的な原因は、双方の立場の隔たりにありました。イラン側は交渉の範囲を核開発の民生利用の保証に限定することを求め、ミサイル計画や地域の代理勢力への支援、人権問題については協議の対象外とする姿勢を崩しませんでした。一方、米国側はこれらすべてを包括的に扱うことを主張し、妥協点を見出すことができなかったのです。
「オペレーション・エピック・フューリー」の発動
交渉決裂からわずか2日後の2月28日、トランプ大統領は軍事作戦の開始を決断しました。米国とイスラエルが共同で実施したこの大規模攻撃は「オペレーション・エピック・フューリー」と名付けられ、イランの核施設やミサイル関連施設を標的としました。
この攻撃により、イランの最高指導者アリー・ハメネイ師が殺害されたほか、軍事指導部の複数の幹部も標的となりました。3月1日早朝、イラン国営メディアがハメネイ師の死亡を確認し、世界に衝撃を与えました。
イランはこれに対し、イスラエルや中東地域の米軍基地、さらには米軍の航空基地を提供しているペルシャ湾岸諸国に対しても反撃を実施しました。この一連の攻撃で、少なくとも3名の米国人が犠牲になったと報じられています。
空爆の限界が露呈
米国防総省の評価によれば、米軍の空爆によってイランの核兵器開発は「1〜2年遅れた」とされています。しかし、バンカーバスター(地中貫通型爆弾)を投入したにもかかわらず、地下深くに建設された核施設の完全な破壊には至りませんでした。特にイスファハンの地下トンネル施設は換気口のような開口部を持たない構造であるため、空爆だけでは内部に到達することが困難であることが判明しました。この限界が、地上作戦の検討へとつながっていくことになります。
高濃縮ウラン押収作戦の全容と課題
核兵器11発分のウランの所在
米国とイスラエルの情報機関が最も懸念しているのは、イランが保有する約450キログラムの濃縮度60%のウランです。このウランは数週間で核兵器級の90%まで濃縮可能であり、すべてが90%に達した場合、核兵器11発分の原料となり得ます。
米国の情報評価によると、このウランの大部分はイスファハンの核施設にある地下トンネル内に保管されており、残りはフォルドウとナタンズの施設に分散して貯蔵されています。昨年6月の米国・イスラエルによるイラン攻撃でトンネルの入口は爆撃を受けましたが、施設内部はほぼ無傷であると外交関係者は指摘しています。さらに、米国の情報機関は、イランが非常に狭いアクセスポイントを通じてウランに到達できる可能性があると評価しており、イラン側がウランを回収・移動させるリスクも存在しています。
特殊部隊による2つのシナリオ
トランプ政権が検討している作戦には、大きく分けて2つのシナリオがあります。
第一のシナリオは、ウランをイラン国外に物理的に持ち出す方法です。特殊部隊が地下施設に潜入してウランを確保し、安全な場所まで運搬するというものです。しかし、核物質の輸送には極めて高度な専門知識と特殊な装備が必要であり、戦闘地域での実施は困難を極めます。
第二のシナリオは、核の専門家を現地に送り込み、その場でウランを「希釈」して兵器利用不能にする方法です。この方法であれば、大量のウランを危険な状況下で輸送する必要はなくなりますが、施設内での長時間の作業が求められるため、周辺の安全確保がより重要となります。
トランプ大統領自身は、地上部隊の投入について記者から問われた際、「それは素晴らしいことだろう。ある時点で、われわれは多分そうする」と述べ、可能性を排除しない姿勢を示しました。同時に「今はやらない。将来やるかもしれない」とも付け加え、即座の実行は否定しています。
作戦遂行に必要な規模とリスク
CNNの報道によれば、イランの高濃縮ウランを確保するには、少数の特殊作戦部隊だけでは不十分であり、相当数の地上部隊の展開が必要とされています。具体的には、統合特殊作戦コマンド(JSOC)所属の精鋭部隊を中心に、イスラエルのコマンド部隊との連携も視野に入れた作戦が議論されています。
核心となる特殊作戦チームを支援するため、数十人から数百人規模の追加部隊が必要になると見られています。これには、施設周辺の確保に当たる部隊だけでなく、核物質を地下深くで扱うための技術的・後方支援の人員も含まれます。イラン軍が依然として核施設とその周辺地域を掌握しているという現実が、作戦の難易度をさらに引き上げています。
今後の注意点と展望
米軍にとって最大のリスクは、地上部隊を投入した場合に発生し得る人的損失です。トランプ大統領にとっても、米兵の犠牲は最大の政治的リスクであり、これまでの作戦が空爆やドローンに限定されてきた理由もここにあります。
また、イランのラリジャニ最高安全保障委員会事務局長はペゼシュキアン大統領らとともに臨時評議会を設置し、長期戦に備える方針を示しています。地上作戦が実施されれば、紛争がさらに長期化・激化する恐れがあります。
経済面でも影響は深刻です。この軍事衝突により原油価格が高騰し、サプライチェーンの寸断が発生しており、2026年の世界経済成長率は2.7〜2.9%に抑制される見通しとなっています。日本を含む各国にとっても、エネルギー安全保障と経済安定の両面で重大な局面が続きます。
米国の情報機関はイスファハンの施設を継続的に監視しており、イラン側によるウランの移動の試みを高い確度で検知できるとしていますが、状況は流動的です。外交的解決の道が完全に閉ざされたわけではないものの、双方の立場の隔たりは依然として大きく、軍事的エスカレーションの可能性は否定できません。
まとめ
米国によるイランの高濃縮ウラン押収を目的とした地上作戦の検討は、2月末に始まった軍事衝突の新たな段階を示すものです。空爆では破壊できなかった地下施設に眠る核兵器11発分相当のウランをどう処理するかという問題は、単なる軍事的課題にとどまらず、核不拡散体制の根幹に関わる問題です。特殊部隊の投入が実行されれば、紛争の長期化と中東全域への波及は避けられず、世界経済にもさらなる打撃を与えることになります。今後の展開を注視する必要があります。
参考資料
- U.S. weighs sending special forces to seize Iran’s nuclear stockpile - Axios
- U.S. considers idea of special operation to seize Iran’s uranium - Fortune
- Capturing Iran’s highly enriched uranium would require a large US ground force, sources say - CNN
- Trump Strikes Iran Amid Nuclear Talks - Arms Control Association
- トランプ氏、濃縮ウラン確保で地上軍派遣も - Bloomberg
- イランに地上部隊派遣検討か トランプ氏、特定目標で小規模 - 時事通信
- 米・イスラエル、イラン核備蓄確保へ特殊部隊派遣を協議 - Newsweek日本版
- トランプ米大統領がイラン攻撃成功を発表 - ジェトロ
- Trump may send US troops to neutralize Iran’s highly enriched uranium - Bulletin of the Atomic Scientists
- No Deal After U.S.-Iran Talks Amid Risk of ‘Devastating War’ - TIME
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