米国防長官が対イラン最大空爆を宣言、戦争の行方は
はじめに
2026年3月10日、ヘグセス米国防長官は記者会見で「敵が完全かつ決定的に敗北するまで、我々は決して手を緩めない」と宣言し、同日にイランへの「過去最大規模の空爆」を実施すると明らかにしました。米国とイスラエルが2月28日にイランへの軍事作戦「オペレーション・エピック・フューリー」を開始してから11日目を迎え、紛争はさらなる激化の局面に入っています。
トランプ大統領は9日に「戦争はまもなく終結するだろう」と述べましたが、ヘグセス長官は最大8週間の長期化の可能性にも言及しており、終結時期の見通しは不透明です。本記事では、開戦からの経緯と最新状況、そして日本を含む国際社会への影響を整理します。
開戦から11日間の経緯
2月28日の開戦とハメネイ師の死亡
2026年2月28日、米国とイスラエルは共同でイランに対する大規模な軍事攻撃を開始しました。米国側の作戦名は「オペレーション・エピック・フューリー」、イスラエル側は「ライオンズ・ロアー」です。標的はイランの核施設、ミサイル基地、海軍施設、軍事指揮系統など1,000カ所以上に及びます。
開戦直後の3月1日、イスラエル軍の攻撃によりイランの最高指導者アリ・ハメネイ師が死亡しました。イラン側は当初否定していましたが、その後国営メディアが公式に死亡を認め、後継者としてハメネイ師の息子モジタバ・ハメネイ氏が新最高指導者に指名されました。指導者の交代は、イラン側の指揮系統に混乱をもたらしたとみられています。
軍事作戦の3つの目標
ヘグセス国防長官は記者会見で、米軍の作戦目標を3点に整理しました。第一にテヘランのミサイル能力の無力化、第二にイラン海軍の壊滅、第三にイランの核兵器開発の永久的な阻止です。
トランプ大統領はこれまでに米軍が5,000以上の目標を攻撃し、イラン海軍と空軍を壊滅させたほか、ミサイル発射台の80〜90%を破壊したと主張しています。イスラエル空軍も3月10日、170発以上の弾薬を使用してテヘラン、イスファハン、シーラーズの体制インフラを攻撃したと発表しました。
3月10日「最も激しい空爆の日」
ヘグセス長官の宣言
3月10日、ヘグセス国防長官は「今日はイラン国内における最も激しい空爆の日になる」と述べ、過去最多の戦闘機と爆撃機を投入すると警告しました。同長官は「イランの軍事能力は時間単位で失われている」と述べ、制空権の確保が目前であるとの認識を示しています。
一方で、ヘグセス長官はイランの反撃を完全に阻止することは困難だとも認めました。実際、イランは開戦以降、中東の少なくとも5カ国に対して弾道ミサイルやドローンによる報復攻撃を続けています。
甚大な被害と民間人の犠牲
イラン側の発表によると、開戦からの死者は1,255人以上、負傷者は約1万人に達しています。3月10日にはイラン西部アラクで住宅への空爆により5人が死亡し、テヘラン東部では住宅地への攻撃で少なくとも40人が犠牲になりました。石油関連施設への攻撃では首都が有毒な煙に覆われる事態も発生しています。
一方、イスラエル側でもテルアビブ国際空港近くの建設現場で破片により1人が死亡するなど、イランの反撃による被害が出ています。レバノンでは約570人、イスラエルでは12人が死亡したと報告されています。
イランの反撃と地域への波及
湾岸諸国への攻撃拡大
イランは米国とイスラエルだけでなく、湾岸諸国にも報復攻撃を拡大しています。サウジアラビア、クウェート、バーレーン、アラブ首長国連邦(UAE)などが標的となりました。サウジアラビア国防省は石油が豊富な東部地域で2機のドローンを迎撃・破壊したと発表し、クウェート国家防衛隊も6機のドローンを撃墜しています。
UAEではイラク・クルディスタン地域の総領事館がドローン攻撃を受け、物的被害が発生しました。英国防省は9日、UAE支援のため戦闘機による「防衛目的の航空出撃」を開始したと発表しています。
ホルムズ海峡の事実上の封鎖
中東地域の緊張が高まる中、多くの船舶がホルムズ海峡の航行を回避する状況となっており、同海峡は「事実上の封鎖」状態に陥っています。日本は原油輸入の約94%を中東地域に依存し、そのうち8割がホルムズ海峡を通過するタンカーで運ばれています。この状況が長期化すれば、日本のエネルギー安全保障に深刻な影響を及ぼす可能性があります。
原油価格と世界経済への影響
乱高下する原油市場
開戦直後、原油価格は急騰し、一時1バレル100ドルを突破しました。3月8日には110ドル台に達する場面もありましたが、9日にトランプ大統領が早期終結を示唆したことで急落し、一時90ドルを割り込む展開となりました。
日本市場も大きな影響を受けています。原油高騰による景気悪化への懸念から株価は大幅安となり、ガソリン価格の高騰も現実味を帯びています。野村證券の分析では、原油価格の10%上昇が1年間続いた場合、TOPIXベースの経常利益を1〜1.25%押し下げるとされています。
最悪シナリオの試算
日本総研やNRI(野村総合研究所)の試算によると、中東の原油供給が大幅に減少する最悪のケースでは、原油価格が1バレル120ドルまで上昇する可能性があります。その場合、日本の石油備蓄は約260日で底を突き、GDPを約3%押し下げるリスクがあるとされています。
注意点・今後の展望
終結時期をめぐる矛盾
トランプ大統領は戦争の早期終結を繰り返し示唆していますが、ヘグセス国防長官は最大8週間の長期化の可能性に言及しています。この食い違いは、政権内での戦略目標の調整が十分に行われていない可能性を示唆しています。CNNの分析でも、トランプ大統領の戦争に関するメッセージは「誇張された脅威と矛盾する目標」が特徴だと指摘されています。
国際法上の議論
ブルームバーグは、トランプ大統領が議会の承認なしにイランへの軍事作戦を開始したことについて「歴代大統領で最悪の議会権限無視」と報じています。国内外で作戦の法的根拠をめぐる議論が続いており、全労連など国内団体も「国際法違反のイラン攻撃に抗議し、直ちに停戦を」との声明を発表しています。
今後のシナリオ
紛争の帰趨を左右する要因は複数あります。米国の軍事的圧力によりイランが交渉のテーブルにつくのか、それともイラン側の報復がさらに拡大し地域紛争が泥沼化するのか。また、ロシアがイランに情報提供を行っているとの報道もあり、大国間の代理戦争に発展するリスクも否定できません。
まとめ
ヘグセス米国防長官による「過去最大規模の空爆」宣言は、米・イスラエルのイラン戦争が11日目を迎えてもなお収束の兆しがないことを示しています。5,000以上の目標への攻撃、1,255人以上の死者、原油価格の乱高下と、その影響は中東地域にとどまらず世界経済全体に波及しています。
日本にとっても、ホルムズ海峡の事実上の封鎖や原油高騰は深刻な問題です。今後の展開を注視しつつ、エネルギー供給の多様化やリスク管理の強化が急務といえます。戦争の終結時期は依然不透明であり、中東情勢の変化に引き続き注目が必要です。
参考資料:
- Iran war: Hegseth says Tuesday ‘will be our most intense day of strikes’ - CNBC
- Pete Hegseth vows ‘most intense day’ of US strikes against Iran - Al Jazeera
- The U.S. vowed its ‘most intense day of strikes inside Iran’ - NPR
- イラン攻撃で高まる原油価格上昇リスクと日本経済への影響試算 - NRI
- 米・イスラエルによるイラン攻撃のわが国への影響と今後求められる対応 - 日本総研
- Trump’s Iran war message marked by exaggerated threats and shifting, contradictory goals - CNN
- What is Trump’s endgame in Iran as the US-Israel war escalates? - Al Jazeera
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