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by nicoxz

米国雇用市場に異変、AI時代の転職リスクと建設業の活況

by nicoxz
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はじめに

米国の労働市場で、これまでの常識が通用しなくなる「異変」が起きています。転職すれば給料が上がるというのが米国の雇用慣行でしたが、いま転職者と継続勤務者の賃金上昇率の差、いわゆる「転職プレミアム」が急速に縮小しています。背景にあるのは、人工知能(AI)の台頭による雇用構造の変化です。

一方で、建設業界では深刻な人手不足が続き、労働者にとっては「売り手市場」の状態です。AI時代の米国雇用市場で何が起きているのか、業界ごとの明暗と今後の展望を解説します。

「低雇用・低解雇」の膠着状態とは

動かなくなった労働市場

米国労働統計局(BLS)が公表するJOLTS(求人・離職動向調査)の最新データによると、2026年1月の自発的離職率(quits rate)は2.0%にとどまり、7カ月連続でこの水準以下を推移しています。採用率(hires rate)も3.3%と低水準です。

この状態は「低雇用・低解雇(low-hire, low-fire)」と呼ばれ、企業が既存社員を解雇しない代わりに新規採用も絞るという膠着状態を意味します。労働者は現在の職場にとどまり、企業も人員の入れ替えを最小限に抑えているのです。

転職プレミアムの縮小

アトランタ連銀の賃金成長トラッカーによると、2026年2月時点で転職者の賃金上昇率は4.7%、継続勤務者は3.6%でした。一見すると転職者のほうが有利に見えますが、この差は過去と比べて大幅に縮小しています。

かつて転職者の賃金上昇率が継続勤務者を大きく上回っていた時期と比較すると、そのプレミアムは薄れつつあります。転職にはリスクが伴う以上、プレミアムが小さければ「動かないほうが得」と考える労働者が増えるのは自然な流れです。

AI時代がもたらす業界別の明暗

テック業界:採用凍結と慎重姿勢

AI時代の雇用変化を最も象徴しているのがテクノロジー業界です。2025年には全世界で約24万5,000人のテック人材がレイオフされましたが、これは2024年比で約20%の減少でした。解雇のペースは落ちつつあるものの、採用も同時に凍結されています。

フォーチュン誌の調査では、350社以上の上場企業CEOのうち66%が2026年中の採用凍結または人員削減を計画していると回答しました。AIが業務を代替できる領域が拡大する中、企業は新たな人材を雇うよりも、既存の人員とAIツールの組み合わせで生産性を維持しようとしています。

若年層への深刻な影響

ダラス連銀の研究によると、AI関連度の高い職種における22〜25歳の雇用は2022年以降13%減少しています。コンピューターサイエンスやコンピューター工学を専攻した若者の失業率は6〜7%台に上昇し、全体平均の4.0%を大きく上回っています。

ニューヨーク連銀のデータでも、大卒以上の22〜27歳の失業率は5.8%と全体平均との差が過去最大になりました。企業がエントリーレベルの採用を絞り、経験者の採用にシフトしているためです。AIが代替できる定型的な業務(データ入力、市場調査の要約、コーディング補助など)はかつて若手社員が担っていた領域であり、その入口が急速に狭まっています。

建設業:圧倒的な売り手市場

テック業界とは対照的に、建設業界は深刻な人手不足が続いています。米国建設業協会(ABC)の報告によると、2026年に必要な新規労働者数は約34万9,000人と推計されています。この数字は2025年の43万9,000人からは減少したものの、依然として大きな需給ギャップが存在します。

人手不足の主因は高齢化です。建設労働者の5人に1人が55歳以上で、退職による人材流出が止まりません。さらに移民政策の厳格化により、建設労働者の約25%を占める外国生まれの労働者の供給も不安定になっています。

この結果、建設業の賃金は前年比4%以上の上昇を続けており、一部企業では人材確保のために20%以上の賃上げを実施しています。AI時代においても、肉体労働を伴う建設業は自動化が困難であり、労働者にとっては圧倒的な売り手市場が続いているのです。

注意点・展望

転職を検討する際のポイント

現在の米国雇用市場では、業界によって状況が大きく異なります。テック業界で転職を検討する場合、以下の点に注意が必要です。

まず、AIに代替されにくいスキルの有無が重要です。ダラス連銀の研究では、暗黙知や経験が重視される職種ではAI導入後もむしろ賃金が上昇していることが確認されています。単純な技術スキルだけでなく、業界知識や対人スキルの価値が相対的に高まっています。

今後の見通し

Indeed Hiring Labの分析では、自発的離職率が回復しない限り、賃金競争やキャリア流動性を促す「労働市場のダイナミズム」は戻らないと指摘されています。労働者が転職リスクを取れないと感じる状況が続けば、市場全体の停滞が長期化する可能性があります。

一方、建設業界ではAIデータセンターの建設ラッシュやインフラ投資の拡大により、フォーチュン誌は2026年に最大50万人の新規労働者が必要になる可能性があると報じています。物理的な労働が求められる分野は、AI時代においてもむしろ需要が高まるという逆説的な状況が生まれています。

まとめ

米国の雇用市場は「低雇用・低解雇」の膠着状態にあり、転職プレミアムの縮小が進んでいます。特にテック業界では、AIの業務代替が進む中で採用凍結が広がり、若年層の就職難が深刻化しています。

しかし建設業界では人手不足が続き、賃金上昇も顕著です。AI時代の労働市場では、「何ができるか」だけでなく「AIに代替されないか」という視点がキャリア選択の重要な判断基準になりつつあります。業界ごとの状況を正確に把握し、自身のスキルセットとの適合性を見極めることが、これからの転職戦略の鍵となるでしょう。

参考資料:

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