ABEMA開局10年、世界を目指す藤田晋の戦略
はじめに
サイバーエージェントがテレビ朝日と共同運営するインターネットテレビ「ABEMA」が、2026年4月に開局10周年を迎えます。サイバーエージェント会長の藤田晋氏は、長年の赤字を経て黒字化を達成した今、「世界基準」を新たな目標に掲げています。
ABEMAの10年間は、テレビ業界の常識への挑戦の歴史でもありました。そして今、Netflixとの戦略的提携やオリジナルドラマの制作強化を通じて、日本発のコンテンツを世界に届けるという新たなフェーズに突入しています。本記事では、ABEMAの歩みと今後の戦略を解説します。
ABEMAの10年:赤字からの逆転劇
巨額投資を続けた信念
ABEMAは2016年4月にサービスを開始しました。「インターネットテレビ局」という構想のもと、24時間編成のリニア配信を軸にニュース、バラエティ、ドラマ、スポーツなど多彩なコンテンツを無料で提供するモデルを展開しました。
しかし、その道のりは平坦ではありませんでした。ABEMAはサービス開始から長期にわたり赤字が続き、サイバーエージェントの連結業績を大きく圧迫してきました。累計投資額は数千億円規模に達したとされ、市場からは撤退を求める声も上がっていました。
藤田氏は「ABEMAは10年かけて育てるメディア」と繰り返し語り、長期的な視点で投資を続ける姿勢を貫きました。この信念がようやく実を結び、ABEMAは収益化への道筋をつけることに成功しています。
転機となったスポーツ中継とK-POP
ABEMAの認知度を大きく引き上げたのが、大型スポーツイベントの独占・無料配信です。サッカーFIFAワールドカップや格闘技イベントの配信は社会的な話題となり、アプリのダウンロード数を飛躍的に伸ばしました。
もうひとつの転機がK-POPコンテンツの積極的な獲得です。ABEMAはBTSをはじめとするK-POPアーティストの関連番組やライブ配信を展開し、若い世代を中心に視聴者層を拡大しました。K-POPの国際的な人気を取り込むことで、ABEMAは国内の動画配信市場における独自のポジションを確立しています。
Netflixとの戦略的提携
「ABEMAを世界で当てるのは現実的でない」
藤田氏はABEMAのグローバル展開について、興味深い判断を下しています。ABEMAというプラットフォーム自体を海外に展開するのではなく、Netflixとの提携を通じてコンテンツを世界に届ける戦略を選択しました。
藤田氏は「ABEMAを世界で当てるのは現実的でない」と率直に語り、「自分たちのコンテンツを世界中で見てもらう」ことに注力する方針を明確にしています。Netflixが190カ国以上で展開する配信ネットワークを「ものさし」として活用する発想です。
BABEL LABELを核としたコンテンツ制作
Netflixとの提携の中核を担うのが、サイバーエージェント傘下の映像制作会社「BABEL LABEL」です。BABEL LABELはNetflixとの間で5年間にわたる戦略的パートナーシップを締結し、映画やドラマの共同制作を進めています。
ABEMAで人気を博した恋愛リアリティ番組シリーズも、Netflixを通じて海外独占配信される形で世界展開を果たしました。「オオカミ」シリーズや「恋愛ドラマな恋がしたい」シリーズの新作がNetflix向けに制作され、国際的な視聴者を獲得しています。
オリジナルドラマへの本格参入
「スキャンダルイブ」の成功
ABEMAの制作力の進化を象徴するのが、2025年11月に配信を開始したオリジナルドラマ「スキャンダルイブ」です。柴咲コウと川口春奈という豪華キャストを起用し、芸能界の闇に切り込むサスペンスドラマとして制作されました。
同作は配信開始後5日間で総視聴数200万を突破し、ABEMAの総合ランキングで1位を獲得しました。映画レビューサイトFilmarksでも4.0の高評価を記録し、作品としてのクオリティが高く評価されています。さらに、第38回東京国際映画祭のTIFFシリーズ公式出品も決定し、ABEMAオリジナル作品が国際的な映画祭で認められる成果を上げました。
テレビ業界の常識への挑戦
「スキャンダルイブ」はNetflixでも同時配信されており、ABEMAオリジナルコンテンツが世界に届く好例となりました。従来のテレビドラマ制作では、地上波放送を前提とした制約の中で番組が作られてきましたが、ABEMAではより自由な表現やテーマ設定が可能です。
藤田氏が「やっとこのレベルまで来たか」と感慨を示したのは、単なる話題性ではなく、作品の質がグローバル基準に達したことへの手応えだったといえます。
注意点・展望
ABEMAの成長は目覚ましいものがありますが、動画配信市場の競争は依然として厳しい状態です。Netflix、Amazon Prime Video、Disney+といったグローバルプレーヤーに加え、国内ではTVerやU-NEXTなどとの競合もあります。
ABEMAの強みは無料配信を基盤とした広告モデルと、プレミアム会員によるサブスクリプション収入のハイブリッド型にあります。この独自モデルを維持しつつ、コンテンツの質と量を両立できるかが今後の成長を左右します。
Netflixとの提携は大きな可能性を秘めていますが、Netflixのプラットフォームに依存しすぎれば、コンテンツの交渉力が弱まるリスクもあります。自社プラットフォームの価値を高めつつ、パートナーとのバランスを取る経営判断が求められます。
まとめ
ABEMAの10年は、「インターネットテレビ」という壮大な実験の成功物語です。巨額の赤字を乗り越え、スポーツ中継やK-POPコンテンツで存在感を確立し、今やオリジナルドラマで世界基準の作品を生み出す段階に到達しました。
藤田氏が見据える「世界」への道は、Netflix提携とBABEL LABELを通じたコンテンツの海外配信という現実的な戦略で形作られています。日本の動画配信の歴史に新たな1ページを刻んできたABEMAが、次の10年でどこまで飛躍するのか注目です。
参考資料:
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