ABEMA10周年の転換点 Netflix提携で世界市場へ挑む
はじめに
サイバーエージェントがテレビ朝日と共同運営するインターネットテレビ「ABEMA」が、2026年4月に開局10周年を迎えます。2016年のサービス開始以来、巨額の投資を続けながら赤字が常態化していたABEMAですが、ここにきて大きな転換期を迎えています。
Netflixとのコンテンツパートナーシップによる世界配信、オリジナルドラマの成功、そして開局以来初の四半期単体黒字化の達成。さらに創業社長の藤田晋氏が社長を退任し、新体制へと移行しました。ABEMAの10年の軌跡と、「世界基準」を掲げる今後の戦略を読み解きます。
Netflixとの提携が開いた世界への扉
コンテンツパートナーとしての始動
ABEMAは2023年2月、Netflixとのコンテンツパートナーシップを発表しました。国内の動画配信プラットフォームが、世界最大級の配信サービスに対してコンテンツを供給するという、日本のメディア業界にとって画期的な提携です。
第一弾として、ABEMAの人気恋愛リアリティ番組「オオカミ」シリーズと「恋愛ドラマな恋がしたい(ドラ恋)」シリーズの新作を制作し、Netflixで世界独占配信する取り組みが始まりました。「オオカミ」シリーズは10代~20代女性の視聴者が7割を超える人気コンテンツで、「ドラ恋」も20代~30代女性から圧倒的な支持を得ています。
巨大プラットフォームの「懐に飛び込む」戦略
通常、動画配信サービス同士は競合関係にあり、自社プラットフォームでの囲い込みが基本戦略です。しかしABEMAはあえてNetflixという巨大プラットフォームにコンテンツを提供する道を選びました。
この戦略の狙いは明確です。ABEMAの国内ユーザー基盤だけでは到達できない、世界190カ国以上のNetflix視聴者に日本発コンテンツを届けることができます。制作力を武器に世界市場での認知を獲得し、ABEMAブランド自体の価値を高める「逆転の発想」です。
Netflix向けに制作されるコンテンツは、ABEMAで配信中のシリーズとは異なるルック&フィールで、グローバルな視聴者に訴求する内容に仕上げられています。
オリジナルコンテンツの進化と黒字化達成
「スキャンダルイブ」が証明した制作力
ABEMAの制作力を象徴するのが、2025年11月に配信を開始したオリジナルドラマ「スキャンダルイブ」です。柴咲コウが5年ぶりにドラマ主演を務め、川口春奈との共演が話題を呼びました。
芸能界のタブーに切り込むサスペンスドラマとして、第1話は配信開始5日間で総視聴数200万を突破。ABEMA総合ランキングで1位を獲得する大ヒットとなりました。地上波テレビでは扱いにくいテーマに真正面から挑む姿勢が、ABEMAならではの強みを示しました。
このような高品質なオリジナルコンテンツの蓄積が、広告主の信頼獲得と視聴者層の拡大につながっています。
開局以来初の四半期単体黒字化
サイバーエージェントが2026年2月に発表した2026年9月期第1四半期(2025年10~12月期)決算で、ABEMAはついに開局以来初の四半期単体黒字化を達成しました。メディア&IP事業の売上高は前年同期比15.7%増となり、営業利益は前年同期の7億5,500万円の損失から一転して82億6,200万円の黒字を計上しています。
この黒字化を支えたのが広告収入の拡大です。幅広い視聴者層と多様な広告商材の提供により、広告主数は約1,000社に達しました。サイバーエージェント全体の業績も好調で、連結売上高は前年同期比14.0%増の2,323億円、営業利益は同181.8%増の233億円と、いずれも第1四半期として過去最高を更新しています。
新体制への移行と藤田晋氏の決断
創業社長からの「計画的承継」
ABEMAの10周年を語るうえで欠かせないのが、藤田晋氏の社長退任です。藤田氏は2023年3月に「2026年に社長を退く」と宣言していましたが、後継者選びが順調に進んだことから前倒しで実施し、2025年12月に代表取締役会長に就任しました。
新社長には専務執行役員の山内隆裕氏(42)が就任しています。サイバーエージェントでは2022年から、30~40代の有望な社員16人を選抜した後継者育成プログラムを実施してきました。若い社員を要職に積極的に起用してきた同社らしい、計画的な世代交代です。
ABEMAへの継続的な関与
藤田氏は社長を退任したものの、代表権のある会長として経営に関与し続けます。特にABEMAは藤田氏が創業直後から目指してきた動画メディア事業の集大成であり、「世界基準」のコンテンツ制作への情熱は変わりません。
10年間で累計数千億円規模の投資を行ってきたABEMAが、黒字化という明確な成果を出したタイミングでの社長交代は、「投資フェーズから回収フェーズへ」という事業転換を象徴する出来事でもあります。
注意点・展望
ABEMAの黒字化は大きな節目ですが、継続的な収益確保にはいくつかの課題があります。動画配信市場は競争が激しく、Netflix、Amazon Prime Video、Disney+など国際的なプレーヤーとの視聴者獲得競争は今後も続きます。
また、広告収入への依存度が高いビジネスモデルは、景気変動の影響を受けやすい面があります。サブスクリプション収入とのバランスをどう取るかが中長期的な課題です。
一方で、Netflix提携を通じた世界市場での認知拡大や、オリジナルコンテンツの制作力強化は、ABEMAの成長余地を広げる大きな武器となります。新体制のもとで「世界基準」の動画メディアとしてどこまで飛躍できるか、次の10年が問われます。
まとめ
ABEMAは開局10周年を迎え、Netflixとの提携による世界配信、初の四半期黒字化、そして新経営体制への移行と、大きな転換期にあります。巨額投資を続けた10年間の蓄積が、ようやく目に見える成果として結実し始めました。
藤田晋氏が描いた「テレビ業界の常識を破壊する」というビジョンは、次のステージに入っています。国内の動画配信を超えて世界市場に挑むABEMAの戦略は、日本のメディア産業全体にとっても注目すべき試金石です。
参考資料:
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