赤福が式年遷宮に向けブランド強化、東京進出も視野
はじめに
伊勢名物として全国的に知られる「赤福」が、2033年に予定される伊勢神宮の式年遷宮に向けて、積極的なブランド戦略を展開しています。2024年に就任した浜田朋恵社長のもと、伊勢の歴史を学べる体験型施設の整備や、和洋菓子ブランド「五十鈴茶屋」の全国展開を加速させる方針です。
1707年の創業から300年以上にわたり伊勢の地で菓子づくりを続けてきた赤福が、なぜ今このタイミングで攻めの経営に転じるのか。式年遷宮という一大イベントを軸にした地域活性化の取り組みと、老舗企業の成長戦略について解説します。
式年遷宮がもたらす巨大な経済効果
20年に1度の国家的行事
式年遷宮は、伊勢神宮の社殿を20年ごとに造り替え、天照大御神に新宮へお遷りいただく日本最大の祭事です。次回の遷御の儀は2033年秋に執り行われる予定で、2026年春から33の祭りと行事が順次始まります。
前回2013年の第62回式年遷宮では、伊勢神宮の年間参拝者数が過去最高の1,400万人を超えました。地元の宿泊施設や飲食店は大きな恩恵を受け、伊勢志摩地域全体の経済活性化につながりました。
事業費は1,000億円規模の可能性
前回の式年遷宮にかかった事業費は約550億円でした。しかし人件費や資材の高騰が進む中、2033年には1,000億円に達する可能性も指摘されています。この巨額の投資は、伝統技術の継承と同時に、地域経済を潤す大きな原動力となります。
建設費だけでなく、装束や神宝の調達、関連行事の開催費用など多岐にわたる支出が発生します。これらの経済活動は地元企業に直接的な恩恵をもたらすほか、全国からの参拝者増加による観光消費の拡大も期待されます。
赤福の成長戦略
体験型施設で伊勢の魅力を発信
赤福は式年遷宮に向けて、伊勢の歴史や文化を学べる体験型施設の整備を進めています。単に菓子を販売するだけでなく、伊勢という土地の持つ物語や歴史的背景を訪問者に伝えることで、地域全体の集客力向上を図る狙いです。
伊勢神宮周辺には、赤福が運営するおかげ横丁を含む観光スポットが集積しています。おかげ横丁は江戸時代の「お伊勢参り」の街並みを再現した商業施設で、遷宮がない年でも安定した観光客を集める基盤となっています。ここに体験型コンテンツを加えることで、滞在時間の延長とリピーター獲得を目指しています。
五十鈴茶屋の全国展開
赤福は1985年に立ち上げた和洋菓子ブランド「五十鈴茶屋」の展開を加速させています。伊勢の自然と文化に寄り添いながら、あずきや米など和菓子の基本素材に職人の手仕事を生かした菓子づくりが特徴です。
2025年4月には大阪高島屋に関西初の和喫茶店をオープンしました。赤福氷をはじめとする喫茶メニューに加え、「餅どらやき」や「あずきコルネ」など和洋の要素を融合させた菓子を提供しています。名鉄百貨店での期間限定出店なども積極的に行い、全国の主要百貨店を通じたブランド認知の拡大を進めています。
東京進出への意欲
浜田朋恵社長は「将来は東京にも店舗を構えたい」と語っており、首都圏への本格進出も視野に入れています。現在、赤福の常設店舗は東海と関西に限られ、関東では百貨店の催事での期間限定出店にとどまっています。
東京への常設店舗出店が実現すれば、赤福にとって大きな転機となります。伊勢の名物を全国に届けるだけでなく、東京から伊勢への観光誘客という逆方向の効果も期待できます。式年遷宮の認知度向上にもつながるでしょう。
老舗企業の変革と課題
新社長が進める改革
浜田朋恵社長は2024年に就任しました。赤福は過去に2007年の消費期限偽装問題で大きな打撃を受けた経験があります。その後の信頼回復を経て、現在は品質管理を徹底しながら成長路線へと舵を切っています。
老舗企業にとって、伝統を守りながら新しい挑戦を行うバランスは常に難しい課題です。赤福餅という看板商品の品質と信頼を維持しつつ、五十鈴茶屋のような新ブランドで新たな顧客層を開拓する二軸の戦略が、今後の成長の鍵を握ります。
地方創生のモデルケース
赤福の取り組みは、単なる一企業の経営戦略を超え、地方創生のモデルケースとしても注目に値します。地元の文化資源を活用しながら、観光コンテンツの充実と商品ブランドの育成を同時に進める手法は、他の地方都市にとっても参考になります。
伊勢市は人口減少が進む地方都市の一つですが、伊勢神宮という強力な観光資源を持っています。式年遷宮という20年に1度のイベントを最大限に活用し、一過性のブームに終わらせない持続的な地域づくりが求められています。
注意点・展望
2033年の式年遷宮まであと7年。準備期間中から関連行事が始まることで、伊勢地域への関心は徐々に高まっていく見込みです。赤福にとっては、このタイミングで体験型施設の整備やブランド強化を進めることが、長期的な成長基盤の構築につながります。
ただし、観光業は景気や外部環境に左右されやすい側面があります。インバウンド需要の取り込みや、デジタル技術を活用した新しい体験価値の提供など、時代の変化に対応した施策も求められるでしょう。
まとめ
赤福は2033年の伊勢神宮式年遷宮を見据え、体験型施設の整備、五十鈴茶屋の全国展開、東京への常設店舗出店と、三本柱の成長戦略を推進しています。300年以上の歴史を持つ老舗企業が、伝統を守りながら新たな挑戦に踏み出す姿は、地方企業の成長モデルとして注目されます。
式年遷宮による参拝者増加は伊勢地域全体に大きな経済効果をもたらします。赤福がその波をどう活かし、遷宮後も持続する成長基盤を築けるかが今後の焦点です。
参考資料:
関連記事
赤福が式年遷宮に向け伊勢の集客力強化へ本腰
老舗・赤福が2033年の伊勢神宮式年遷宮に向けて、体験型施設の整備や和洋菓子ブランドの拡充に取り組みます。300年超の歴史を持つ企業の成長戦略を解説します。
大学発クマ対策テクノロジーが拓く共生の道
秋田県立大学が開催した「Bear-Tech Solutionコンテスト」を起点に、AI・ドローン・センサーなど最新テクノロジーによるクマ対策の現在地と今後の展望を解説します。
IR誘致レース再開へ、残り2枠の行方と各地の課題
統合型リゾート(IR)の追加公募が2027年に実施される見通しです。愛知や北海道が申請を検討する中、大阪IRの建設費膨張やギャンブル依存症対策など、残り2枠をめぐる課題と展望を解説します。
東日本大震災15年、産業復興の現在地と課題
東日本大震災から15年。設備復旧は進んだものの、販路喪失や人口減少により被災地の産業自立は道半ばです。公的支援から民間主導への転換の必要性を解説します。
JALとJR東日本が東北で異例の協業、陸空連携の全貌
かつてのライバルであるJALとJR東日本が東北地方の人流創出に向けた連携協定を締結。新幹線と航空機を組み合わせた「立体型観光」やチケット一体化構想など、異例の協業の背景と展望を解説します。
最新ニュース
アクティビストの標的が変化、還元から再編へ
割安株の減少でPBR1倍超え企業も標的に。アクティビストの投資戦略が株主還元から事業再編へとシフトする背景と今後の展望を解説します。
アームが初の自社製チップ発表、AI半導体市場に本格参入
ソフトバンクグループ傘下の英アームが35年の歴史で初めて自社製チップ「AGI CPU」を発表。メタやOpenAIを顧客に迎え、5年で年間150億ドルの売上を目指す戦略転換の全容を解説します。
Armが半導体自前開発に参入、AI向けCPUで事業転換
ソフトバンク傘下の英Armが35年間のIPライセンスモデルを転換し、自社開発チップ「AGI CPU」でメタやオープンAIにAI半導体を直接供給する戦略の背景と影響を解説します。
イビデン大幅続伸の背景と半導体銘柄上昇の全貌
2026年3月25日、イビデンが特別利益491億円の計上発表で大幅続伸。半導体関連銘柄が軒並み上昇した背景には、米イラン停戦期待による原油下落と投資家心理の改善がありました。
イラン強硬派「3人組」の実権と米15項目和平案の行方
ハメネイ師亡き後のイランで実権を握る革命防衛隊出身の強硬派3人組と、トランプ政権が提示した15項目の和平案の内容・交渉の行方を詳しく解説します。