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by nicoxz

肥満指標「50歳以上は緩和を」研究会が提言、その根拠

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はじめに

EBPM(根拠に基づく政策立案)を推進する一般社団法人グローバル政策研究機構が2026年3月10日、健康づくり政策に関する提言を発表しました。その中で、国が定める適正体重の目標値について、50歳以上は肥満リスクが過度に強調されているとして、基準の緩和を求めています。

日本では長年、BMI 25以上を「肥満」とする一律の基準が用いられてきました。しかし近年の研究では、高齢者においては「やせ」のリスクが「肥満」よりも深刻であることが明らかになっています。本記事では、この提言の背景にある科学的根拠と、日本の健康政策への影響を解説します。

現行の肥満基準と達成のハードル

BMI 25の壁

日本肥満学会が定める基準では、BMI 25以上が「肥満」と判定されます。この数値は年齢を問わず一律に適用されており、「健康日本21」などの国の健康政策でも、BMI 25以上の肥満者割合を減少させることが目標に掲げられてきました。

健康日本21では、20〜60歳代男性の肥満者割合を15%以下にすることを目指していましたが、最新の国民健康・栄養調査では34.0%と、目標を大きく上回っています。この数字だけを見れば「肥満対策の強化が必要」という結論になりますが、全年齢に同じ基準を当てはめること自体に問題があるという指摘が今回の提言の核心です。

年齢別に異なる「適正体重」

実は、厚生労働省の「日本人の食事摂取基準(2020年版)」では、すでに年齢層ごとに異なる目標BMI範囲が設定されています。18〜49歳では18.5〜24.9、50〜64歳では20.0〜24.9、65歳以上では21.5〜24.9が目標範囲とされています。

注目すべきは、年齢が上がるにつれてBMIの下限値が引き上げられている点です。これは高齢者ほど「やせ」のリスクが高まることを反映しています。しかし、上限値は24.9のまま据え置かれており、「肥満」側の基準は緩和されていません。今回の提言は、この上限値についても年齢に応じた見直しを求めるものと考えられます。

科学的根拠:高齢者の「やせ」リスク

早稲田大学の大規模研究

早稲田大学などの研究グループは、65歳以上の地域在住日本人高齢者10,912名を対象に、BMIと死亡リスクの関係を調査しました。その結果、フレイル(虚弱状態)のない高齢者では、BMI 23〜24のときに死亡リスクが最も低くなることが明らかになっています。

さらに興味深いのは、フレイルのある高齢者では、BMIが高いほど死亡リスクが大きく低下するという結果です。つまり、高齢者にとっては「やや太め」の体格が健康長寿につながる可能性があるのです。

「肥満パラドックス」の実態

このような現象は「肥満パラドックス」と呼ばれています。中年期までは肥満が心疾患や糖尿病のリスクを高めますが、高齢期になると適度な脂肪の蓄えが感染症や手術からの回復力を高め、フレイルの予防にも寄与します。

BMI 18.5未満のやせの高齢者は、標準体重の高齢者と比較して、免疫力の低下、創傷治癒の遅延、筋力低下による転倒、さらには寝たきりになるリスクが大幅に高まることが報告されています。国立長寿医療研究センターの研究でも、高齢者の低栄養が要介護リスクを高めることが確認されています。

国立がん研究センターの知見

国立がん研究センターが実施した大規模疫学研究でも、BMIと死亡リスクの関係は年齢によって大きく異なることが示されています。中高年以降では、BMIがやや高めの方が全死亡リスクが低いという結果が複数の研究で一貫して報告されています。

EBPMの視点から見た健康政策の課題

一律基準の限界

今回の提言で重要なのは、EBPM(Evidence-Based Policy Making)の観点から健康政策を見直すという姿勢です。従来の肥満対策は、「BMI 25以上=肥満=不健康」という単純な構図に基づいていました。しかし、年齢や体組成、フレイルの有無などを考慮しない一律の基準では、高齢者に対して過度な体重制限を促してしまうリスクがあります。

特に高齢者が「太りすぎ」を恐れて食事量を減らした結果、低栄養やサルコペニア(筋肉量減少)に陥るケースは臨床現場でしばしば報告されています。

特定健診・保健指導の効果検証

メタボリックシンドロームに着目した特定健診・保健指導制度は2008年に開始されましたが、その効果については疑問の声もあります。EBPMの手法を用いた政策評価では、保健指導の健康改善効果が限定的であるという分析結果も報告されています。

グローバル政策研究機構の提言は、こうしたエビデンスを踏まえて、年齢層に応じたよりきめ細かな健康指標の設定を求めるものです。

注意点・展望

この提言を受けて注意すべき点がいくつかあります。まず、50歳以上の肥満基準を緩和することは、「太っても大丈夫」というメッセージではないということです。高度肥満(BMI 30以上)は高齢者でも健康リスクを高めることが明確に示されています。

また、体重だけでなく、筋肉量や体脂肪率、栄養状態など多角的な健康指標を組み合わせることが重要です。BMIは簡便な指標ではありますが、筋肉質な人と脂肪の多い人を区別できないという限界があります。

今後、厚生労働省が2026年度以降の健康政策に今回の提言をどう反映させるかが注目されます。「健康日本21(第三次)」の目標値見直しにつながる可能性もあり、年齢別のきめ細かな健康指標の導入が議論されていくでしょう。

まとめ

グローバル政策研究機構による「50歳以上のBMI基準緩和」の提言は、科学的根拠に基づく健康政策の見直しを求める重要な一歩です。高齢者ではBMI 23〜24が最も死亡リスクが低いという研究結果や、「やせ」が「肥満」よりも深刻なリスクとなることを踏まえれば、一律の肥満基準は再考の余地があります。

健康づくりの目標は画一的な数値の達成ではなく、個人の年齢や状態に応じた最適な体重管理であるべきです。EBPMの理念に沿った政策の見直しが、超高齢社会・日本の健康寿命延伸につながることが期待されます。

参考資料:

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