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by nicoxz

高齢者の肺がん診断、悲観にも楽観にも傾かない心構えとは

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はじめに

がんの告知を受けたとき、人はどのように受け止め、どのように生きていけばよいのでしょうか。作家でありクレヨンハウス主宰の落合恵子さんは、78歳で肺がんの可能性を指摘された際、「悲観にも楽観にも傾かず」という姿勢で診断に向き合ったといいます。

この「悲観にも楽観にも傾かない」という言葉には、深い意味があります。過度な悲観は心身を蝕み、かといって楽観しすぎれば適切な対処を怠ることになりかねません。現実をありのままに見つめ、必要な対応を取りながら、日々を大切に生きる。この姿勢は、がんに限らず、人生の困難に向き合う際の一つの指針となります。

この記事では、高齢者の肺がんについての基礎知識、がん告知後の心理的対応、そして「悲観にも楽観にも傾かない」生き方について考えます。

高齢者と肺がんの現状

増加する高齢者の肺がん

肺がんは日本において、男性のがん死亡数第1位、女性では第2位を占める重大な疾患です。特に注目すべきは、罹患者の9割以上が60歳以上であり、高齢になるほど増加する傾向にあることです。

罹患者の約5割、死亡者の約6割が75歳以上の高齢者です。70歳代の患者数は10年前と比べて約3倍に増加しており、超高齢社会の進行とともに、この傾向は続くと予想されています。

早期発見の難しさ

肺がんの死亡率が高い理由の一つは、早期発見が難しいことにあります。肺がんは初期段階では自覚症状がほとんどなく、症状が現れたときにはすでに進行していることが多いのです。

治療開始時に早期(I期)と診断される肺がん患者は半数に満たないのが現状です。しかし、ステージ1で発見された場合の5年相対生存率は83.3%とされており、早期発見できれば治癒の可能性は十分にあります。

定期検診の重要性

肺がんの早期発見には定期的な検診が不可欠です。国の指針では40歳以上を対象に胸部X線検査が推奨されています。特に50歳以上で喫煙指数(1日の喫煙本数×喫煙年数)が600以上の人は高リスクとされ、喀痰細胞診も併せて行われます。

検査方法と見落としのリスク

胸部X線検査の限界

胸部X線検査は基本的な検査方法ですが、「影絵」のように立体的な体を平面で見るため、どうしても限界があります。心臓、肋骨、鎖骨、横隔膜などと重なる部分に「死角」が生じ、見落としが起こりやすいのです。

特に2cm以下の小型肺がんは発見が困難で、2cm未満の肺がんの79%は胸部X線では検出されないという報告もあります。肺気腫などの既存の肺疾患がある場合、さらに発見が難しくなることがあります。

CT検査の優位性

CT検査は体を輪切りにした画像を撮影するため、X線検査の弱点を補います。胸部CTの肺がん検出感度は93.3〜94.4%と非常に高く、胸部X線の59.6〜73.5%を大きく上回ります。

骨や臓器の裏側も鮮明に写し出すことができ、5mm大の小さな肺がんでも発見可能です。「淡いタイプ」と呼ばれる、X線では見えにくいがんも検出できます。

低線量CT検診の普及

近年は放射線被ばくを抑えた「低線量CT」が普及しています。2011年の米国の大規模研究では、低線量CT検診が単純X線検診より肺がん死亡率を約20%低下させることが報告されました。

定期的にX線検査を受けていても見落としの可能性はあるため、リスクが高い方や心配な方はCT検査を検討することも選択肢の一つです。

高齢者の肺がん治療

年齢だけで判断しない治療選択

高齢者の肺がん治療において重要なのは、年齢だけを理由に治療法を決めないことです。「肺癌診療ガイドライン2024年版」では、75歳以上の患者さんにも白金(プラチナ)製剤を用いた抗がん剤治療の安全性と有効性が確認されています。

患者さんの体力、合併症の有無、がんの組織型、本人の希望などを総合的に考慮して、最適な治療法が選択されます。

手術療法の進歩

早期の非小細胞肺がん(I期・II期)に対する標準治療は手術です。近年は内視鏡(胸腔鏡)やロボット支援手術の普及により、患者さんの身体的負担は大幅に軽減されています。

手術に耐えられない患者さんには放射線治療が選択されることもあり、こちらの成績向上も報告されています。

高齢者総合機能評価

高齢者のがん治療では、「高齢者総合機能評価」の考え方が重視されています。身体機能だけでなく、生活機能や社会機能を総合的に評価し、治療の継続性を保つことが重要とされています。

治療の目標は、単に生存期間を延ばすだけでなく、生活の質(QOL)を維持することにもあります。

がん告知後の心理的対応

心の反応の3段階

がんを告知されると、多くの人が同様の心理的過程を経験します。一般的に、次の3つの段階に分けられることが知られています。

第1段階は「衝撃・ショック」です。「頭が真っ白になった」「何かの間違いでは」という反応は、心が危機から距離を置こうとする自己防衛の働きです。

第2段階は「不安・落ち込み」です。今後への漠然とした不安、気分の落ち込み、不眠などが1〜2週間続くことがあります。怒りや孤立感を感じることも珍しくありません。

第3段階は「適応・受容」です。通常2週間程度で、人間が本来持っている困難を乗り越える力が働き始め、次第に現実的な対応ができるようになります。

「悲観にも楽観にも傾かない」姿勢

がん告知を受けた際の心構えとして、「悲観にも楽観にも傾かない」という姿勢には大きな意味があります。

過度な悲観は心身を消耗させ、免疫機能にも悪影響を及ぼす可能性があります。「もうダメだ」という絶望感は、治療への意欲を奪い、回復の妨げになりかねません。

一方で、楽観しすぎることも問題です。「自分は大丈夫」と根拠なく思い込むことで、必要な検査や治療を後回しにしたり、生活習慣の改善を怠ったりする可能性があります。

現実を直視しながらも、必要以上に恐れない。できることはしっかりと行い、結果は受け入れる。この「中庸」の姿勢が、長い治療生活を支える力となります。

周囲のサポートの重要性

がん告知後の心理的安定には、周囲のサポートが重要です。家族や友人に気持ちを聞いてもらうこと、医療チームとの信頼関係を築くことが、適応段階への移行を助けます。

気分の落ち込みが2週間以上続き、食欲不振や不眠、意欲の低下が見られる場合は、精神科・心療内科への相談も選択肢です。「精神腫瘍科」というがん患者の心のケアを専門とする診療科も増えてきています。

自然とのつながり、生きる力

レイチェル・カーソンの教え

『沈黙の春』で知られる生物学者レイチェル・カーソンは、遺作となった『センス・オブ・ワンダー』で、自然の神秘に目を見張る感性の大切さを説きました。

カーソンは「地球の美しさについて思いをめぐらせる人は、生命が尽きるまで生き生きとした精神力を保ち続けることができる」と述べています。自然に触れる喜びは、倦怠や幻滅に対する「解毒剤」になるというのです。

日常の中の小さな発見

がんと診断されても、日々の生活は続きます。その中で、季節の移ろい、風の音、鳥のさえずりといった自然の営みに目を向けることは、心の安定につながります。

大げさなことでなくてよいのです。窓から見える空の色、散歩道の草花、食事の味わい。日常の中の小さな発見や喜びが、生きる力を支えてくれます。

注意点・今後のために

定期的な検診を忘れずに

肺がんは早期発見が予後を大きく左右します。特に喫煙歴のある方、慢性的な呼吸器疾患をお持ちの方は、定期的な検診を欠かさないようにしましょう。胸部X線だけでなく、必要に応じてCT検査も検討してください。

情報との付き合い方

インターネットには様々な医療情報があふれていますが、すべてが正確とは限りません。不安を煽るような情報に振り回されず、担当医や医療チームからの説明を基本としましょう。セカンドオピニオンを求めることも有効な選択肢です。

自分らしい生き方を

がん治療は長期にわたることもあります。その間、自分らしさを失わないことが大切です。好きなことを続ける、人との交流を大切にする、小さな目標を持つ。治療と並行して、自分の人生を生きることが、心身の健康を支えます。

まとめ

「悲観にも楽観にも傾かない」という姿勢は、がんと向き合う際の一つの指針となります。過度に恐れることなく、かといって軽視することもなく、現実を受け止めながら、できることを着実に行う。

高齢者の肺がんは増加傾向にありますが、早期発見と適切な治療により、良好な予後が期待できるケースも多くあります。定期的な検診、異変を感じたら早めの受診、そして何より日々を大切に生きることが重要です。

がんという診断は人生の終わりではありません。新たな章の始まりと捉え、残された時間をどう生きるかを考えるきっかけにもなり得ます。自然の美しさに目を向け、周囲の人々とのつながりを大切にしながら、自分らしく生きていく。その姿勢こそが、困難を乗り越える力となるのです。

参考資料:

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