子ども医療費無償化で広がる自治体格差と東京制度の現在を読む構図
はじめに
子どもの医療費無償化は、いまや珍しい政策ではありません。ただし、実際の制度は全国一律ではなく、住む場所でかなり違います。こども家庭庁は、こども医療費の援助について「各市区町村が実施し、各都道府県が要綱等に基づき補助している」と整理しています。つまり、国の統一制度というより、都道府県の土台に市区町村が上乗せする仕組みです。
この構造を踏まえないと、「東京が最も手厚い」「地方は遅れている」といった印象は簡単にずれます。東京都は2023年4月から高校生等医療費助成、いわゆるマル青を始めましたが、通院では原則1回200円までの負担が残り、所得要件の有無も区市町村で異なります。一方で、鳥取県のように県内一律で18歳以下を無償化した地域や、愛媛県上島町のように22歳までの学生へ広げた自治体もあります。本稿では、制度差がどこで生まれ、何を比べるべきかを整理します。
東京制度の実像と比較の難しさ
東京は広いが、完全一律ではない制度設計
東京都福祉局によると、マル青の対象は高等学校の就学期にある15歳から18歳年度末までです。ここだけを見ると、東京は全国でも進んだ部類に入ります。ただし、助成内容は完全無料ではありません。都内医療機関で受診する際、通院は原則1回につき最大200円まで自己負担があり、入院は食事療養標準負担額のみ負担します。さらに、所得制限の有無は区市町村ごとに異なると明記されています。
この点が比較を難しくします。東京の「都制度」を他県の「市町村制度」と比べると、行政レベルがずれてしまうからです。実際、こども家庭庁の2023年調査では、東京都内でも自治体によって差がありました。2025年10月には福生市が高校生年代までの通院1回200円の一部負担金を廃止し、保険診療分の自己負担を全額公費負担にしています。同じ東京でも、都の標準より住民向け制度が一段厚い自治体があるわけです。
全国集計で見える「東京より上」の広がり
こども家庭庁の同じ調査は、全国の現実をかなりはっきり示しています。2023年4月1日時点で、1,741市区町村のうち通院を18歳年度末まで助成する自治体は1,202、入院を18歳年度末まで助成する自治体は1,266ありました。所得制限なしは通院1,589、入院1,586、一部自己負担なしは通院1,198、入院1,285です。つまり全国の主流は、少なくとも市区町村レベルでは「高校生まで」「所得制限なし」「窓口負担なし」にかなり近づいています。
都道府県レベルでも差はあります。2023年時点の都道府県比較では、東京都は通院・入院とも18歳年度末までを対象にしていた一方、通院には自己負担があり、所得制限もある設計でした。これに対し、鳥取県は2024年4月から18歳以下の医療費自己負担分を県と市町村で負担し、県内医療機関と院外薬局での自己負担を実質無償にしています。東京のほうが財政規模は大きくても、住民が窓口で感じる負担がより軽い地域は、すでに珍しくありません。
自治体格差が生まれる理由と今後の焦点
比べる軸は年齢だけではない制度設計
制度の厚さは、単純に「何歳まで無料か」だけでは決まりません。少なくとも四つの軸があります。第一に対象年齢です。第二に所得制限の有無です。第三に窓口での一部自己負担の有無です。第四に、現物給付なのか、いったん払って後から戻る償還払いなのかです。年齢だけ長くても、申請の手間が大きい場合は使い勝手が落ちますし、所得制限や通院負担が残れば家計の印象も変わります。
上島町の制度は、その違いを分かりやすく示します。同町は2024年8月1日診療分から対象を22歳までの学生へ拡大しました。18歳年度末までの子どもは愛媛県内の医療機関で窓口負担0円ですが、18歳年度末から22歳年度末までの学生は償還払いです。手厚い年齢設定である一方、利用方法は一段複雑です。年齢の広さだけを見て「最も充実」と決めると、制度の実際を見誤ります。
なぜ自治体差が残るのかという財政と政策目的
差が残る理由は、制度の根拠が地方の裁量に強く依存しているからです。神奈川県の案内でも、県は市町村事業に補助を行う一方、対象年齢、所得制限、一部負担金の有無については市町村ごとに独自基準を設けていると説明しています。自治体は人口減少対策、子育て世帯の流入、医療アクセス改善、財政余力などを踏まえて制度設計を変えています。
その結果、医療費助成は子育て支援であると同時に、居住政策にもなっています。こども家庭庁の2023年集計でも、22歳年度末までを対象にしていた自治体が通院・入院ともに3つありました。若年人口の流出を防ぎたい地域では、大学生世代まで含める発想がすでに現実化しています。逆に大都市では、対象を広げても一部負担や所得要件を残し、財政負担を調整する設計になりやすい面があります。
注意点・展望
無償化という言葉にも注意が必要です。多くの制度で、入院時の食事代、文書料、予防接種、保険適用外診療、紹介状なし受診の選定療養費などは対象外です。鳥取県も、上島町も、この点を明記しています。学校管理下のけがは日本スポーツ振興センターの給付が優先される場合があり、医療証が使えないケースもあります。
今後の争点は、全国一律制度を作るかではなく、自治体差をどこまで縮めるかです。最新の全国集計でも、市区町村の大半は高校生までの助成に達しており、制度競争の焦点は「18歳まで」から「自己負担ゼロ」「所得制限撤廃」「大学生世代への延長」へ移りつつあります。読者が制度を確認するときは、「都道府県の制度」だけでなく、「住んでいる市区町村の上乗せ」まで見ないと実態をつかめません。
まとめ
子ども医療費助成は、東京対地方の単純な競争ではありません。こども家庭庁の整理どおり、実際には都道府県補助と市区町村上乗せの組み合わせです。東京都のマル青は18歳年度末までを対象にした大きな前進ですが、通院1回200円の負担や所得要件が残る設計です。一方で、鳥取県の18歳以下実質無償や、上島町の22歳までの学生支援のように、住民目線では東京より厚く見える制度はすでに各地にあります。
比較のポイントは、対象年齢、自己負担、所得制限、給付方式の四つです。医療費無償化のニュースを読むときは、「どこが無料になったか」だけでなく、「誰が、どの場面で、どこまで負担しなくてよいのか」を確認する必要があります。その視点を持つと、自治体政策の競争がどこへ向かっているかも見えやすくなります。
参考資料:
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