商品市場が未体験の混乱、ジェット燃料急騰の背景を解説
はじめに
2026年3月の第1週、世界の商品市場は「未体験」とも言える激しい値動きに見舞われました。2月28日に始まった米国・イスラエルによるイラン空爆とその報復攻撃により、原油、天然ガス、ジェット燃料といったエネルギー関連商品が軒並み急騰しています。
とりわけ衝撃的だったのは、イランによるカタールのLNG施設へのドローン攻撃と、ホルムズ海峡の事実上の封鎖です。世界のエネルギー輸送の大動脈が止まったことで、商品トレーダーたちは対応に追われました。この記事では、混乱の1週間に何が起きたのか、そしてジェット燃料がなぜ「いびつな高騰」を見せたのかを解説します。
イラン空爆からホルムズ海峡封鎖へ
米・イスラエルの軍事作戦
2026年2月28日、米国とイスラエルはイランに対する大規模な空爆を開始しました。この作戦にはイラン指導部を標的とした「斬首作戦」が含まれ、最高指導者ハメネイ師が殺害されたと報じられています。イラン大統領府や軍事施設も攻撃対象となりました。
市場関係者の間では、イランへの軍事行動はある程度織り込まれていましたが、攻撃の規模とその後の展開が予想を大きく超えるものとなりました。
ホルムズ海峡の封鎖
空爆開始から数時間後、イラン革命防衛隊(IRGC)はホルムズ海峡を航行する船舶に対し、VHF無線で「通過を許可しない」と警告を発しました。正式な封鎖宣言こそなかったものの、タンカーの通過量は約70%急減し、150隻以上の船舶が海峡外で錨泊して待機する事態に陥りました。その後、通過量はほぼゼロとなっています。
ホルムズ海峡は世界の海上原油輸送の約25%、LNG輸送の約20%が通過する要衝です。この事実上の封鎖が、商品市場に空前の衝撃を与えました。
カタールLNG施設への攻撃
イランの報復はホルムズ海峡の封鎖にとどまりませんでした。イランのドローンがカタールのラスラファン工業都市にある世界最大級のLNG輸出施設を攻撃し、国営エネルギー企業カタールエナジーはLNGおよび関連製品の生産停止を発表しました。メサイード工業都市の施設も被害を受けています。
原油・天然ガス・ジェット燃料の値動き
原油:100ドル突破
米WTI先物は3月6日に1バレル=90.90ドルで取引を終えた後、翌週月曜日の9日には一時119.54ドルまで急騰し、その後105ドル台で推移しました。ブレント原油も開戦直後に80〜82ドルへ10〜13%上昇した後、さらに上昇を続けています。
歴史的に見ても、今回のホルムズ海峡封鎖による原油供給の途絶は「史上最大規模」とされています。
天然ガス:カタール停止の衝撃
カタールのLNG生産停止の影響はさらに劇的でした。欧州の天然ガス先物はカタール施設への攻撃後に約30%上昇し、ベンチマークとなるオランダと英国の卸売ガス価格は約50%急騰しました。アジアのLNG価格も約39%上昇しています。
カタールは世界最大級のLNG輸出国であり、その生産停止は欧州やアジアのエネルギー供給に直接的な脅威となっています。
ジェット燃料:いびつな高騰の構造
今回の危機で特に際立ったのが、ジェット燃料価格の「いびつな高騰」です。原油価格の上昇率を大きく上回る形で、ジェット燃料は約15%の急騰を記録しました。
この不均衡な価格上昇には構造的な理由があります。クウェートはジェット燃料の地域的な供給ハブの役割を果たしており、ホルムズ海峡の封鎖によりクウェートからの輸出が滞ると、欧州の航空燃料供給が直接的に逼迫します。英国の3月・4月・5月限の先物契約は、それまでのディスカウントから一転してプレミアムに転じるなど、通常ではありえない価格構造が生まれました。
デルタ航空の株価は3月第1週に12%下落しており、ジェット燃料価格の15%上昇が2026年の業績見通しを吹き飛ばす恐れがあるとの懸念が広がっています。
日本経済への影響
ガソリン・電気代の上昇
日本は原油輸入の約9割を中東に依存しており、ホルムズ海峡の封鎖は直撃となります。試算によれば、原油1バレル=100ドルの状態が続くと、ガソリン価格は1リットルあたり235円に達する可能性があります。電気・ガス代も2割程度の上昇が見込まれています。
航空各社も燃料費の急騰を受け、成長計画の見直しを迫られています。ゴールデンウィークを控えた時期の燃料高騰は、旅客運賃や旅行需要にも影響を及ぼす可能性があります。
注意点・展望
今後の商品市場の行方は、軍事情勢に大きく左右されます。ホルムズ海峡の封鎖が長期化すれば、原油価格は130ドルまで上昇する局面も想定されます。一方で、米国とイランの協議が始まれば、価格は急落に転じる可能性もあります。
カタールのLNG施設の復旧にも時間がかかる見通しで、カタールエナジーはLNG拡張計画を2027年に延期する方針と報じられています。欧州やアジアのガス調達先の多様化が急務となっています。
商品市場では、こうした地政学リスクによる「実需」と「投機」の両面が価格を押し上げており、ボラティリティの高い状態がしばらく続くとみられます。
まとめ
米・イスラエルのイラン空爆に端を発した2026年3月の商品市場の混乱は、ホルムズ海峡封鎖とカタールLNG施設攻撃という二重の供給ショックにより、歴史的な規模に発展しました。原油は100ドルを突破し、天然ガスは50%急騰、ジェット燃料は供給ハブの遮断により「いびつな高騰」を見せています。
エネルギー輸入大国である日本にとっても影響は深刻で、ガソリンや電気代の上昇が家計を直撃する懸念があります。軍事情勢と外交交渉の行方が、今後の価格動向を大きく左右することになります。
参考資料:
- Strait of Hormuz Global Oil, Gas Trade Disrupt Amid Iran War - TIME
- 2026 Strait of Hormuz crisis - Wikipedia
- Iranian Drone Strike Cripples Qatar’s Massive LNG Export Complex - gCaptain
- Gas, Diesel, Jet Fuel Prices Climb as Iran War Chokes Supplies - Bloomberg
- 原油価格が1バレル=100ドル突破、イラン情勢悪化で - Bloomberg
- イラン長期化「GW直撃」ガソリンも飛行機代も急騰 - J-CAST
- 航空各社が成長計画見直し、イラン戦争で見通し一転 - Bloomberg
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