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by nicoxz

化粧品市場で読む景気の現在地、訪日中国人減少の影響度最新分析

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はじめに

化粧品は、景気の体温を測るうえで意外に有効な分野です。生活必需品ほど守りの需要ではなく、耐久財ほど大きく先送りもされにくいため、家計の余裕、外出機会、訪日客の動き、価格転嫁の浸透度が同時に表れやすいからです。足元では、訪日中国人の減少が目立つ一方、国内の化粧品市場そのものは崩れていません。むしろ、需要の担い手と売れ方が変わりつつあることが重要です。

2025年の訪日外国人旅行消費額は観光庁によると9兆4,559億円で過去最高でした。消費額上位は中国、台湾、米国、韓国、香港の順で、中国の存在感は依然として大きいです。ただ、化粧品市場全体を中国客だけで説明する段階はすでに過ぎています。本稿では、国内需要の回復、高単価化、販売チャネルの変化、そして中国客減少が残すリスクを整理し、化粧品から見える日本景気の現在地を読み解きます。

市場の底堅さを支える需要構造

国内需要と高単価化の進行

矢野経済研究所によると、2024年度の国内化粧品市場規模は前年度比104.1%の2兆5,800億円でした。外出機会の増加に加え、プレミアム商品の拡大や価格改定の浸透が市場を押し上げた構図です。単純に「数量が増えた」だけではなく、「より高価格の商品が選ばれるようになった」ことが市場全体を支えています。

家計側のデータも、極端な節約一辺倒ではないことを示します。日本化粧品工業会が引用する総務省家計調査では、2人以上世帯の年間平均化粧品支出額は2024年に3万8,436円でした。物価高のなかでも、スキンケアや身だしなみに関する支出が一定水準で維持されていることになります。化粧品は衣食住のような必需品ではありませんが、外見管理やセルフケアの一部として支出が定着している面が強いです。

この点は景気判断でも重要です。景気が本格的に悪化する局面では、化粧品はまず低価格品へのシフトが進み、次に買い替え頻度や点数の減少が起きやすくなります。ところが足元では、百貨店でも一部ブランドの価格改定前の駆け込み需要が発生しており、需要の総崩れではなく、ブランドやチャネルごとの選別が進んでいる段階です。

男性需要と用途拡張の広がり

化粧品市場を下支えしているのは、従来の女性向けメイク需要だけではありません。矢野経済研究所は2025年の市場調査で、訪販流通などでメンズコスメやフェムケアといった新規領域の開拓が進んでいると整理しています。市場の裾野が広がっているため、特定の顧客層や国籍への依存度が以前より下がっているとみるべきです。

男性需要の拡大は、売上規模の急増というより、日常需要の底上げとして効いています。洗顔や化粧水、UVケアのような基礎的なスキンケアが広がると、景気敏感なメイク需要より安定的な売上が積み上がります。さらに、敏感肌向け、エイジングケア、医療周辺のドクターズコスメなど、機能訴求型のカテゴリーも伸びています。

つまり、化粧品市場は「景気がいいから売れる」だけの単純な業界ではなくなっています。身だしなみ、自己投資、健康、美容医療との接続といった複数の文脈が売上を支えており、これが中国客減少のショックを和らげるクッションになっています。

訪日中国人減少でも影響が限定的な理由

中国依存の後退とインバウンドの多極化

中国市場の重要性が低下したわけではありません。観光庁の2025年暦年速報では、訪日外国人旅行消費額の国別首位は中国でした。ただし、訪日客全体の構成は大きく変わっています。JNTOによると、2026年1月の訪日外客数は359万7,500人で前年同月比4.9%減でしたが、中国は38万5,300人と60.7%減少しました。一方で韓国は117万6,000人と21.6%増です。2026年2月も総数は346万6,700人で2月として過去最高でしたが、中国は39万6,400人と45.2%減でした。総数が高水準でも中国だけが大きく落ちる構図になっています。

この数字だけを見ると、小売や化粧品に大打撃が出ても不思議ではありません。ところが、総需要は別の国・地域が補っています。韓国、台湾、米国、東南アジアの一部市場が増え、インバウンド全体は一極集中から多極化へ向かっています。化粧品は特に、この多極化の恩恵を受けやすい商材です。高級時計や宝飾ほど購入単価が極端ではなく、国籍をまたいで比較的共通の需要を取り込みやすいためです。

さらに、足元の中国減少には特殊要因も含まれます。JNTOは2026年1月について、春節の月ずれ、中国政府による日本渡航回避の注意喚起、航空便の減便を背景に挙げています。構造要因だけでなく、時期要因と政策要因が重なった面があるため、短期の落ち込みをそのまま中長期の需要消失とみなすのは早計です。

爆買い終息と体験消費への転換

中国客減少の影響が軽微に見えるもう一つの理由は、売れ方そのものが変わったためです。アイスタイルの業界向けコラムによると、@cosme OSAKAでは2024年の免税売上上位30商品の95%が日系ブランドで、全体売上上位30商品との重複率は76%でした。つまり、訪日客向けの特別な売れ筋が別に存在するのではなく、日本人に人気のある商品がそのままインバウンドにも売れている構図です。

同じ資料では、いわゆる大量の「爆買い」は減り、店頭で試し、接客を受け、自分向けに選んで買う行動が増えていると整理されています。これは重要な変化です。爆買い型の需要は、為替、航空便、地政学、政策変更に大きく左右されますが、体験型・選択型の需要は店舗力やブランド力に紐づきます。つまり、需要の源泉が「国籍」から「商品体験」へ少しずつ移っているわけです。

この変化は国内客との相乗効果も生みます。@cosme OSAKAでは、ベストコスメ受賞ブランドの免税売上が大きく伸びた事例が紹介されており、日本国内で支持されることがそのまま訪日客の購買にもつながりやすいことが分かります。中国客が減っても、日本市場での競争力を持つブランドや売り場は、他国客や国内客へ需要を横展開しやすいです。

影響が残る領域と今後の見通し

百貨店と都市型売り場の温度差

中国客減少の影響が「軽微」といっても、無風ではありません。日本百貨店協会の2026年1月データでは、全国百貨店売上高は前年同月比2.3%増、国内売上は5.5%増でしたが、インバウンド免税売上は19.1%減でした。協会は、春節の月ずれや中国の渡航自粛要請、航空便数減少を背景として挙げています。化粧品売上自体は40,638,228千円で0.2%増と小幅ながらプラスを維持しましたが、これは国内売上の堅調さに助けられた側面が大きいです。

したがって、影響が限定的なのは「業界全体」であって、「すべての企業・店舗」ではありません。都心百貨店の高級ブランドカウンター、空港免税店、中国語対応を前提に集客してきた店舗は、なお逆風を受けやすいです。反対に、ドラッグストア、バラエティショップ、口コミ連動型の専門店、国内顧客基盤の厚いECは、需要の分散を取り込みやすい構造です。

日本化粧品工業会の統計が示すように、日本の化粧品輸出はなお中国向け比率が高く、インバウンドだけでなく対中輸出面でも中国依存は残っています。そのため、訪日中国人の減少が軽微だからといって、中国リスク全体が薄れたと判断するのは危険です。国内小売では耐性がついてきた一方、メーカーの海外売上や越境需要ではなお注意が必要です。

注意点・展望

よくある誤解は、訪日中国人が減れば化粧品市場全体も同じ比率で縮むという見方です。実際には、国内需要、他国インバウンド、高単価化、チャネル分散がクッションとして働きます。逆に、総市場が底堅いから中国の影響は無視できると考えるのも誤りです。都市部の特定売り場や中国依存の高いブランドでは、客数減が利益率に直結しやすいからです。

今後の焦点は3つあります。第1に、中国客数が政策・航空便要因の反動でどこまで戻るかです。第2に、韓国、台湾、東南アジア、北米などの来訪者が化粧品購買をどこまで代替するかです。第3に、国内で高単価商品を支えてきた実質所得の余力が維持されるかです。

化粧品は景気後退の先行指標ではなく、需要の質の変化を映す鏡として見るのが適切です。足元の日本経済は、全面的な失速というより、消費の中身が細かく選別される段階にあります。化粧品市場の底堅さは、そのことを比較的わかりやすく示しています。

まとめ

化粧品から見える景気の姿は、単純な好不況ではありません。2024年度の国内市場は2兆5,800億円まで拡大し、家計支出も一定水準を維持しています。2026年1月と2月には訪日中国人が大きく減ったものの、韓国や台湾など他市場の増加、国内需要の堅調さ、高単価化、体験型購買への移行が全体の落ち込みを抑えました。

一方で、都心百貨店や中国依存の高いブランドにはなお逆風が残ります。読むべきポイントは、「中国客が減ったか」ではなく、「誰が、どのチャネルで、どの価格帯を支えているか」です。化粧品市場は、景気そのものより、日本の消費がどれだけ多層化し、国籍依存から顧客体験依存へ移っているかを示す材料として見ると、実像がつかみやすくなります。

参考資料:

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