高島屋インバウンド売上3割減見通しの背景と影響
はじめに
高島屋が2027年2月期の訪日外国人向け売上高について、ピークだった2025年2月期から3割減の840億円程度にとどまる見通しを明らかにしました。これは、日中対立による中国人観光客の減少が長期化するとの判断に基づいています。
日本のインバウンド市場において、中国人観光客は消費額で最大のシェアを占めてきました。その減少は百貨店業界に大きな影響を与えるだけでなく、日本経済全体にも波及する可能性があります。本記事では、高島屋の見通しの背景にある日中関係の緊張と、百貨店業界が直面する課題について詳しく解説します。
日中対立と中国人観光客の激減
渡航自粛要請の影響
2025年11月、中国政府は国民に対して日本への渡航自粛を呼びかけました。高市早苗首相の台湾有事を巡る発言をきっかけに高まった日中間の緊張が、観光交流にも影を落とした形です。
中国外務省は11月14日に自国民に日本への渡航を自粛するよう呼びかけ、16日には中国教育省が日本への留学計画を慎重に検討するよう通知を公表しました。17日には中国の複数の大手旅行会社が日本旅行の販売を停止する事態にまで発展しています。
数字で見る減少の実態
中国人観光客の減少は数字にも明確に表れています。2025年11月の訪日中国人客数は前年比21.4%減となりました。前年の減少率が約6%だったことと比較すると、急激な落ち込みであることがわかります。
中国側では団体観光客の規制や直行便の減少に加え、外交部などが日本の「治安悪化」や震災リスクを過度に強調する情報発信を続けており、その影響が如実に反映されています。
百貨店業界への影響
高島屋の業績悪化
高島屋の2025年3〜5月期の連結営業利益は前年同期比で2割強減少し、営業損益の悪化は同期間としては5年ぶりとなりました。円高の進行に加え、訪日客の消費意欲が鈍ったことが要因です。
2025年12月度の売上速報でも、インバウンド売上高は前年比11.1%減となっています。一方で、9〜11月期には国慶節の影響もあり中国人観光客による売上高が一時的に回復した時期もありましたが、渡航自粛要請後は再び減少に転じています。
地域による影響の濃淡
中国人観光客の減少による影響は、地域や業態によって大きく異なります。富士山周辺や関西地方など「中国人が好む」観光地、空港免税店や百貨店の高級品部門など、中国への依存度が高い地域や業界がピンポイントで打撃を受けています。
大阪市西成区で民泊を運営する事業者によると、所有する約80部屋の民泊では年内までに600組、1,000人以上の予約がキャンセルになったとのことです。
経済損失と今後の見通し
1.8兆円規模の損失試算
野村総合研究所の試算によると、2012年の尖閣問題時と同様の影響が続いた場合、日本の経済損失は1兆7,900億円に上るとされています。当時も中国政府から渡航自粛要請が出され、その影響は約1年間続き、中国からの旅行者数は約25%減少しました。
2025年の中国人客による消費は2兆円程度の見通しであり、この規模の市場が縮小することの影響は甚大です。
ビジネスモデルの転換
今後も当面この状況は継続するとみられ、日本のインバウンド市場のビジネスモデル転換が求められています。香港、台湾、東南アジア向けへのシフトが強まると予想されており、百貨店各社は顧客基盤の多様化を急いでいます。
三越伊勢丹はアプリを活用した海外優良顧客の囲い込みを進めるなど、中国依存からの脱却を模索する動きも出始めています。
注意点・展望
回復時期は不透明
日中関係の改善がなければ、訪日中国人客の本格的な回復は見込めません。過去の尖閣問題時には約1年で正常化しましたが、今回は米中対立という大きな構造的要因も絡んでおり、より長期化する可能性があります。
為替変動リスク
円相場の変動もインバウンド消費に大きな影響を与えます。円高が進めば、日本での買い物の割安感が薄れ、中国人以外の観光客の消費意欲にも影響する可能性があります。
まとめ
高島屋が示した訪日客向け売上高3割減の見通しは、日中対立の長期化を前提とした厳しい判断です。中国人観光客への依存度が高かった百貨店業界は、顧客基盤の多様化という構造的な課題に直面しています。
インバウンド市場全体としては過去最高を記録する月もありますが、中国人観光客の減少を他の国・地域からの観光客でどこまで補えるかが、今後の百貨店業績を左右するポイントとなるでしょう。
参考資料:
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