原油価格の行方、130ドル上昇か60ドル台下落かを分析
はじめに
2026年2月28日の米・イスラエルによるイラン攻撃を機に、原油価格が急騰しています。WTI先物は一時1バレル=119.54ドル、ブレント原油も119.50ドルに達し、2022年のロシアによるウクライナ侵攻以来初めて100ドルを突破しました。
市場関係者の間では、今後のシナリオが大きく分かれています。米・イラン間の協議が始まれば年央に60ドル台へ下落するとの見方がある一方、ホルムズ海峡封鎖が長期化しイランが地域のエネルギーインフラを攻撃すれば130ドルを超える可能性も指摘されています。本記事では、識者の分析をもとに原油価格の行方を整理します。
原油価格急騰の経緯
開戦から100ドル突破まで
2月28日の空爆開始直後、ブレント原油は10〜13%上昇して80〜82ドルに達しました。その後、イランによるホルムズ海峡封鎖の動きが伝わると上昇が加速し、3月6日にWTIは90.90ドル(1週間前比36%上昇)、ブレントは92.69ドル(同27%上昇)で取引を終えました。
3月8日〜9日にかけてはさらに急騰し、ブレント原油は一時119.50ドル、WTIは119.54ドルに到達。原油価格が1バレル=100ドルを超えたのは約4年ぶりです。しかし、トランプ大統領が早期の戦争終結を示唆したことで一時90ドル割れまで急落するなど、極めてボラティリティの高い展開が続いています。
ホルムズ海峡封鎖のインパクト
今回の急騰の最大の要因は、世界の海上原油輸送の約25%が通過するホルムズ海峡の事実上の封鎖です。イラン革命防衛隊による船舶への警告と実際の攻撃により、タンカーの通航量はほぼゼロにまで落ち込みました。さらに、イランのドローンによるカタールのLNG施設攻撃が天然ガス市場にも波及し、エネルギー市場全体にパニックが広がりました。
識者の見通し:3つのシナリオ
シナリオ1:早期協議で60〜70ドル台へ
欧州の調査会社アリアンツの分析では、4週間以内に米・イラン間で合意に至るベースラインシナリオの場合、ブレント原油は一時85ドルまで上昇するものの、2026年末には70ドル前後に落ち着くとされています。
Bloombergの報道によれば、イラン情報省の工作員が第三国の情報機関を通じてCIAに接触し、戦争終結の条件を協議する提案を行ったとされています。トランプ大統領が早期終結を示唆している点も、この楽観的シナリオを支える材料です。
開戦前の市場コンセンサスでは、2026年のブレント原油の平均価格は63.85ドル、WTIは60.38ドルと予想されていました。協議が進展すれば、この水準への回帰も視野に入ります。
シナリオ2:長期化で100ドル前後
ホルムズ海峡封鎖が数カ月にわたって継続するものの、全面的なエスカレーションには至らないシナリオです。この場合、ブレント原油は100ドル前後で推移する可能性があります。
アリアンツの分析では、ホルムズ海峡での大規模な混乱が続いても、市場は最終的に適応し、2026年末には70ドル前後に収束するとの見方が示されています。代替輸送ルートの確保や戦略石油備蓄の放出、OPECプラスの増産余力が価格抑制要因として働くためです。
シナリオ3:エスカレーションで130ドル超
最悪のテールリスクシナリオは、イランが周辺国のエネルギーインフラに対する組織的な攻撃を行い、海峡の通航が完全に停止する場合です。この場合、ブレント原油は130ドルを超える可能性があるとされています。
カタールのLNG施設が既に攻撃を受けたことは、このシナリオが決して非現実的ではないことを示しています。サウジアラビアやUAEの石油施設が攻撃対象となれば、供給ショックは歴史的な規模に達し、140ドルに迫る「戦争プレミアム」が乗る展開も否定できません。
日本経済への影響
ガソリン価格と物価
原油価格の高騰は日本経済に直接的な影響を及ぼします。第一生命経済研究所の分析では、原油1バレル=100ドルが続くと、ガソリン価格は1リットルあたり235円に達する可能性があります。レギュラーガソリンの全国平均価格はすでに上昇基調にあり、家計への負担増大が懸念されています。
電気・ガス代も2割程度の上昇が見込まれ、政府が実施してきた物価高対策の効果が相殺される恐れがあります。原油高は輸入物価を押し上げ、食品や日用品の値上げにも波及する構図です。
金融市場への影響
原油高騰はインフレ圧力を高め、日銀の金融政策にも影響を与えます。インフレが加速すれば利上げ圧力が強まる一方、景気減速リスクも高まるというジレンマに直面することになります。
株式市場でも、エネルギー関連銘柄が急騰する一方、航空・運輸・化学などのセクターは燃料コスト増大の懸念から売り圧力にさらされています。
注意点・展望
原油価格の見通しは、軍事情勢と外交交渉の行方に極めて敏感です。トランプ大統領の発言一つで10ドル以上の値動きが生じる状況であり、予測の難度は過去に例を見ないレベルに達しています。
投資家にとっては、地政学リスクに過度に反応せず、中長期的なファンダメンタルズ(需給バランス)を見据えることが重要です。中国経済の減速や世界的な景気後退リスクは、需要面から原油価格を下押しする要因として引き続き存在しています。
一般消費者にとっては、ガソリン価格や光熱費の上昇に備えた家計管理が求められます。政府の補助金政策の動向にも注視が必要です。
まとめ
原油価格は米・イスラエルのイラン攻撃とホルムズ海峡封鎖を受けて100ドルを突破し、歴史的なボラティリティを見せています。今後は、早期協議実現で60ドル台に下落するシナリオから、エスカレーションで130ドルを超えるシナリオまで、幅広い展開が想定されます。
日本経済への影響は大きく、ガソリン・電気代の上昇や物価への波及が懸念されます。軍事・外交の動向が価格を大きく左右するため、最新の情勢を注視しながら、複数のシナリオに備えた対応が求められる局面です。
参考資料:
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