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by nicoxz

原油価格が歴史的乱高下、ホルムズ海峡封鎖の行方

by nicoxz
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はじめに

2026年3月、原油市場が歴史的な乱高下に見舞われています。米原油先物(WTI)は3月9日に一時1バレル119ドル付近まで急騰した後、40ドル近く下落し、1日の値幅としては過去2番目の大きさを記録しました。前週には週間ベースで約35%上昇し、1983年の先物取引開始以来最大の週間上昇率となっています。

この乱高下の根本原因は、イラン革命防衛隊によるホルムズ海峡の封鎖です。世界の原油供給の約20%が通過するこの海峡が遮断された状態が続く限り、市場の不安定さは解消されません。本記事では、原油価格の激しい変動の背景と今後のリスクを詳しく分析します。

原油価格乱高下の経緯と背景

2月末からの急騰プロセス

原油価格の急変は、2月28日の軍事衝突に端を発しています。米国とイスラエルによるイランへの精密空爆が実施され、イランの最高指導者ハメネイ師と革命防衛隊幹部7人が死亡したと報じられました。

軍事衝突前日の2月27日時点でWTIは1バレル67ドル台でした。その後の価格推移は以下の通りです。

  • 3月2日: イラン革命防衛隊がホルムズ海峡封鎖を宣言。WTIは8.4%上昇し72.74ドルに
  • 3月5〜6日: 海峡封鎖の長期化懸念が広がり、76ドル台へ上昇
  • 3月8日: 原油価格が約4年ぶりに1バレル100ドルを突破。ブレント原油は一時126ドルまで急騰
  • 3月9日: WTIが119ドル付近に達した後、トランプ大統領の停戦示唆発言やG7の備蓄放出協議の報道で急落し、80ドル台まで下落

わずか10日間で67ドルから119ドルへ約77%上昇し、その後1日で40ドル近く下落するという、異常な値動きとなりました。

過去の記録的変動との比較

原油先物の1日の値幅として過去最大を記録したのは、2020年4月20日のいわゆる「マイナス原油」の日で、WTIが史上初のマイナス価格をつけました。今回の値幅はこれに次ぐ過去2番目の大きさです。

ただし、2020年のケースは新型コロナウイルスによる需要消滅と先物の受け渡し期限が重なった特殊な状況でした。それに対し、今回は地政学的リスクによる供給途絶という、より構造的な要因に基づく変動である点が異なります。

ホルムズ海峡封鎖の影響と供給リスク

世界のエネルギー供給の要衝

ホルムズ海峡は、ペルシャ湾とオマーン湾を結ぶ幅わずか約33キロメートルの海峡です。日量約2,000万バレルの原油、つまり世界の日量消費量の約20%がこの海峡を通過しています。

サウジアラビア、UAE、クウェート、イラク、カタールなど主要産油国の輸出ルートが集中しており、この海峡が封鎖されることは世界のエネルギー供給に甚大な影響を及ぼします。

周辺産油国への波及

ホルムズ海峡の封鎖は、直接的な通航停止だけでなく、周辺産油国の生産にも深刻な影響を与えています。UAEとクウェートはすでに原油生産の削減を開始しており、イラクの生産は約60%減少したと報じられています。

タンカーがホルムズ海峡の通航を回避する動きが広がり、積み込み可能な空船の数が急速に減少しています。原油市場では「エクストリーム・バックワーデーション」と呼ばれる状態に入り、直近の原油が次月の先物より14.20ドルも高い異例のプレミアムがついています。これは、買い手が利用可能なタンカーを求めて必死になっている状況を反映しています。

日本への具体的影響

日本は原油輸入の約9割を中東に依存しており、ホルムズ海峡封鎖の影響は特に深刻です。ニッセイ基礎研究所の分析によると、原油価格が大きく動かない場合でも2〜3週間後にはガソリン価格が170円前後まで上昇する見込みです。

海峡での攻撃リスクが高止まりし、タンカーの航行停滞が2〜3カ月以上続く場合、原油価格が1バレル100ドルを突破する恐れがあります。高市総理は日本の石油備蓄が254日分あると説明していますが、実際に即座に放出可能なのは国家備蓄の146日分程度との指摘もあり、備蓄の実効性をめぐる議論も起きています。

価格急落の要因と再急騰リスク

急落をもたらした3つの要因

3月9日の40ドル近い急落は、主に3つの要因が重なったことで生じました。

第一に、トランプ大統領がイランとの戦争が終結に向かっている可能性を示唆する発言を行ったことです。外交的な解決への期待が一気に高まりました。

第二に、G7が石油備蓄の協調放出を検討しているとの報道です。最大4億バレル規模の放出が議論されていることが伝わり、供給不安が一時的に和らぎました。

第三に、テヘランでの暫定統治体制や国際仲介者を介した「出口戦略」に関する外交シグナルが報じられたことです。

なぜ再急騰リスクが消えないのか

しかし、これらの急落要因はいずれも「期待」や「観測」に基づくものであり、実態は大きく変わっていません。ホルムズ海峡の封鎖は依然として続いており、イラン革命防衛隊による船舶への攻撃リスクも高止まりしています。

外交的な解決が実現しない場合、市場は再び供給不安に支配される可能性が高く、原油価格が120ドル超へ急騰するシナリオは依然として現実的です。アリアンツの分析レポートでは、紛争が激化した場合に原油価格が140ドルに達する「戦争プレミアム」シナリオも示されています。

注意点・展望

価格変動に惑わされない視点

原油価格の乱高下が続く中、短期的な価格変動に一喜一憂するのは危険です。今回の変動の本質は、ホルムズ海峡という世界のエネルギー供給の要衝が封鎖されているという構造的な問題にあります。外交的な解決が実現するまで、高いボラティリティが続くと考えるべきです。

肥料ショックという隠れたリスク

原油価格の急騰に注目が集まっていますが、ニューズウィーク誌が指摘するように「肥料ショック」という隠れたリスクも存在します。ペルシャ湾岸諸国は世界の肥料生産の大きな割合を占めており、海峡封鎖が長期化すれば食料価格の高騰にも波及する恐れがあります。

今後の焦点

当面の焦点は、外交交渉の進展とホルムズ海峡の通航再開の見通しです。G7の備蓄放出は時間稼ぎの効果がありますが、根本的な解決にはなりません。今後1〜2週間の外交動向が、原油市場の方向性を決定づけることになるでしょう。

まとめ

原油先物の1日の値幅が過去2番目を記録したことは、市場の混乱の深刻さを物語っています。トランプ大統領の発言やG7の備蓄放出協議は一時的な安心材料となりましたが、ホルムズ海峡封鎖という根本原因が解消されない限り、再急騰リスクは残り続けます。

日本を含むエネルギー輸入国にとって、この危機は石油備蓄の重要性と中東依存のリスクを改めて突きつけています。短期的には価格変動への備え、中長期的にはエネルギー調達先の多様化が急務です。今後の外交交渉と市場動向を注意深く見守る必要があります。

参考資料:

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