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by nicoxz

原油高騰が航空・化学業界の業績を直撃する構図

by nicoxz
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はじめに

2026年3月、原油価格が急騰しています。北海ブレント原油先物は3月11日に終値で1バレル=100ドルを突破し、2022年8月以来の大台に乗せました。WTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)も一時119ドル台に達する場面がありました。

この急騰の背景にあるのは、イラン情勢の緊迫化とホルムズ海峡の事実上の封鎖です。世界の原油輸送量の約5分の1が通過するこの要衝が機能不全に陥ったことで、「戦争プレミアム」が市場に織り込まれています。

原油価格の高止まりは、航空業界や化学業界など幅広い産業の業績に深刻な影響を及ぼします。本記事では、原油高騰がどのような経路で企業収益を圧迫するのか、業種別に解説します。

原油高騰の背景:ホルムズ海峡の混乱と戦争プレミアム

イラン情勢がもたらす供給ショック

今回の原油高騰は、需要拡大によるものではありません。本質は、イランへの軍事的緊張に伴う「戦争プレミアム」の急激な織り込みです。

イランの新最高指導者がホルムズ海峡の閉鎖継続を主張したことで、世界のエネルギー流通の約20%が影響を受けています。主要な湾岸産油国は貯蔵が限界に達し、生産削減を余儀なくされました。

国際エネルギー機関(IEA)は戦略的備蓄から4億バレルの歴史的な放出を発表しましたが、価格の沈静化にはほとんど効果がありませんでした。市場は供給の先行き不透明感を強く意識しています。

価格の推移と今後の見通し

ブレント原油は2026年3月時点で100ドルを超える水準にあります。短期的には95ドル以上で推移するとの見方が多く、2026年第3四半期以降に80ドルを下回る可能性が指摘されています。

ただし、これはホルムズ海峡の状況が改善することを前提とした予測です。地政学リスクが長期化すれば、高値圏での推移が続く可能性も否定できません。

航空業界:燃料費の急増が利益を圧迫

ジェット燃料コストの構造

航空業界にとって、原油価格の変動は業績に直結します。ジェット燃料のケロシンは原油を精製して作られるため、原油価格の上昇はそのまま燃料費の増大につながります。

ANAホールディングスの2025年度4〜12月期の決算資料によると、燃油費・燃料税は計3,492億円にのぼり、営業費用全体の2割を超えています。1バレルあたりの価格が1ドル上昇するごとに、今期の収支に約2億円のマイナス影響があると試算されています。

JAL(日本航空)の場合、現在の原油価格水準が続けば月100億円超の費用増が見込まれます。年間に換算すれば1,000億円以上の追加コストとなり、利益を大きく押し下げる要因です。

ヘッジ取引の限界と燃油サーチャージ

航空各社は原油のヘッジ取引を行い、燃油価格の変動リスクを軽減しています。JALやANAなど大手航空会社はヘッジにより一定の耐性を持っていますが、今回のような急激な価格上昇に対しては、ヘッジポジションの状況によって短期的な業績改善に寄与しない場合もあります。

消費者への価格転嫁の手段として、燃油サーチャージがあります。2026年4〜5月分の燃油サーチャージは13,166円を基準に設定されており、2〜3月分から据え置きとなっています。ただし、シンガポール市場のケロシン価格を指標に2か月ごとに見直されるため、今後の改定で大幅な引き上げとなる可能性があります。

燃油サーチャージで全額を顧客に転嫁することは現実的に困難です。価格の引き上げが旅客需要の減退を招くリスクもあり、航空各社は板挟みの状況にあります。

化学・素材業界:原材料コストの連鎖的上昇

ナフサを起点とする価格転嫁の波及

化学業界における原油高の影響は、ナフサ価格を通じて波及します。ナフサは原油を精製して得られる石油製品の一つで、プラスチックや合成繊維、合成ゴムなど多くの化学製品の出発原料です。

化学産業の価格転嫁は、「原油→ナフサ→エチレン等→樹脂→プラスチック製品」という段階を経て進みます。原油価格が上昇すればナフサの生産コストが増加し、川下の化学製品全般に価格上昇圧力がかかります。

過去の分析では、原油価格が2倍になった場合、化学製品の投入物価が13%上昇するとのデータがあります。素材型製造業種は経常利益が大きく押し下げられる傾向にあり、化学業界はその影響を最も受けやすい業種の一つです。

幅広い業種に及ぶ影響

原油高の影響は化学業界だけにとどまりません。原油を原材料として使用するタイヤ、製紙業界、燃料として使用する陸運・海運業界、発電用重油を使う電力業界にも波及します。

民間の試算によれば、原油価格が1バレル=60ドルから90ドルに上昇した場合、主要企業全体の経常利益を約5%押し下げるとされています。現在の価格水準は90ドルをはるかに超えており、影響はさらに深刻です。

注意点・展望

一般消費者への波及

原油高の影響は企業業績だけでなく、一般消費者の生活にも及びます。経済産業省の発表によると、2026年3月9日時点のレギュラーガソリンの全国平均小売価格は161.8円/Lで、4週連続の上昇となっています。

ガソリン価格の上昇は物流コストの増大を通じて食品や日用品の値上げにもつながり、インフレ圧力を強める要因です。日本経済全体にとって、原油高騰は無視できないリスクとなっています。

地政学リスクの先行き

今後の原油価格は、ホルムズ海峡の状況とイラン情勢の推移に大きく左右されます。事態が収束に向かえば価格は下落する可能性がありますが、紛争が長期化すれば高値が定着するリスクもあります。

企業にとっては、原油価格の変動に対する柔軟な対応力が問われる局面です。ヘッジ戦略の見直しや、エネルギー効率の改善、代替エネルギーへの移行など、中長期的な取り組みが重要性を増しています。

まとめ

原油価格の急騰は、航空業界では燃料費の直接的な増大、化学・素材業界ではナフサを起点とする原材料コストの上昇という形で、企業業績に深刻な影響を与えています。民間試算では主要企業の経常利益を5%程度押し下げるとされていますが、現在の価格水準を考えれば影響はさらに大きくなる可能性があります。

地政学リスクが収束しない限り、原油高の影響は当面続く見込みです。投資家や企業経営者はもちろん、一般消費者にとっても、原油価格の動向を注視する必要があります。エネルギーコストの上昇に対する備えが、今後ますます重要になるでしょう。

参考資料:

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