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by nicoxz

原油高騰がアジア新興国の暮らしを直撃する理由

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はじめに

2026年3月、国際原油価格が急騰し、アジア各国の市民生活に深刻な影響を及ぼしています。国際原油指標のWTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)先物価格は一時1バレル119ドル付近まで上昇し、約3年9カ月ぶりの高値圏に達しました。ブレント原油も100ドルを突破しています。

背景にあるのは、中東情勢の急激な悪化です。2026年2月28日の米国・イスラエルによるイランへの軍事攻撃を受け、イラン革命防衛隊がホルムズ海峡の通航制限に踏み切りました。世界の原油輸送の約2割が通過するこの海峡が事実上の封鎖状態に陥ったことで、エネルギー市場は大きく揺れています。

この記事では、原油高騰がアジア新興国の暮らしにどのような影響を与えているのか、各国の対応策とともに解説します。

アジア新興国を襲うエネルギー危機

中東依存度の高さが裏目に

アジア各国は中東産原油への依存度が高く、今回の危機の影響を受けやすい構造にあります。日本は原油輸入の94%を中東に依存し、タンカーの93%がホルムズ海峡を通過します。同様に、東南アジア諸国も中東からの原油調達に大きく頼っており、海峡の混乱は地域全体のエネルギー供給に直結しています。

ING(オランダの金融グループ)の分析によると、タイ、韓国、ベトナム、台湾、フィリピンが特に影響を受けやすい国として挙げられています。原油価格の上昇によるCPI(消費者物価指数)への影響は、アジア全域で0.1〜0.9ポイントの押し上げが見込まれており、フィリピンやベトナム、韓国がとりわけ敏感とされます。

ベトナム:ガソリン3割値上がりと買いだめ騒動

ベトナムでは、ガソリン価格が急激に上昇しています。3月7日の価格調整では、燃料価格が1リットルあたり3,777〜8,490ベトナムドン引き上げられました。高品質ガソリン(RON95)は1リットルあたり26,830ドン、レギュラーガソリン(E5 RON92)は26,070ドンに達し、2022年7月以来の高水準です。

南部のダクラク省では住民が燃料の買いだめに走り、給油所に長蛇の列ができました。バイクが主要な移動手段であるベトナムでは、ガソリン価格の上昇は市民生活に直結します。配車アプリ大手のグラブは3月10日から料金引き上げを実施し、運輸コストの転嫁が始まっています。

ベトナム政府は緊急対応として、政令第72/2026号を発布し、ガソリンとディーゼルの輸入関税をゼロに引き下げる措置を講じました。大規模な供給不足こそ回避していますが、物価全般への波及が懸念されています。

フィリピン:異例の週4日勤務制を導入

フィリピンでは、エネルギー節約のためにさらに踏み込んだ措置が取られています。マルコス大統領は3月9日から、政府機関の一部で週4日勤務制を一時的に導入することを命じました。教育省では非教員職員を対象にこの制度が適用されており、政府全体のエネルギー消費削減を目指す緊急措置の一環です。

フィリピンでは3月に入ってからガソリン価格が8週連続、ディーゼルと灯油が10週連続で値上がりしており、家計への圧迫が深刻化しています。フィリピン商工会議所(PCCI)は、製造業など操業を止められない産業への影響を慎重に検討するよう政府に求めており、経済界からは懸念の声も上がっています。

新興国経済への中長期的なリスク

消費需要の冷え込みと成長鈍化

アジア新興国はこれまで旺盛な内需を背景に高い経済成長を維持してきました。しかし、エネルギーコストの上昇は物価全般を押し上げ、消費者の購買力を削ぎます。ガソリン代だけでなく、電気料金、食品価格、輸送コストの上昇が連鎖的に進行すれば、個人消費が大きく減速する恐れがあります。

MUFG(三菱UFJフィナンシャル・グループ)のリサーチによると、フィリピンはアジア太平洋地域のなかで原油ショックの影響を最も受けやすい国の一つとされています。経常収支が悪化し、通貨安が進めば、輸入コストがさらに膨らむという悪循環に陥りかねません。

バングラデシュでは軍が燃料施設を警備

燃料危機の影響はさらに深刻な事態にも発展しています。バングラデシュでは、燃料不足に対する混乱を受け、軍が燃料貯蔵施設の警備に当たる異例の事態となっています。アジア各国がそれぞれの方法で危機への対応を迫られており、社会的な安定が脅かされるケースも出始めています。

注意点・展望

原油価格の先行きは不透明

原油価格は一時119ドル近くまで急騰した後、トランプ大統領がイランとの停戦に近づいている可能性を示唆したことや、米海軍がホルムズ海峡のタンカー護衛を計画していると述べたことで、一時91ドルを下回る水準まで下落しました。しかし、中東情勢の根本的な安定化にはほど遠く、再び高騰するリスクは消えていません。

ホルムズ海峡封鎖の長期化シナリオ

ニッセイ基礎研究所の試算では、ホルムズ海峡の混乱が2〜3カ月以上継続した場合、原油価格が再度100ドルを突破する恐れがあるとしています。長期化すれば、日本のガソリン価格がリッター200円を超える可能性も指摘されており、アジア全体でインフレ圧力が一段と強まる展開が想定されます。

各国に求められるエネルギー戦略の転換

今回の危機は、中東産原油への過度な依存がもたらすリスクを改めて浮き彫りにしました。短期的な緊急対策に加え、中長期的にはエネルギー調達先の多角化や、再生可能エネルギーへの移行加速が各国の重要課題となります。

まとめ

2026年3月の原油高騰は、ホルムズ海峡の混乱を引き金に、アジア新興国の市民生活を直撃しています。ベトナムではガソリンが約3割値上がりし、フィリピンでは週4日勤務制という異例の対応策が導入されました。バングラデシュでは軍が燃料施設の警備に動くなど、深刻な影響が各国に広がっています。

今後の焦点は、中東情勢の行方とホルムズ海峡の通航正常化です。原油価格の高止まりが続けば、アジア新興国の旺盛な消費需要が冷え込み、経済成長を下押しするリスクが現実味を帯びてきます。各国は短期の緊急対策と中長期のエネルギー戦略の両面で対応を迫られています。

参考資料:

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