サイバー対策製品の乱立が招くアラート疲れの実態
はじめに
サイバー攻撃の脅威が高まる中、企業はさまざまなセキュリティ製品を導入してきました。しかし今、「製品が多すぎる」という新たな問題が浮上しています。バラクーダネットワークスの調査によると、65%の企業が「セキュリティツールが多すぎる」と回答し、53%以上が「ツール同士を統合できていない」と答えています。
大量のアラートに追われる担当者の疲弊、機能の重複によるコスト増大、そしてツール間の連携不足による検知漏れ。皮肉にも、セキュリティを強化するために導入した製品が、かえって組織の防御力を低下させるケースが出てきています。本記事では「セキュリティツールスプロール」と呼ばれるこの問題の実態と、解決に向けた最新の動向を解説します。
セキュリティツール乱立の現状
企業が抱えるツールの数
現在、大企業が運用するサイバーセキュリティツールの数は平均45〜83種類に上るとされています。中堅企業でも、ネットワーク、サーバー、アプリケーション、クラウド、データベースなどの領域ごとに10〜15の監視ソリューションを運用しているのが実態です。
こうした状況は一夜にして生まれたものではありません。ランサムウェアの台頭、クラウド環境の拡大、リモートワークの普及といったセキュリティ上の課題に個別に対応し続けた結果、ツールが積み上がってきたのです。新たな脅威が現れるたびに「ポイントソリューション」と呼ばれる個別製品を導入する対応が繰り返されてきました。
アラート疲れの深刻さ
ツールの増加がもたらす最大の問題が「アラート疲れ」です。IBMの調査によると、SOC(セキュリティオペレーションセンター)チームが1日に受け取るアラートは平均4,484件に達します。そのうち67%がノイズ(対応不要な誤検知)に分類されます。10人体制のSOCでは、1人あたり約450件のアラートを処理する計算になり、8時間勤務で約1分に1件のペースです。
Paessler社の調査では、ITチームが作業時間の4分の1以上を誤検知への対応に費やしていることが明らかになっています。さらに深刻なのは、53%のセキュリティ専門家が「アラート疲れとツールの複雑さが原因で、過去1年間に侵害を見逃した」と回答している点です。
ツール乱立がもたらすリスク
検知と対応の遅延
セキュリティツールが分断された環境では、脅威の検知から封じ込めまでの時間が大幅に伸びます。ある調査では、ツールが断片化した企業は統合環境を持つ企業と比べて、脅威の検知に72日、封じ込めに84日多くかかることが報告されています。
バラクーダの調査でも、ツール統合の欠如によって「セキュリティ管理に要する時間が増加した」と回答した企業は80%に上り、81%が「全体的なコスト増加」を、77%が「検知の妨げ」を指摘しています。
設定ミスという盲点
ツールが増えるほど、各製品の設定を適切に維持する負担も増大します。バラクーダの調査では、自社のセキュリティツールが正しく設定されていると「完全に確信している」と回答した企業はわずか32%でした。設定ミスは、攻撃者にとって格好の侵入経路となります。
コストの肥大化
機能が重複する製品への投資は、そのまま無駄なコストにつながります。ライセンス費用に加えて、各製品の運用・管理に必要な人件費、トレーニング費用、さらにはツール間のデータ連携のための追加開発費用まで、隠れたコストは膨らむ一方です。
統合に向けた最新動向
プラットフォーム統合の潮流
この問題に対する解決策として注目されているのが、セキュリティプラットフォームの統合です。ガートナーは、プラットフォーム統合を優先する組織は2026年までにセキュリティインシデントを50%削減できると予測しています。
具体的には、従来バラバラに運用されていたEDR(エンドポイント検知・対応)、NDR(ネットワーク検知・対応)、SIEM(セキュリティ情報イベント管理)などを一つのプラットフォームに統合する動きが進んでいます。
XDRの台頭
統合の中核を担うのがXDR(Extended Detection and Response)です。XDRはエンドポイント、ネットワーク、クラウド、メールなど複数のセキュリティレイヤーからテレメトリデータを収集・相関分析し、単一のプラットフォームで検知から対応までを完結させます。
従来のSIEMがログの収集・分析に重点を置いていたのに対し、XDRは検知と対応の自動化まで一貫して行える点が特徴です。ツールの数を減らしながら、より迅速な脅威対応を実現できます。
SOARによる自動化
SOAR(Security Orchestration, Automation and Response)もアラート疲れの解消に大きく貢献しています。SOARはセキュリティ製品間の連携を自動化し、プレイブック(対応手順書)に基づいてインシデント対応を自動実行します。
たとえば、フィッシングメールの検知からURLの分析、該当アカウントの一時停止、関係者への通知までを自動で行うことが可能です。これにより、担当者は大量の定型アラートから解放され、高度な判断が必要なインシデントに集中できるようになります。
注意点・展望
統合は段階的に進めるべき
ツール統合の効果は明らかですが、一度にすべてを切り替えるのはリスクが伴います。既存のツールとの互換性、データ移行の手間、スタッフの再教育など、考慮すべき要素は多岐にわたります。段階的なアプローチで、最も効果の高い領域から統合を進めることが推奨されます。
製品数よりも運用体制の見直しを
ツールの削減だけでは根本的な解決にはなりません。重要なのは、自社に必要なセキュリティ機能を棚卸しし、それぞれの製品が適切に連携しているかを検証することです。IPAが公開した「情報セキュリティ10大脅威 2026」でも、組織的な対策の重要性が強調されています。
AIの活用が加速
2026年のセキュリティ動向として、トレンドマイクロはAIを活用した脅威対応の高度化を予測しています。AIがアラートの優先順位付けや初動対応を担うことで、人間の担当者の負荷を大幅に軽減できる可能性があります。「Agentic SIEM」と呼ばれるAI駆動型の次世代SIEMの登場も、この流れを加速させるでしょう。
まとめ
企業のサイバーセキュリティ対策は「量から質へ」の転換期を迎えています。65%の企業がツールの多さを課題と感じ、アラート疲れによる侵害の見逃しが現実に起きている今、製品数を増やし続ける従来のアプローチは限界に達しています。
まずは自社が導入しているセキュリティ製品の棚卸しから始め、機能の重複を洗い出すことが第一歩です。その上でXDRやSOARを活用したプラットフォーム統合を段階的に進めることで、コスト削減と防御力強化の両立が可能になります。セキュリティ投資は「いくら使ったか」ではなく「どう使ったか」が問われる時代です。
参考資料:
- 65 percent of IT professionals have too many security tools
- New global business research shows how security sprawl increases risk
- アラート疲れで担当者がサイバー攻撃を見落とす
- Tool Sprawl Has Become a Security and Operational Risk
- The Point Solution Paradox: Why Security Tool Sprawl is the New Attack Surface
- 情報セキュリティ10大脅威 2026
- AI化されるサイバー脅威:トレンドマイクロが予測する2026年のセキュリティ動向
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