グローバルサウスが米イラン攻撃に怒る理由と世界への影響
はじめに
2026年2月28日、米国とイスラエルは「オペレーション・エピックフューリー」と名付けた大規模軍事作戦でイランへの攻撃を開始しました。開戦からおよそ2週間が経過した現在、戦闘は泥沼化の様相を見せ、中東を越えて世界全体に深刻な影響を及ぼしています。
とりわけ注目すべきは、グローバルサウス(新興国・途上国)の強烈な反発です。中国、南アフリカ、パキスタン、インド、ブラジルなどの国々は、この攻撃を国際法違反と断じ、西側諸国の「二重基準」に対する怒りを鮮明にしています。この記事では、グローバルサウスがなぜ「世界崩壊」を危ぶんでいるのか、その背景と影響を多角的に解説します。
米国・イスラエルによるイラン攻撃の経緯
攻撃の発端と展開
2026年2月28日、米国とイスラエルはイランに対する大規模な軍事攻撃を開始しました。作戦初期段階でイランの最高指導者ハメネイ師が殺害され、イランの指導体制に大きな打撃を与えました。また、石油輸出の重要拠点であるカーグ島の軍事施設も攻撃対象となりました。
これに対しイランは即座に報復に転じ、湾岸諸国に駐留する米軍基地のみならず、石油施設や民間インフラにも攻撃を行いました。数百発のミサイルと数千機のドローンが中東各地に向けて発射され、紛争はまたたく間に十数カ国に拡大しました。
停戦の見通し
トランプ米大統領は戦争が「ごく短期に」終結するとの見通しを示していますが、米国防総省は完了まで4〜6週間かかると見込んでいます。イラン側は停戦条件として、米国およびイスラエルが将来にわたってイランを攻撃しないという保証を求めており、欧州や中東諸国が仲介に乗り出しています。しかし、イランのアラグチ外相は停戦に応じる用意があるとのトランプ氏の主張を否定しており、交渉は難航しています。
グローバルサウスの怒りと国際法違反の指摘
「二重基準」への根深い不信
グローバルサウス諸国が今回の攻撃に特に強い怒りを示している背景には、西側諸国の「二重基準」に対する積年の不満があります。多くの国際法学者は、今回の攻撃が国連憲章第2条4項(武力行使の禁止)に違反すると指摘しています。米国もイスラエルも、イランが差し迫った脅威であるという証拠を提示しておらず、国連安全保障理事会にも事前に諮っていません。
中国の王毅外相は、米国とイスラエルによるイラン攻撃を「受け入れがたい」と非難しました。南アフリカとパキスタンは先制攻撃の正当化そのものを拒否する立場を表明しています。多くのグローバルサウス諸国にとって、今回の攻撃はこれまでの疑念を裏付けるものです。すなわち、米国と欧州のパートナー国は国際法を選択的に適用し、イスラエルを庇護する一方で弱い国家を罰しているという認識です。
国連での対立構造
国連安全保障理事会は決議2817号を採択し、イランによる周辺国への「著しい攻撃」を非難しました。賛成13、反対0、棄権2(中国・ロシア)という結果でした。しかし、この決議は米国とイスラエルによる先制攻撃には触れておらず、国連人権高等弁務官事務所の専門家は、米国とイスラエルによるイランおよびレバノンへの軍事攻撃を「国際法の明白な違反」として非難しています。
この対応の非対称性こそが、グローバルサウスの怒りの核心です。ガザ紛争においてもウクライナ避難民への手厚い支援と中東への対応の差が批判されてきましたが、今回の事態はその構図をさらに鮮明にしました。
BRICS諸国の結束と分裂
BRICS拡大に伴い、加盟国間の立場にも違いが生じています。ロシア、中国、イランは米国に正面から対峙する姿勢を取る一方、インド、ブラジル、エジプト、サウジアラビア、UAEなどは欧米との関係を維持しつつも批判の声を上げるという、微妙なバランスを取っています。
インドはグローバルサウスの盟主を自任し、開発途上国の代弁者としての立場を強化しています。ブラジルも国際法に基づく秩序の重要性を訴えており、こうした動きは西側主導の国際秩序に対するオルタナティブの模索と捉えることができます。
世界経済への甚大な影響
ホルムズ海峡封鎖と原油価格の高騰
今回の紛争で最も直接的な経済的影響をもたらしているのが、ホルムズ海峡の事実上の封鎖です。世界の原油輸出の約20%がこの海峡を通過しており、2024年にはサウジアラビア、イラク、クウェート、UAE、イランから日量約1,650万バレルの原油が輸送されていました。
イラン革命防衛隊がタンカー3隻を攻撃したことを受け、各国の海運大手は通峡を停止しています。WTI原油先物価格は攻撃前の1バレル約67ドルから、3月9日には一時120ドル近くにまで急騰しました。
湾岸諸国と日本への打撃
紛争が4月まで続きホルムズ海峡の封鎖が2カ月に及んだ場合、カタールとクウェートのGDPはそれぞれ14%縮小する可能性があると試算されています。
日本への影響も深刻です。日本は2025年時点で原油輸入の約94%を中東地域に依存しており、そのタンカーの約8割がホルムズ海峡を通過しています。野村総合研究所の試算では、ベースシナリオで原油価格が1バレル87ドルまで上昇した場合、日本の実質GDPは0.18%押し下げられ、物価は0.31%押し上げられます。悲観シナリオでは原油が140ドルまで上昇し、日本は「景気悪化と物価高騰が共存するスタグフレーション」に陥る可能性が指摘されています。レギュラーガソリンは最悪の場合、現在の1リットルあたり約162円から328円へと倍以上に跳ね上がる試算もあります。
注意点・展望
「世界崩壊」は大げさか
グローバルサウスが「世界崩壊」を危ぶむ声は、決して大げさとは言い切れません。今回の事態が示しているのは、第二次世界大戦後に構築された国際法に基づく秩序が機能不全に陥りつつあるという現実です。国際法の専門家からは、国連憲章に基づく戦後の世界秩序が果たして機能しているのかという根本的な疑問が提起されています。
トランプ政権がベネズエラやイランに対して一方的に軍事行動を起こし、国連の機能を弱体化させている現状は、国際社会の信頼基盤を揺るがしています。欧州の主要国がこうした動きを明確に批判しないことも、グローバルサウスの不信感を増幅させる要因です。
今後の焦点
停戦交渉の行方、ホルムズ海峡の航行再開時期、そしてイラン国内の政治体制の変動が今後の焦点です。米エネルギー長官は戦争終結後に石油価格が下落するとの見通しを示していますが、地域の安定回復には相当の時間がかかるとみられています。湾岸諸国は外交的解決を求める動きを強めており、その成否が世界経済の安定に直結します。
まとめ
米国とイスラエルによるイラン攻撃は、軍事的な衝突にとどまらず、国際秩序の根幹を揺るがす事態に発展しています。グローバルサウスの怒りは、西側諸国の二重基準に対する長年の不満が噴出したものであり、今回の危機を契機に国際社会の勢力図が大きく変わる可能性があります。
ホルムズ海峡の封鎖がもたらすエネルギー危機は日本を含む世界各国に深刻な影響を及ぼしており、一刻も早い停戦と外交的解決が求められています。今後の国際情勢を見通すうえで、グローバルサウスの動向から目を離すことはできません。
参考資料:
- 国問研戦略コメント:米国・イスラエルによるイラン攻撃と中東秩序の再編
- UN experts denounce aggression on Iran and Lebanon
- From Gaza to Tehran: How Western Aggression United the Global South
- Security Council Adopts Resolution 2817 (2026)
- イラン攻撃で高まる原油価格上昇リスクと日本経済への影響試算(野村総合研究所)
- 日本のインフレ加速の恐れ、原油急騰(Bloomberg)
- イラン攻撃の影響:スタグフレーションの可能性(nippon.com)
- イラン戦争、湾岸経済に深い影(Bloomberg)
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