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by nicoxz

ホルムズ危機で加速する中ロ接近 欧州が恐れる3つの事態

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はじめに

2026年2月28日、米国とイスラエルによるイラン攻撃を契機に、中東情勢は一気に緊迫化しました。イランの報復によりホルムズ海峡は事実上の封鎖状態に陥り、世界のエネルギー供給に深刻な混乱が生じています。

この危機がもたらしたのは、原油価格の高騰だけではありません。ロシアと中国の相互依存が深まり、欧州の安全保障環境が根本から揺さぶられるという地政学的な構造変化が進んでいます。本記事では、欧州が恐れる3つの事態を中心に、ホルムズ危機の全体像を解説します。

ホルムズ海峡封鎖の経緯と現状

米イスラエルのイラン攻撃と報復の連鎖

2026年2月28日、米国とイスラエルはイランに対する共同軍事攻撃を実施しました。この攻撃によりイランの最高指導者ハメネイ師が死亡するという衝撃的な事態に発展します。

イランは即座に報復を開始しました。米軍基地、イスラエル領土、さらに周辺の湾岸諸国に対してミサイルやドローンによる攻撃を展開。イスラム革命防衛隊(IRGC)はホルムズ海峡の船舶通航を禁止すると警告し、「一滴の原油も通さない」と宣言しました。

世界のエネルギー供給への打撃

ホルムズ海峡は世界の石油貿易の約20%が通過する要衝です。封鎖前は1日平均120隻の大型船舶が通航していましたが、IRGCの警告後にタンカー交通量は約70%減少し、その後ほぼゼロにまで落ち込みました。

3月15日には米軍がイランの主要原油輸出拠点であるカーグ島を空爆したことで、供給リスクはさらに拡大。WTI原油先物は1バレル96ドルを超える水準まで高騰しました。湾岸産油国は日量1,000万バレルの生産削減を余儀なくされています。

欧州が恐れる3つの事態

第1の脅威:エネルギー供給の危機

欧州にとってホルムズ海峡の封鎖は直接的な打撃です。欧州のLNG(液化天然ガス)供給の12%から14%はカタールからこの海峡を経由して輸入されています。封鎖の影響で、欧州の天然ガス価格は1メガワット時あたり30ユーロから60ユーロ超へと、わずか数日で倍増しました。

コペンハーゲン大学の海洋安全保障の専門家は、海峡が再開されなければ「欧州は深刻なエネルギー供給危機に直面する」と警告しています。ロシア産エネルギーからの脱却を進めてきた欧州にとって、中東からの供給途絶は代替手段の乏しさを浮き彫りにするものです。

第2の脅威:ロシア制裁の形骸化

原油価格の高騰を受け、米財務省は3月12日、ロシア産原油に対する制裁を一時的に緩和すると発表しました。世界各地の海域に留め置かれていた約1億2,400万バレルのロシア産原油の購入が許可されたのです。

この決定に対し、ウクライナとEU同盟国は強く反発しました。EU委員長のフォンデアライエン氏は、ロシアの化石燃料に回帰することは「戦略的失策」だと明言しています。しかし、エネルギー価格の高騰が続けば、「背に腹は代えられない」とロシア産エネルギーへの依存に戻る国が出てくる可能性は否定できません。

ベルギーのデヴェーバー首相が「戦争を終わらせるにはロシアとの交渉しかない」と発言するなど、欧州内部でも対ロ姿勢に揺らぎが見え始めています。原油価格の上昇はロシアにとって追い風であり、制裁の実効性が失われるリスクが高まっています。

第3の脅威:中ロの戦略的接近

ホルムズ危機は、中国とロシアの関係をさらに深める触媒となっています。中国は原油輸入の半分をホルムズ海峡経由で調達しており、封鎖の影響を強く受ける立場です。中国はイランに対して海峡封鎖をしないよう直接協議を求める一方、代替供給源としてロシアへの依存を深めざるを得ない状況に追い込まれています。

ロシアにとっても、中国との関係は制裁下での生命線です。原油価格の上昇で交渉力を得たロシアは、対中輸出で人民元を稼ぐ動きを強めています。さらに、イランの外務大臣はロシアと中国との軍事協力関係を公表しており、3カ国による事実上の戦略的連携が形成されつつあります。

欧州にとっての最大の懸念は、この中ロの接近がウクライナ問題にも波及することです。ロシアが中東危機を利用して制裁緩和を勝ち取り、中国からの経済支援をさらに確保すれば、ウクライナに対する軍事的圧力を維持・強化する余力が生まれます。

欧州内部の分断と対応

トランプ米大統領はNATO加盟国に対し、ホルムズ海峡の航行安全確保への参加を要求しました。しかし、欧州各国の反応は冷ややかです。

ドイツのヴァデフル外相はイラン紛争への軍事参加を拒否。スペインのロブレス国防相は「目標は戦争を終わらせることであり、一時しのぎの措置は受け入れない」と明言しました。イタリアのタヤーニ外相も「外交が優先されるべきだ」と軍事関与を否定しています。

米国が始めた戦争の後始末を欧州が引き受けることへの強い反発があり、大西洋同盟の結束にも亀裂が入りかねない状況です。

注意点・展望

この危機の帰趨は、イラン情勢の推移に大きく左右されます。IRGCの徹底抗戦姿勢が続く限り、ホルムズ海峡の正常化は見通せません。中国がイランとの直接協議を模索している点は、事態打開の糸口になる可能性がありますが、成果はまだ不透明です。

注意すべきは、短期的なエネルギー危機の対応に追われるあまり、長期的な安全保障上のリスクを見過ごすことです。ロシア制裁の緩和は目先の原油価格を抑える効果があっても、ウクライナ戦争の長期化やロシアの軍事力維持を助ける副作用があります。

欧州が真に恐れるべきは、中ロイランという権威主義陣営の連携が固定化し、国際秩序の再編が不可逆的に進むことでしょう。

まとめ

ホルムズ海峡危機は、単なるエネルギー問題にとどまりません。欧州にとっては、エネルギー供給の途絶、対ロ制裁の形骸化、そして中ロの戦略的接近という3つの脅威が同時に押し寄せる構造的な危機です。

トランプ政権の軍事行動が引き金となったこの事態に対し、欧州は軍事関与を拒否しつつも、エネルギーと安全保障の両面で困難な選択を迫られています。中東・ロシア・中国の三角関係が今後どう展開するか、世界の安全保障秩序を左右する局面が続きます。

参考資料:

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