ロシア産原油にアジア各国が注目、韓国は4年ぶり輸入へ
はじめに
ホルムズ海峡の実質的封鎖によって世界のエネルギー供給が大きく揺らぐ中、アジア各国がロシア産原油への依存を強める動きが加速しています。韓国産業通商省は3月19日、ロシア産原油とナフサの輸入を検討していることを明らかにしました。実現すれば2022年以来4年ぶりの輸入再開となります。
フィリピンやタイもロシアとの輸入協議に入っており、ウクライナ侵攻を受けた対ロ制裁体制が、中東危機という新たな現実の前で大きく揺らいでいます。本記事では、この動きの背景と各国の対応、そして今後の影響を詳しく解説します。
ホルムズ海峡封鎖とエネルギー危機
海峡封鎖の経緯と影響
2月28日に米国・イスラエルがイランへの攻撃を開始して以降、ペルシャ湾とアラビア海を結ぶホルムズ海峡は実質的な封鎖状態となりました。イランの新最高指導者モジタバ・ハメネイ師は、海峡の封鎖を米国とイスラエルに対する「圧力手段」として維持する方針を表明しています。
ホルムズ海峡はアジアの石油輸入量の約80%が通過する要衝です。封鎖の影響でWTI原油先物は一時102ドル台まで急騰し、アジア各国のエネルギー安全保障を根幹から揺るがす事態となっています。
アジア各国への打撃
エネルギー輸入への依存度が高いアジア各国は、深刻な影響を受けています。フィリピン、タイ、マレーシア、ブルネイは原油供給の60〜95%を輸入に頼っています。フィリピンでは政府機関が週4日勤務体制に移行し、タイやベトナムではテレワーク推奨や移動制限が導入されるなど、社会生活にも影響が広がっています。
タイの備蓄は約3カ月分しかなく、国内供給を確保するため先週から燃料の輸出を停止しました。各国にとって代替調達先の確保は、経済の存続に関わる喫緊の課題です。
米国の制裁緩和とロシア産原油の流通
30日間の制裁免除措置
事態を打開する転機となったのが、米財務省による3月12日の発表です。ベセント財務長官は、海上に留め置かれたロシア産原油の購入を一時的に認める30日間の制裁免除措置を発表しました。対象は世界30カ所の海域に滞留している約1億2,400万バレルの原油・石油製品で、3月12日から4月11日までの期間に積み込まれた貨物の販売が許可されています。
ベセント長官はこの措置について「厳格に限定した短期的なもの」と説明し、ロシア政府に多大な利益をもたらすものではないと強調しました。しかし、この判断は国際社会で大きな議論を呼んでいます。
欧州からの強い批判
欧州連合(EU)側からは制裁緩和に対する批判の声が相次いでいます。欧州理事会のアントニオ・コスタ議長は「米国のロシア産原油制裁解除の一方的決定は、欧州の安全保障に影響を与える」と声明を発表しました。ドイツのメルツ首相やフランスのマクロン大統領も、制裁緩和がロシアのウクライナ侵攻を支える資金源になりかねないと警告しています。
アジア各国の具体的な動き
韓国:4年ぶりの輸入再開を模索
韓国はウクライナ侵攻を受けた制裁の一環として、2022年12月以降ロシア産原油の輸入を中断していました。韓国石油公社のデータによれば、実現すれば4年ぶりの輸入再開です。韓国産業通商省は民間企業と連携し、原油に加えてナフサの輸入も検討していると発表しました。
ナフサはプラスチックや合成繊維、洗剤の原料となるエチレンの製造に不可欠な石油化学原料です。韓国の石油化学産業にとって、ナフサの安定調達は産業基盤の維持に直結する重要課題です。
フィリピン・タイ:エネルギー安全保障の危機
タイのピパット・ラチャキットプラカーン副首相は、ロシア産原油の購入交渉を開始する準備を進めていると述べました。タイは原油備蓄が約3カ月分と少なく、供給途絶が長期化すれば経済活動に深刻な支障をきたします。
フィリピンもロシアとの輸入協議に入っています。週4日勤務制の導入に見られるように、エネルギー不足はすでに社会活動を制限する段階に達しており、新たな調達先の確保は待ったなしの状況です。
日本・中国の対応
日本は2025年時点で原油の94%を中東から輸入しており、ホルムズ海峡封鎖の影響を最も強く受ける国の一つです。制裁免除を受けてロシア産原油の購入を「検討する」と表明しています。一方、中国の大手石油企業は制裁免除後、いち早くロシア産原油の調達を再開したと報じられています。
注意点・今後の展望
制裁体制の崩壊リスク
今回の制裁緩和は「一時的措置」と位置づけられていますが、4月11日の期限後にどうなるかは不透明です。ホルムズ海峡の封鎖が長期化すれば、制裁免除の延長や恒久化を求める圧力が強まる可能性があります。対ロ制裁体制そのものが形骸化するリスクも指摘されています。
ロシアへの「漁夫の利」
ロシアは天然ガスと原油の大生産国でありながら、ホルムズ海峡を経由せずに輸出できる地理的優位性を持っています。中東の混乱が長期化するほど、ロシア産エネルギーへの需要は高まり、制裁で抑えられていたロシアの収入が回復する構図です。3月のアジア向けロシア産燃料油の輸出は300万トン(日量61万4,500バレル)超と、過去最高を記録する見通しです。
エネルギー調達の多様化
今回の危機は、中東依存度の高いアジア各国にとって、エネルギー調達先の多様化がいかに重要かを改めて突きつけています。短期的にはロシア産原油への切り替えが進む一方、中長期的には再生可能エネルギーの加速や戦略備蓄の拡充が課題となります。
まとめ
ホルムズ海峡の封鎖は、ウクライナ侵攻以降構築されてきた対ロシア制裁体制を根底から揺るがしています。韓国、フィリピン、タイをはじめとするアジア各国がロシア産原油に活路を求める動きは、エネルギー安全保障が地政学的な原則を覆す力を持つことを示しています。
今後はホルムズ海峡の封鎖解除の見通し、制裁免除措置の延長の有無、そして各国のエネルギー政策の転換が焦点となります。中東危機がいつ収束するか見通せない中、アジアのエネルギー地図は大きな書き換えを迫られています。
参考資料:
- South Korea Joins East Asian Countries Weighing Russian Oil Purchases - The Moscow Times
- 韓国、ロシア産原油の輸入検討 中東情勢で代替調達先 - 福井新聞
- 韓国、ロシア原油・ナフサ輸入検討 - Bloomberg
- 米財務省、ロシア産原油販売さらに許可 - Bloomberg
- East Asian Countries Eye Russian Oil Imports Amid Global Energy Shock - The Moscow Times
- Asia’s Russian fuel imports poised to hit record high - Domain-b
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