個人向け国債が19年ぶり高水準、金利上昇で人気急騰
はじめに
財務省の発表によると、2025年度の個人向け国債の販売額が合計6兆1,526億円に達し、前年度比36.9%の大幅増となりました。この水準は19年ぶりの高さです。2月募集分(3月発行)だけでも8,743億円と、単月でも大きな規模を記録しています。
日本銀行がマイナス金利政策を解除し、利上げに転じたことで長期金利が上昇。個人向け国債の適用利率も大幅に改善されたことが、安全資産を求める個人投資家の需要を呼び込んでいます。本記事では、個人向け国債の人気急騰の背景と、投資を検討する際のポイントを解説します。
個人向け国債の発行額が急増した背景
金利上昇が最大の追い風
個人向け国債の販売額急増の最大の要因は、金利上昇による利回りの改善です。日銀は2024年3月にマイナス金利政策とイールドカーブ・コントロール(YCC)を解除し、その後も段階的な利上げを実施してきました。
この結果、個人向け国債の適用利率は大幅に上昇しました。例えば固定5年債のクーポンは、2024年11月発行分で0.46%だったものが、2025年11月発行分では1.22%と約2.7倍に跳ね上がっています。長年にわたり最低保証金利の0.05%に張り付いていた時代とは、全く異なる投資環境が生まれています。
安全資産への回帰
株式市場のボラティリティが高まる中、元本保証のある個人向け国債に資金を移す動きが加速しています。米国のトランプ関税や地政学リスクの高まりを受け、リスク資産から安全資産へのシフトが起きているのです。
個人向け国債は国が元本と利子の支払いを保証しているため、銀行預金に次ぐ安全性を備えています。しかも、メガバンクの普通預金金利と比較すると、個人向け国債のほうが高い利回りを提供しているケースが増えています。
個人向け国債の3つのタイプ
変動10年債が最も人気
個人向け国債には3種類の商品があり、それぞれ特徴が異なります。
変動10年債: 半年ごとに適用利率が見直される変動金利型です。今後さらに金利が上昇した場合、受取利子も連動して増加します。金利上昇局面では最も有利な選択肢となるため、現在最も人気があります。
固定5年債: 発行時に決まった利率が満期まで変わりません。将来の金利低下リスクに備えたい場合に適しています。現在の金利水準が魅力的であれば、5年間その利率を固定できるメリットがあります。
固定3年債: 固定5年債と同じ仕組みで、期間が3年と短めです。資金の拘束期間を短くしたい場合に選ばれます。
共通の特長
3タイプすべてに共通する特長として、以下の点があります。
- 最低金利保証: 年率0.05%が下限として保証されている
- 少額から購入可能: 最低1万円から1万円単位で購入できる
- 毎月発行: 毎月新しい債券が発行されるため、購入タイミングを選びやすい
- 中途換金: 発行から1年経過後はいつでも換金可能(直前2回分の利子相当額が差し引かれる)
19年ぶり高水準の意味
2006年以来の活況
個人向け国債の販売額が今回に匹敵する水準だったのは2006年度です。当時は日銀のゼロ金利政策の解除を受けて、金利上昇への期待から個人向け国債の販売が好調でした。その後、リーマンショックや長期にわたるゼロ金利環境の中で販売額は低迷し続けました。
今回の急増は、約20年ぶりに訪れた「金利のある世界」への回帰を象徴しています。個人投資家が改めて債券投資に注目する大きな転換点となっています。
新NISA効果との関係
2024年1月にスタートした新NISA(少額投資非課税制度)は、個人の投資マインドを大きく変えました。投資に関心を持つ層が拡大する中、「リスク資産だけでなく安全資産も組み合わせたい」と考える投資家が個人向け国債に目を向けるようになっています。
ポートフォリオ全体のリスクバランスを考える上で、個人向け国債はリスクフリーの土台として位置づけられています。
注意点・展望
金利変動リスクと中途換金のコスト
変動10年債は金利上昇時にメリットがありますが、金利が低下に転じれば受取利子も減少します。一方、固定型は金利上昇局面で相対的に不利になります。どのタイプを選ぶかは、今後の金利動向の見通しによって判断が分かれます。
また、中途換金する場合は直前2回分(1年分)の利子相当額が差し引かれる点に注意が必要です。短期での換金を想定している場合、実質的な利回りが低下します。
金利のさらなる上昇はあるか
日銀は今後も段階的な利上げを続ける姿勢を示しており、個人向け国債の適用利率がさらに改善する可能性があります。ただし、利上げペースは経済状況や物価動向に左右されるため、金利がどこまで上がるかは不透明です。
まとめ
個人向け国債の2025年度発行額が6兆円超と19年ぶりの高水準を記録しました。金利上昇による利回り改善が最大の要因で、安全資産を求める個人投資家の資金が流入しています。
資産運用のポートフォリオに安全資産を組み込みたい方にとって、個人向け国債は有力な選択肢です。購入を検討する場合は、変動型と固定型の違いを理解したうえで、自身の投資方針や金利の見通しに合ったタイプを選ぶことが重要です。
参考資料:
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