ネット証券で個人向け国債が急増、5年で5倍の背景
はじめに
個人向け国債の購入が、ネット証券を通じて急速に拡大しています。SBI証券、楽天証券、マネックス証券の主要ネット証券3社における2025年7〜12月の個人向け国債販売額は約1,500億円に達し、5年前の同時期と比べ約5倍に増加しました。この伸びは大手対面証券に迫る勢いです。
背景には、日銀の金融政策正常化に伴う金利上昇があります。変動10年物の適用利率は2025年7月時点で17年ぶりに1%を超え、銀行預金との利回り差が鮮明になりました。特に若年層を中心に、安全資産としての国債が長期資産形成の選択肢として再評価されています。
ネット証券経由の国債購入が急拡大する理由
金利上昇で投資妙味が増大
日本銀行は2024年7月以降、長期国債の買い入れ減額計画を段階的に実施しています。2025年6月の金融政策決定会合では、2026年1〜3月まで毎四半期4,000億円程度ずつ減額し、その後はペースを緩めて2,000億円程度ずつ減額する方針を決定しました。こうした量的引き締め(QT)の進展に伴い、長期金利は上昇基調を続けています。
個人向け国債の変動10年物は、半年ごとに適用利率が見直される仕組みです。基準金利の上昇に連動して利率も上がるため、金利上昇局面では特に有利な金融商品となります。2025年後半には適用利率が1%を超える水準まで上昇し、大手銀行の普通預金金利(0.1〜0.2%程度)と比較して大きな利回り差が生じました。
さらに、個人向け国債には元本保証があり、1万円から購入可能です。発行後1年を経過すれば中途換金もできるため、投資初心者にも取り組みやすい商品設計になっています。
ネット証券の利便性とキャンペーン効果
ネット証券各社は、個人向け国債の購入に際してキャッシュバックキャンペーンを積極的に展開しています。SBI証券では50万円以上の購入で最大25万円のキャッシュバックを実施するなど、実質的な利回りをさらに押し上げる施策が人気を集めています。
対面証券と異なり、ネット証券では24時間いつでもオンラインで申し込みが可能です。口座開設もウェブ上で完結し、最短数日で取引を開始できます。こうした手軽さが、投資経験の浅い若年層の参入障壁を大きく引き下げています。
楽天証券では楽天銀行との口座連携「マネーブリッジ」を活用したポイント付与プログラムも提供しており、日常的に楽天経済圏を利用する層の取り込みに成功しています。
若年層の資産形成における国債の位置づけ
NISAブームからの波及効果
2024年1月に始まった新NISA制度は、若年層の投資参入を大きく後押ししました。ネット証券各社の口座開設数は過去最高を更新し続けており、投資に対する心理的ハードルが下がった世代が、株式や投資信託だけでなく国債にも関心を広げています。
特に注目すべきは、ポートフォリオの分散先としての国債需要です。株式市場のボラティリティが高まる局面では、安全資産である国債の魅力が相対的に増します。2025年後半の世界的な地政学リスクの高まりを受けて、リスク資産と安全資産のバランスを意識する個人投資家が増加しました。
銀行預金からのシフト
低金利時代が長く続いた日本では、個人の金融資産の約半分が現金・預金に集中しています。しかし金利上昇に伴い、「預金に置いておくだけではもったいない」という意識が広がり始めました。
個人向け国債は、預金感覚で保有できる安全性の高さに加え、変動金利型であれば今後のさらなる金利上昇にも追随できます。定期預金のように満期まで資金が拘束されるリスクも低く、元本割れの心配もないことから、預金の受け皿として機能し始めています。
国債市場における個人マネーの存在感
日銀減額で変わる国債の買い手構造
日本銀行が国債保有残高の圧縮を進める中、国債市場の買い手構造に変化が生じています。日銀の保有残高は2025年末時点で約500兆円規模ですが、減額計画に基づき徐々に縮小していく見通しです。
この「日銀の出口」を埋める買い手として、生命保険会社や年金基金に加え、個人投資家の存在感が高まっています。財務省は令和7年度(2025年度)の個人向け国債発行予定額を4.6兆円としており、個人向け販売の拡大に積極的な姿勢を示しています。
財務省のデジタル施策
財務省も個人向け国債の販売拡大に向けた取り組みを強化しています。ウェブサイトの改善やSNSでの情報発信など、若年層へのリーチを意識した広報活動を展開しています。ネット証券との連携強化も進んでおり、購入手続きの簡素化が販売増加に寄与しています。
注意点・展望
個人向け国債は安全性が高い一方で、株式や投資信託と比べてリターンは限定的です。現在の適用利率が1%程度であっても、インフレ率を考慮した実質利回りはそれほど高くありません。長期的な資産形成を目指す場合は、国債だけでなく他の金融商品との組み合わせが重要です。
今後の展望としては、日銀のさらなる利上げが実施されれば変動10年物の利率はさらに上昇する可能性があります。一方で、景気後退リスクが顕在化すれば利下げに転じる可能性もあり、金利動向を注視する必要があります。
ネット証券間の競争激化により、キャンペーンの充実やサービス向上が続くと見られます。個人向け国債市場は今後も拡大基調が続く見通しですが、過度な期待は禁物です。あくまで資産全体の中での位置づけを意識しながら活用することが大切です。
まとめ
ネット証券経由の個人向け国債購入は、金利上昇・若年層の投資意欲向上・ネット証券の利便性向上という3つの追い風を受けて急拡大しています。日銀が国債購入を減額する中で、個人マネーの存在感は今後さらに高まることが予想されます。
資産形成の選択肢として個人向け国債を検討する際は、変動10年物・固定5年物・固定3年物の3種類の特性を理解し、自身の投資目的やリスク許容度に合った商品を選ぶことが重要です。ネット証券のキャンペーンも活用しながら、バランスの取れたポートフォリオ構築を心がけましょう。
参考資料:
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