個人向け国債、ネット証券経由の購入が5年で5倍に急拡大
はじめに
ネット証券を経由した個人の国債購入が急拡大しています。SBI証券、楽天証券、マネックス証券の主要ネット証券3社における2025年7月から12月の個人向け国債販売額は約1,500億円に達し、5年前の同時期と比較して約5倍に増加しました。大手対面証券に迫る勢いです。
背景にあるのは日本銀行の金融政策正常化に伴う金利上昇です。変動10年物の個人向け国債は年利率1.4%(2026年3月募集)に達し、大手銀行の定期預金金利を大幅に上回る水準です。若年層を中心に安全資産としての国債への関心が高まっており、国債市場の新たなプレーヤーとして個人マネーの存在感が増しています。
個人向け国債の販売急増の実態
ネット証券が大手対面証券に迫る
従来、個人向け国債の販売は野村証券やSMBC日興証券などの大手対面証券が中心でした。しかし近年、ネット証券経由の販売が急速に伸びています。SBI証券では2026年1月の個人向け国債の販売額が単月で過去最高を更新したとされています。
ネット証券の強みは、口座開設から購入手続きまでをすべてオンラインで完結できる利便性です。24時間いつでも購入申し込みが可能で、対面での手続きが不要なため、時間的な制約のある現役世代や若年層にとってアクセスしやすい環境が整っています。
キャッシュバックキャンペーンが後押し
ネット証券各社は個人向け国債の購入に対してキャッシュバックキャンペーンを積極的に展開しています。SBI証券では50万円以上の購入で金額に応じたキャッシュバックを提供しており、実質的な利回りがさらに上乗せされます。楽天証券では楽天ポイントの付与、みずほ証券でも独自のキャンペーンを実施しており、証券会社間の顧客獲得競争が個人向け国債の販売拡大に寄与しています。
金利上昇が変えた国債の投資魅力
17年ぶりの高水準に達した利率
日本銀行の金融政策正常化に伴い、個人向け国債の利率は急上昇しています。2025年1月には政策金利が0.25%から0.5%に引き上げられ、これを反映して個人向け国債の利率も上昇しました。
2026年3月募集の変動10年物は年利率1.40%、固定5年物は2026年2月募集時点で1.5%超の水準に達しています。約17年ぶりの高水準であり、大手銀行の定期預金金利(0.2〜0.4%程度)と比較すると大幅に有利な条件です。
元本保証という最大の強み
個人向け国債の最大の特徴は、日本国が元本と利子を保証している点です。預金保険制度による保護は1金融機関あたり1,000万円が上限ですが、国債には実質的にこの上限がありません。大口の資産を安全に運用したい投資家にとって、国債の元本保証は大きな安心材料です。
1万円から購入できる手軽さもあり、投資初心者がまず安全資産から始めるには最適な商品と言えます。
変動10年物の人気が突出
3種類ある個人向け国債(変動10年、固定5年、固定3年)のなかで、特に人気が高いのが変動10年物です。半年ごとに適用利率が見直されるため、今後さらに金利が上昇した場合にも自動的に利率が引き上げられるメリットがあります。
金利上昇局面では固定金利型よりも変動金利型が有利になるため、日銀の追加利上げを見込む投資家を中心に変動10年物への資金流入が加速しています。
若年層の資産形成ニーズとの合致
新NISAとの補完関係
2024年に始まった新NISA(少額投資非課税制度)は株式やインデックスファンドへの投資を後押ししていますが、資産形成のポートフォリオにおいて「安全資産」のニーズも並行して高まっています。
株式投資でリスクを取りつつ、資産の一部を国債で安全に運用するという分散投資の考え方が浸透してきたことが、個人向け国債への関心を高めている要因の一つです。
デジタルネイティブ世代の参入
ネット証券のスマートフォンアプリを通じて手軽に投資ができる環境は、デジタルネイティブ世代との親和性が高い特徴です。従来、国債は高齢層の投資商品というイメージがありましたが、金利上昇とデジタルアクセスの改善により、20代〜30代の若年層による購入が増えています。
SNSやYouTubeなどで個人向け国債の解説コンテンツが増えたことも、若年層への認知拡大に貢献しています。
国債市場における個人マネーの意味
日銀の国債購入減額と個人の役割
日本銀行は金融政策正常化の一環として、国債の買い入れ額を段階的に減額しています。これまで国債市場最大の買い手だった日銀が購入を減らすなか、その受け皿として個人投資家の存在感が高まることは、国債市場の安定性にとっても重要です。
財務省にとっても、個人向け国債の販売拡大は国債の安定消化という観点から歓迎すべき動きです。保有者の多様化は、特定の投資家層に依存するリスクを軽減します。
今後の金利動向が鍵
個人向け国債の人気が持続するかどうかは、今後の金利動向に大きく左右されます。日銀がさらなる利上げに踏み切れば、国債の利率はさらに魅力的になります。一方で、金利上昇が一服すれば、株式やその他のリスク資産に資金が戻る可能性もあります。
注意点・展望
個人向け国債は安全性が高い一方で、注意すべき点もあります。購入後1年間は原則として中途換金ができず、1年経過後に中途換金する場合も直近2回分の利子相当額が差し引かれます。流動性の面では、株式や投資信託に劣る点は理解しておく必要があります。
また、現在のインフレ率(消費者物価指数で前年比3%台)と比較すると、国債の利率1.4%では実質的にはマイナスリターンとなります。インフレヘッジとしては十分ではないため、国債だけに偏った資産配分はリスクを伴います。
長期的には、日本の国債市場における個人投資家の割合が拡大する流れは続く見通しです。金融リテラシーの向上やデジタル環境の整備が進むなか、個人マネーは国債市場の重要な支え手となっていくでしょう。
まとめ
ネット証券経由の個人向け国債購入が5年で5倍に急拡大した背景には、金利上昇による投資妙味の向上、ネット証券の利便性、そして若年層を含む幅広い世代の資産形成ニーズがあります。変動10年物を中心に人気が集中しており、約17年ぶりの高金利水準が購入の追い風です。
日銀の国債購入減額が進むなかで、個人マネーが国債市場の新たな受け皿となる可能性があります。インフレ率との比較には注意が必要ですが、元本保証の安全資産として、個人向け国債は資産形成の選択肢として存在感を高めています。
参考資料:
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