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by nicoxz

保険業界「おすすめ販売」にメス、ハ方式廃止の全容

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はじめに

生命保険業界が大きな転換点を迎えています。2026年6月1日に施行される改正保険業法により、保険代理店の販売手法として広く使われてきた「ハ方式」が廃止されることが決まりました。

金融庁は保険代理店監督の強化を進めており、「例外的な措置がスタンダードとなり、顧客利益の障害となっていた」と厳しい認識を示しています。本記事では、保険代理店の比較推奨販売の仕組みと問題点、そして改正法が業界にもたらす影響を解説します。

保険代理店の「イロハ方式」とは

3つの販売方式の違い

保険業法では、複数の保険会社の商品を扱う乗合代理店が顧客に保険商品を推奨する方法として、「イ・ロ・ハ」の3つの方式を定めています。

イ方式は、取扱商品の中から顧客の意向に沿った商品を客観的な基準で絞り込み、比較可能な形で提示する方法です。最も透明性が高い方式ですが、すべての商品を比較する必要があるため、実務上のハードルが高いとされてきました。

ロ方式は、顧客の意向を丁寧に把握した上で、その意向に沿って保険商品を選別・推奨する方法です。顧客ごとにカスタマイズされた提案が可能で、顧客本位の販売に最も適した方式と位置づけられています。

ハ方式は、代理店独自の理由で特定の保険会社や商品を推奨する方法です。「当社は長年の取引関係から○○保険会社の商品を推奨しています」といった理由で特定商品を勧めることができました。

ハ方式が「抜け穴」に

問題は、本来は例外的な位置づけだったハ方式が、業界のスタンダードとして広く利用されるようになったことです。多くの代理店がハ方式を採用し、顧客の意向よりも代理店側の事情で商品を推奨する状態が常態化していました。

背景には、保険会社から代理店への「便宜供与」の問題があります。保険会社が代理店に対して過度な経済的利益を提供し、その見返りとして自社商品の優先販売を求める構図が指摘されていました。ハ方式はこうした商慣行を正当化する隠れ蓑として機能していたのです。

相次ぐ不正と金融庁の危機感

生保業界で続発する不祥事

生命保険業界では2020年以降、営業職員による不正行為が相次いで発覚しています。第一生命、メットライフ生命、明治安田生命、ソニー生命、大同生命、日本生命、東京海上日動あんしん生命と、大手各社で顧客からの金銭詐取事件が立て続けに報告されました。

こうした不正の温床となっていたのが、営業職員の管理体制の不備と、手数料収入を優先した販売慣行です。金融庁は生命保険協会に営業職員の管理強化のための指針策定を求め、業界全体のコンプライアンス態勢の見直しを迫っています。

「顧客本位」への転換を求める金融庁

金融庁は「顧客本位の業務運営」を保険業界に強く求めています。2025年8月には「保険会社向けの総合的な監督指針」を改正し、代理店の体制整備や販売プロセスの適正化に向けた監督を強化しました。

保険代理店監督企画室は、保険代理店のあり方について「例外的な措置がスタンダードとなり、顧客利益の障害となっていた」と指摘。この発言は、ハ方式の廃止に至る金融庁の問題意識を端的に示しています。

2026年改正保険業法の主な変更点

ハ方式廃止とロ方式への一本化

改正法の最大のポイントは、比較推奨販売の説明類型が「イまたはロ」に整理され、ハ方式に相当する取扱いが削除されることです。2026年6月1日以降、すべての推奨販売はロ方式、つまり顧客の意向に基づいた商品選別が必要になります。

これにより、代理店は「顧客が重視する項目を丁寧かつ明確に把握した上で、意向に沿って保険商品を選別し推奨する」プロセスの手順化が求められます。

体制整備義務の強化

特定大規模乗合代理店に該当する場合、営業所ごとの法令等遵守責任者の設置、本店の統括責任者の配置、兼業監視体制の構築が義務化されます。また、2026年4月頃には過度な便宜供与に関する通報窓口の運用も開始される予定です。

販売手数料の透明化

保険会社から代理店への販売手数料についても、その算定基準や支払い方法の透明化が求められます。手数料の多寡によって推奨商品が左右されるような構造的な問題の解消が狙いです。

今後の展望と消費者への影響

代理店の淘汰と再編が加速

改正法への対応は、特に中小規模の代理店にとって大きな負担です。体制整備にかかるコストや人材確保の課題から、廃業や統合を選択する代理店が増加する可能性があります。一方で、適切な比較推奨販売を実践できる代理店は、消費者からの信頼を勝ち取り競争力を高めることができます。

消費者にとってのメリット

消費者にとっては、自分の意向やニーズに基づいた保険商品の提案を受けられるようになるという大きなメリットがあります。「代理店にとって都合の良い商品」ではなく「自分にとって最適な商品」を選べる環境が整うことが期待されます。

まとめ

保険業界における「ハ方式」の廃止は、顧客利益を軽視した販売慣行に終止符を打つ重要な改革です。2026年6月の施行に向けて、保険代理店は販売プロセスの抜本的な見直しと体制整備が急務となっています。

保険の加入・見直しを検討中の方は、代理店がどのような方針で商品を推奨しているかを確認することが重要です。改正法施行後は、より透明性の高い比較推奨を受けられる環境が整います。

参考資料:

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