イランから邦人14人が退避、中東3カ国で計188人が陸路で脱出
はじめに
2026年2月28日に米国とイスラエルがイランへの大規模軍事攻撃を開始して以来、中東地域の情勢は急速に悪化しています。イランによる報復攻撃は湾岸諸国にまで及び、複数の国際空港が閉鎖される事態となりました。こうした中、日本政府は中東各国に滞在する邦人の安全確保に全力を挙げています。
外務省は3月8日、イラン、アラブ首長国連邦(UAE)、クウェートの3カ国から計188人の日本人および外国籍家族が、日本政府の支援のもと陸路で周辺国に退避したと発表しました。空路が断たれる中での陸路退避は困難を極めますが、政府の迅速な対応により、現時点では大きな混乱なく進められています。本記事では、この退避作戦の詳細と背景、今後の見通しについて解説します。
中東危機の発端と情勢の急激な悪化
米国・イスラエルによるイラン攻撃
今回の中東危機の直接的な引き金となったのは、2月28日に始まった米国とイスラエルによるイランへの大規模攻撃です。米国側は「Operation Epic Fury(壮大なる怒り作戦)」、イスラエル側は「Roaring Lion(咆哮する獅子)」と命名された共同作戦で、テヘラン中心部にあるハメネイ最高指導者の執務室兼住居を含む主要標的への攻撃が行われました。
米宇宙軍とサイバー軍がイランの通信網を遮断した後、周辺基地と空母2隻から100機以上の航空機が発進して空爆を実施しました。米国防総省によれば、最初の24時間だけで31州中24州にわたり1,200発以上の弾薬が投下されています。この攻撃によりハメネイ最高指導者(86歳)が死亡し、イラン軍の参謀総長や国防相、革命防衛隊(IRGC)の司令官といった主要な軍事指導者も排除されました。
イランの報復と湾岸諸国への被害拡大
イランの革命防衛隊は即座に報復を宣言し、イスラエル本土だけでなく、クウェート、UAE、カタール、バーレーンに所在する米軍基地・施設を標的とする攻撃を開始しました。この報復攻撃は中東全域に拡大し、湾岸諸国のエネルギー関連施設やインフラにも被害が及んでいます。ホルムズ海峡も実質的に航行不能な状態に陥り、世界のエネルギー供給にも深刻な影響が出ています。
こうした戦闘の拡大により、カタール、クウェート、バーレーンでは国際空港が閉鎖され、UAEのドバイ空港も事実上の閉鎖状態となりました。中東を経由する数千便の航空便が欠航し、多くの旅行者やビジネスパーソンが足止めされる事態が発生しました。
日本政府による邦人退避作戦の全容
イランからの退避:2回にわたる陸路輸送
イランからの邦人退避は、2回に分けて実施されました。第1回は3月3日から4日にかけて行われ、出国を希望した日本人2名がテヘランから陸路でアゼルバイジャンの首都バクーに到着しました。日本時間の3月4日午前4時50分(現地時間3日午後11時50分)に無事到着が確認されています。
第2回は3月7日から8日にかけて実施されました。在イラン日本大使館の職員を含む日本人13名と、その外国籍家族1名の計14名が、テヘランからバスで陸路移動し、日本時間8日午前5時頃にアゼルバイジャンの首都バクーに到着しました。2回の退避を合わせると、イランからは計16名が無事に脱出したことになります。
外務省によれば、イランにはなお約180名の日本人が滞在しているとされ、今後も退避希望者がいれば支援を継続する方針です。
UAEとクウェートからの大規模退避
UAEからは計90名の日本人および家族が陸路でオマーンの首都マスカットに退避しました。内訳はドバイから60名、アブダビから30名で、3月7日(日本時間8日)にマスカットに到着しています。UAEには約6,500人の日本人が在住しているとされますが、退避を希望したのはこの90名でした。多くの在住者は現地で状況を見守る判断をしたとみられます。
クウェートからは計84名の日本人および家族が陸路でサウジアラビアの首都リヤドに退避しました。クウェートの国際空港がイランによる攻撃の影響で閉鎖されているため、陸路での長距離移動を余儀なくされています。
3カ国合計で188名が周辺国への退避を完了しており、外務省は8日に一括して発表しました。
政府の危機対応体制と今後の支援計画
渡航中止勧告とチャーター機の手配
外務省は3月5日、中東6カ国・地域の危険情報を4段階中3番目の「レベル3:渡航中止勧告」に引き上げました。対象はクウェート、バーレーン、カタール、UAE、オマーンの全域とサウジアラビア東部です。これは2月28日にレベル2に引き上げたわずか5日後の再引き上げであり、情勢の悪化がいかに急速であったかを物語っています。
政府はサウジアラビアのリヤドとオマーンのマスカットにチャーター機を手配し、退避した邦人を東京まで空路で輸送する計画を進めています。チャーター機は3月8日に運航が予定され、費用は政府が負担します。ただし、定員を上回る希望者が見込まれるため、高齢者や妊婦などを優先して搭乗させる方針です。
自衛隊機のモルディブ待機
防衛省は3月6日、自衛隊法84条に基づく在外邦人輸送の準備として、航空自衛隊のKC-767空中給油・輸送機1機をインド洋のモルディブに待機させることを決定しました。小牧基地から出発した同機は、日本時間8日午後1時40分頃にモルディブの空港に到着しています。
これは「民間チャーター機が使えなくなった場合」に備えた措置であり、直ちに中東に飛行するものではありません。ジブチの自衛隊拠点ではなくモルディブが選ばれた理由については、中東域内の空域が不安定であることや、モルディブの方が周辺国へのアクセスの柔軟性が高いことが指摘されています。
注意点・展望
今回の退避作戦は、空路が使えない中での陸路移動という制約のもとで実施されており、長時間のバス移動や砂漠地帯の横断など、退避者にとって身体的・精神的な負担は小さくありません。実際に退避した日本人からは「命の危険を感じた」という声も報じられています。
中東地域にはイランに約180人、イスラエルに約1,000人、UAE全体では約6,500人の日本人が滞在しているとされ、退避を完了した188人はその一部に過ぎません。多くの在留邦人が現地にとどまっている状況であり、今後の戦闘の推移によっては、さらなる退避支援が必要になる可能性があります。
また、湾岸諸国の空港の再開時期は不透明であり、限定的な運航再開の動きもあるものの、本格的な正常化にはなお時間を要する見通しです。政府は引き続き、チャーター機の追加手配や自衛隊機の活用も含め、あらゆる手段で邦人保護に努める姿勢を示しています。
まとめ
2月28日の米国・イスラエルによるイラン攻撃を発端とする中東情勢の急激な悪化を受け、日本政府はイラン、UAE、クウェートの3カ国から計188人の邦人および家族を陸路で周辺国に退避させました。イランからは2回にわたりアゼルバイジャンへ計16人、UAEからはオマーンへ90人、クウェートからはサウジアラビアへ84人が無事到着しています。
政府はチャーター機による帰国支援や、自衛隊機のモルディブ待機など、重層的な体制で邦人保護を進めています。中東情勢は依然として予断を許さない状況が続いており、在留邦人の安全確保に向けた取り組みは今後も継続される見込みです。
参考資料:
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