中東邦人188人退避、イラン・UAE・クウェートから陸路で脱出
はじめに
中東情勢の急激な悪化を受け、日本政府による在留邦人の退避支援が本格化しています。外務省は2026年3月8日、イランから日本人13人と外国籍の家族1人の計14人がアゼルバイジャンの首都バクーに陸路で退避したと発表しました。
同日、アラブ首長国連邦(UAE)からは計90人がオマーンの首都マスカットに、クウェートからは計84人がサウジアラビアの首都リヤドにそれぞれ退避しています。3カ国で合計188人の邦人らが周辺国に脱出したことになります。中東全域に広がる退避オペレーションの現状を整理します。
退避の経緯と背景
米・イスラエルのイラン攻撃がきっかけ
今回の大規模退避の発端は、2026年2月28日に始まった米国とイスラエルによるイランへの軍事攻撃です。イスラエル軍はテヘランなどイラン国内の複数の軍事施設や石油関連施設を空爆し、イランはクウェート、サウジアラビアなど湾岸諸国への報復攻撃で応じました。
この軍事衝突の拡大により、イランだけでなく湾岸諸国全域の安全が脅かされる事態となりました。複数の国で国際空港が閉鎖され、通常の商用便による出国が困難になったことが、陸路退避という異例の対応を余儀なくさせています。
中東6カ国に渡航中止勧告
外務省は3月5日、中東6カ国の危険情報を上から2番目の「レベル3(渡航中止勧告)」に引き上げました。対象は、クウェート、バーレーン、カタール、UAE、オマーン全域と、サウジアラビア東部です。イランについてはすでに最高レベルの「レベル4(退避勧告)」が発出されています。
現在イランには約200人、イスラエルには約1,000人の日本人が滞在しており、日本政府は引き続き退避を希望する邦人への支援を継続する方針です。
退避オペレーションの詳細
イランからの退避(第2弾)
イランからの邦人退避は今回が2回目です。第1弾は3月3〜4日にかけて実施され、日本人2人がテヘランから陸路でアゼルバイジャンに退避しました。第2弾となる今回は、大使館員を含む日本人13人と外国籍の家族1人の計14人が、3月7日(日本時間8日)にバクーに到着しています。
イラン国内の空港が使用できない状況のため、退避は大使館が手配した車両による陸路移動で行われています。テヘランからアゼルバイジャン国境まで約500キロの道のりを移動する必要があり、移動には相当の時間を要します。
UAEからの退避
UAEからの退避は、ドバイから日本人ら60人、アブダビから約30人がオマーンの首都マスカットに陸路で移動しました。UAEでは国際空港が閉鎖されているため、空港が稼働しているオマーンへの陸路移動が選択されています。
マスカットからは3月8日午前5時43分(現地時間)にチャーター機が出発し、同日午後7時すぎ(日本時間)に成田空港に到着する見込みです。
クウェートからの退避
クウェートからも同様に空港閉鎖のため、84人がサウジアラビアの首都リヤドに陸路で退避しました。リヤドの空港は稼働しており、ここからもチャーター機での帰国が予定されています。
退避支援の課題
空港閉鎖による制約
今回の退避で最大の課題となっているのが、中東複数国での空港閉鎖です。通常、海外有事での邦人退避は商用便やチャーター機による空路が主な手段ですが、軍事衝突の影響で空港が使用不能となり、隣国への陸路移動という迂回ルートを取らざるを得ない状況です。
陸路移動は時間がかかるだけでなく、道路の安全確保や国境通過の手続きなど、空路以上に多くの調整が必要になります。各国の大使館が現地で車両を手配し、移動ルートの安全を確認しながらの退避となるため、一度に退避できる人数にも限りがあります。
残留邦人への対応
イランに残る約200人の日本人のうち、退避を希望するすべての人を安全に出国させるには、今後も複数回の退避オペレーションが必要です。3回目以降の退避支援も予定されており、外務省は「速やかに国外に退避してください」と呼びかけています。
また、UAEには約6,500人の日本人が在留しているとされますが、退避したのは90人にとどまっています。多くの在留邦人はビジネスや生活の基盤があり、即座に退避する判断が難しい状況です。情勢がさらに悪化した場合の大規模退避に備えた計画の策定が急がれます。
注意点・今後の展望
中東情勢は依然として流動的で、停戦の見通しは立っていません。トランプ米大統領が軍事作戦の継続を表明する一方、イランのペゼシュキアン大統領は無条件降伏を拒否しており、衝突の早期終結は見込めない状況です。
今後の焦点は、空港の運航再開の時期と、衝突がさらに周辺国に波及するリスクです。オマーンやサウジアラビアの空港が稼働を維持できれば退避ルートは確保されますが、紛争が拡大すればこれらのルートも影響を受ける可能性があります。
日本政府は中東6カ国への渡航中止を強く求めるとともに、現地に残る邦人への情報提供と退避支援を継続する方針です。渡航中止勧告が出されている地域への新規渡航は厳に控える必要があります。
まとめ
イラン、UAE、クウェートの3カ国から計188人の邦人らが陸路で隣国に退避しました。空港閉鎖という制約の中で、各国の大使館が車両を手配し、陸路での退避ルートを確保するという異例のオペレーションが続いています。
中東情勢の行方は不透明であり、今後も退避支援は継続される見通しです。中東に在留する日本人や渡航を検討している方は、外務省の海外安全ホームページを確認し、最新の情報に基づいた判断をすることが重要です。
参考資料:
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