日カナダが経済安保対話を新設、連携を強化
はじめに
高市早苗首相とカナダのマーク・カーニー首相は2026年3月6日、首相官邸で首脳会談を行い、サイバーセキュリティと経済安全保障の分野で新たな政策対話の創設を決定しました。両国の関係を従来の「戦略的パートナーシップ」から「包括的戦略的パートナーシップ」に格上げし、幅広い分野での協力強化を盛り込んだ共同声明に署名しています。
米国の自国優先政策と中国の経済的威圧が国際秩序を揺るがす中、「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向けて価値観を共有する国同士が連携を深める動きとして注目されます。
首脳会談の主要合意事項
経済安全保障対話の新設
最大の成果は、「経済安全保障対話」の新設です。次官級が参加するこの対話は年内に初会合を開催する見通しで、重要鉱物やエネルギー資源のサプライチェーン(供給網)の強靱化を主要テーマとしています。
具体的には、黒鉛などの重要鉱物と液化天然ガス(LNG)の生産における協力を進めることで合意しました。中国への過度な依存を減らし、信頼できるパートナー間で安定した供給網を構築する狙いがあります。
サイバーセキュリティ協議体の設置
もう一つの柱が、サイバーセキュリティに関する政策協議体の設置です。中国やロシアからのサイバー攻撃に関する情報共有を強化し、両国のサイバー防衛能力を高めることを目的としています。
国家的なサイバー攻撃の脅威が増す中、同盟国間での情報共有と共同対処は不可欠です。日本とカナダが二国間でサイバー政策対話の枠組みを設けることは、インド太平洋地域のサイバーセキュリティ強化に向けた重要な一歩といえます。
防衛協力の拡大
安全保障面では、共同軍事演習の拡大も合意されました。中国がインド太平洋地域で軍事活動を活発化させる中、日本とカナダは防衛協力を深めることで抑止力の強化を図ります。カナダはインド太平洋戦略を推進しており、この地域へのコミットメントを強化する姿勢を明確にしました。
カーニー首相のインド太平洋歴訪
貿易多角化戦略の一環
カーニー首相にとって今回の訪日は、インド、オーストラリアに続くインド太平洋歴訪の最終訪問地です。この歴訪の目的は、カナダの貿易多角化と新たなパートナーシップの確立にあります。
カナダは従来、米国への貿易依存度が極めて高い国です。トランプ政権による関税政策や自国優先の通商政策を受け、貿易相手国の多角化が急務となっています。日本やオーストラリア、インドとの関係強化は、この戦略の中核をなすものです。
重要鉱物での日本との補完性
日カナダの経済関係において特に注目されるのが、重要鉱物分野での補完性です。カナダはニッケル、コバルト、リチウム、黒鉛などの重要鉱物の豊富な埋蔵量を持つ資源大国です。一方、日本はこれらの鉱物を必要とする半導体やEVバッテリーの製造拠点を有しています。
現在、これらの重要鉱物の精製・加工の多くが中国に集中しています。日カナダが直接的なサプライチェーンを構築することは、中国依存からの脱却と経済安全保障の強化という両国共通の課題に応えるものです。
国際情勢を背景とした戦略的意義
米中対立の狭間で
今回の首脳会談は、トランプ大統領の訪中が予定される中で行われました。米国の同盟国でありながら、米国の一方的な通商政策に苦しむ日本とカナダが、自らの利益を守るために連携を深める構図です。
共同声明では、中国に関する両国の見解を再確認しつつ、法の支配と自由貿易を重視する立場を打ち出しています。米国に過度に依存せず、価値観を共有する国々との多角的な連携を構築する動きは、今後のインド太平洋外交の一つの潮流となる可能性があります。
「自由で開かれたインド太平洋」の推進
高市首相は会談の冒頭で「日本とカナダは自由、民主主義、法の支配といった基本的な価値観を共有する」と述べました。両首脳は「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向けた協力を確認しており、この理念に基づく具体的な行動計画として今回の合意が位置づけられています。
注意点・展望
具体的成果への期待と課題
対話の枠組みが設置されること自体は前進ですが、重要なのは実質的な成果につなげられるかどうかです。重要鉱物のサプライチェーン構築には膨大な投資と時間が必要であり、短期間で中国依存から脱却できるわけではありません。
また、カナダの貿易多角化戦略が実効性を持つためには、米国との関係管理も重要です。米加関係が悪化する中で日本がカナダとの関係を深めることが、米国の反発を招かないよう外交的なバランスが求められます。
今後のスケジュール
経済安全保障対話は年内に初会合が開催される予定です。今後、具体的なプロジェクトの選定やLNG協力の詳細が詰められることになります。両国の実務レベルでの連携がどこまで進むか、注視していく必要があります。
まとめ
日本とカナダは首脳会談で「包括的戦略的パートナーシップ」に関係を格上げし、経済安全保障対話とサイバーセキュリティ協議体の新設で合意しました。重要鉱物の供給網強化や防衛協力の拡大を通じ、中国依存の軽減とインド太平洋の安定に向けた連携を深めています。
米中対立の狭間で、価値観を共有する国々が多角的なパートナーシップを構築する動きは加速しています。今回の日カナダ合意が実質的な成果につながるかどうかが、今後の焦点となるでしょう。
参考資料:
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