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by nicoxz

キオクシア発の秘密計算技術、EmotionXが2026年春に事業化へ

by nicoxz
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はじめに

データを暗号化したまま分析できる「秘密計算」——この技術が、いよいよ実用化の段階を迎えています。キオクシアホールディングスからカーブアウト(事業の切り離し)して誕生したスタートアップ、EmotionX(エモーションX、東京・港区)が、2026年春から本格的に事業を開始する見通しです。

企業が保有する機密データの活用は、プライバシーや情報漏洩リスクとの両立が常に課題でした。秘密計算は、この課題を根本から解決する技術として注目を集めています。本記事では、EmotionXの技術的特徴や事業戦略、そして秘密計算がもたらすデータ活用の未来について解説します。

EmotionXとは——キオクシアが育んだ秘蔵技術の独立

カーブアウトの経緯

EmotionXは、2025年6月にキオクシア社内の先端技術研究所で進められていた研究開発事業がカーブアウトする形で設立されました。キオクシアはフラッシュメモリやSSDなどの高速ストレージを開発・製造する企業として知られていますが、その研究開発部門では半導体技術を応用した秘密計算の高速化にも取り組んでいました。

同社の設立の背景には、キオクシアが2023年1月にEAGLYS(イーグリス)と締結した秘密計算の高速化に関する共同開発契約があります。この共同開発では、キオクシアのハードウェア技術とEAGLYSのソフトウェア技術を組み合わせ、完全準同型暗号(FHE)を用いた秘密計算の実用化を目指していました。

EAGLYSとの新たな共同開発体制

2026年2月26日、EAGLYSとEmotionXは秘密計算AI実用化に向けた新たな共同開発契約を締結しました。キオクシア時代に蓄積されたFHE高速化の研究成果がEmotionXに移管され、新たな体制のもとで開発が継続されています。

EAGLYSの秘密計算アプリケーションとソフトウェア技術の知見に、EmotionXのFHE高速化ハードウェア技術を組み合わせることで、暗号化されたデータ上でのAI処理を実用レベルの性能で実現することを目指しています。

秘密計算とは何か——技術の仕組みと可能性

データを暗号化したまま計算する技術

秘密計算は、データを暗号化した状態のまま計算や検索を行える技術の総称です。従来のデータ処理では、暗号化されたデータを分析するためには一度復号(暗号を解く)する必要がありました。この復号の瞬間にデータが生の状態で露出するため、情報漏洩のリスクが生じます。

秘密計算では、暗号化されたままの状態で計算結果を得ることができるため、原データを一度も露出させることなくデータ分析が可能です。金融、医療、製造業など、機密性の高いデータを扱う業界にとって革新的な技術です。

3つの実装方式

秘密計算の実装には主に3つのアプローチがあります。

第一に、EmotionXが注力する**完全準同型暗号(FHE:Fully Homomorphic Encryption)**です。暗号化されたデータに対して理論上あらゆる計算が可能で、最も汎用性が高い方式です。ただし、計算速度が平文の数百倍以上遅くなるという課題があり、これがEmotionXの技術が解決しようとしている最大のボトルネックです。

第二に、TEE(Trusted Execution Environment)/コンフィデンシャルコンピューティングがあります。ハードウェアに設けた安全な実行領域でデータを処理する方式で、平文に近い速度で処理できる利点があります。

第三に、**MPC(Multi-Party Computation:秘密分散)**があります。データを複数の断片に分割し、各断片を別々のサーバーで処理する方式です。計算速度は平文の数倍から数十倍程度に抑えられます。

市場動向と今後の展望

成長する秘密計算市場

Gartnerは秘密計算を2026年の戦略的テクノロジートレンドの一つに位置づけています。さらに、2029年までに信頼できないインフラ上のビジネス処理の75%以上が、コンフィデンシャルコンピューティングによるデータ保護を実装すると予測しています。

日本国内でも、NECやNTTデータ、Acompanyなどが秘密計算分野で積極的に事業展開を進めています。特にAcompanyは、秘密計算とAIを融合させた「Confidential AI」のR&Dビジョンを掲げ、機密データとAIモデルの双方を保護するプラットフォームの構築を目指しています。

EmotionXのプライバシークラウド構想

EmotionXは、完全準同型暗号を活用した「プライバシークラウドサービス」の提供を2026年春に開始する予定です。これは、クラウド上でデータの機密性を完全に保ちながら高度な分析やAI処理を実行できるサービスで、従来のクラウドサービスが抱えていた「データをクラウドに預ける不安」を技術的に解消するものです。

特に医療データの二次利用、金融機関間のリスク分析、製造業における設備データの共有分析など、これまでプライバシーの壁によって活用が進まなかった領域での突破口となることが期待されています。

注意点・展望

秘密計算の実用化にはまだ克服すべき課題もあります。FHEの計算速度は年々改善されていますが、大規模なAIモデルの推論を暗号化されたデータ上で実行するには、さらなるハードウェアとアルゴリズムの最適化が必要です。EmotionXとEAGLYSの共同開発が、この速度課題をどこまで解消できるかが事業成功の鍵を握ります。

また、秘密計算の標準化や法制度の整備も重要な課題です。異なる企業間でデータを安全に共有・分析するためには、技術的な相互運用性だけでなく、データガバナンスのルール整備も並行して進める必要があります。

キオクシアという半導体メーカーの研究所から生まれた技術が、独立したスタートアップとして花開こうとしています。ハードウェアの知見を持つEmotionXと、ソフトウェアの専門家であるEAGLYSの連携は、日本発の秘密計算エコシステム構築に向けた注目すべき動きです。

まとめ

EmotionXのプライバシークラウドサービスの事業開始は、秘密計算技術が研究段階から実用段階へと移行する重要な節目です。データを暗号化したまま分析できるこの技術は、プライバシー保護とデータ活用の両立という長年の課題に対する解答となる可能性を秘めています。

企業のデータ活用戦略を検討する立場にある方は、秘密計算の動向を注視しておくことをおすすめします。特に医療、金融、製造業など機密データを多く扱う業界では、今後の競争力を左右する技術となり得ます。

参考資料:

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