トランプ代替関税に24州が提訴、関税政策の法的攻防を解説
はじめに
トランプ米大統領が全世界を対象に発動した10%の追加関税をめぐり、オレゴン州など24州が2026年3月5日、米国際貿易裁判所に一斉提訴しました。この関税は、連邦最高裁が2月に「違憲」と判断した相互関税の代替措置として発動されたものです。
24州は「誤った法解釈に基づく措置であり無効」だとして、関税の徴収停止を求めています。トランプ政権の関税政策をめぐる法的攻防は、新たな局面に入りました。本記事では、この訴訟の背景と法的論点、今後の影響を解説します。
最高裁違憲判決から代替関税発動までの経緯
IEEPA関税が違憲と判断される
2026年2月20日、米連邦最高裁は画期的な判決を下しました。トランプ大統領が国際緊急経済権限法(IEEPA)に基づいて課していた相互関税について、「IEEPAは大統領に関税を課す権限を与えていない」と断じ、違憲と判断したのです。
この相互関税は2025年4月に発動され、各国に対して最大数十%の関税が課されていました。最高裁は、関税(税金)を課す権限は合衆国憲法第1条により議会に属するものであり、大統領が緊急権限法を根拠に一方的に関税を課すことは権力分立に反すると結論づけました。
通商法122条による「代替関税」の発動
最高裁判決を受けてトランプ大統領は2月24日、相互関税の徴収を終了する大統領令に署名しました。しかし同時に、通商法122条に基づく全世界一律10%の追加関税を即日発動しました。
通商法122条は、大統領に最大15%の関税を課す権限を認めるものですが、これまで一度も発動されたことがない条項です。もともとは固定相場制の時代に、国際収支の危機に短期的に対処するために設けられた規定で、適用期間は最長5カ月(議会の承認なし)に限られています。
24州が主張する「違法」の根拠
通商法122条の本来の趣旨との乖離
24州の訴訟の核心は、通商法122条の適用要件を満たしていないという主張です。同条は「短期的な通貨危機」や「国際収支の急激な悪化」に対処するための措置として設計されています。
しかし、トランプ大統領が関税発動の根拠としているのは「貿易赤字」です。24州は、恒常的な貿易赤字は122条が想定する「短期的な通貨危機」には該当せず、法の趣旨を逸脱した運用であると主張しています。
憲法上の権力分立の問題
訴訟ではさらに、122条に基づく関税も合衆国憲法の権力分立に反するとの主張が展開されています。憲法第1条は「すべての関税は議会が定める」と規定しており、大統領への関税権限の委任には限界があるという立場です。
最高裁がIEEPA関税を違憲と判断した論理は、122条関税にも適用される可能性があります。ただし、122条は議会が明示的に大統領に関税権限を委任した法律であるため、法的論点はIEEPA訴訟とは異なります。
提訴した24州の構成と政治的背景
党派を超えた連合
提訴したのはオレゴン州のほか、カリフォルニア州、ニューヨーク州、アリゾナ州など24州です。大半は民主党の司法長官がいる州ですが、ペンシルベニア州とケンタッキー州は民主党知事と共和党司法長官の組み合わせであり、党派を一部超えた連合となっています。
これらの州は、関税が州内の消費者や企業に直接的な経済的損害を与えているとして、原告適格(訴訟を起こす資格)を主張しています。輸入品の価格上昇が州民の生活コストを押し上げ、輸出産業にも報復関税のリスクが及んでいるとの立場です。
裁判管轄と今後のスケジュール
訴訟は米国際貿易裁判所(Court of International Trade)に提起されました。関税に関する訴訟は同裁判所が専属管轄を持ちます。24州は関税の即時停止を求める仮処分も請求しており、裁判所がどの程度迅速に判断を示すかが注目されます。
注意点・展望
この訴訟の行方は、米国の通商政策の根幹に影響を及ぼす可能性があります。もし裁判所が122条関税も無効と判断すれば、トランプ大統領が大統領権限で関税を課すための法的根拠はほぼ失われます。
一方で、通商法122条はIEEPAと異なり、議会が明示的に大統領に関税権限を委任した法律です。裁判所がこの違いをどう評価するかがカギとなります。また、122条の関税は最長5カ月という時限的な措置であるため、議会の承認が得られなければ自動的に失効します。
企業にとっては、関税政策の不確実性が最大のリスクです。すでに最高裁の違憲判決を受けた相互関税については、約26兆円規模の税還付が焦点となっています。代替関税も無効となれば、さらなる混乱が予想されます。日系企業を含む多国籍企業は、関税政策の急変に備えたサプライチェーンの見直しが引き続き求められます。
まとめ
オレゴン州など24州によるトランプ代替関税への提訴は、最高裁の違憲判決に続く関税政策の法的攻防の第2幕です。通商法122条の適用要件を満たしているかどうかが最大の争点であり、裁判所の判断は米国の通商政策に大きな影響を与えます。
関税をめぐる法的不確実性は、企業や消費者に直接的な影響を及ぼしています。今後の裁判の進展と、議会での通商法改正の動向を注視していく必要があります。
参考資料:
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