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by nicoxz

米最高裁の関税違憲判決、株式・債券市場に波紋広がる

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はじめに

2026年2月20日、米連邦最高裁判所はトランプ政権が国際緊急経済権限法(IEEPA)に基づいて発動した相互関税について、大統領の権限を逸脱しているとして違憲判決を下しました。この歴史的な判決を受け、金融市場は即座に反応しました。米ダウ工業株30種平均は前日比230ドル高の4万9625ドルで取引を終え、関税撤廃が企業収益や景気の追い風になるとの期待が広がりました。一方で、米国債市場やドル為替相場では異なる動きが見られ、市場全体としては複雑な反応を示しています。本記事では、判決の内容と各市場への影響を多角的に解説します。

最高裁判決の内容と背景

6対3の判決:IEEPAによる関税は大統領権限の逸脱

米連邦最高裁は「Learning Resources, Inc. v. Trump」事件において、6対3の評決でトランプ大統領のIEEPAに基づく関税措置を違法と判断しました。ジョン・ロバーツ最高裁長官が多数意見を執筆し、クラレンス・トーマス、サミュエル・アリート、ブレット・カバノーの3判事が反対意見を述べました。

ロバーツ長官は判決文の中で、IEEPAの条文にある「規制する(regulate)」や「輸入(importation)」という文言は、大統領に関税を課す権限を与えるには不十分であると結論づけました。「議会が関税を課す権限を付与する際には、明確にかつ慎重な制約を伴って行う。IEEPAではそのどちらもなされていない」と述べています。

憲法上の根拠

合衆国憲法は、関税を課す権限を議会に付与しています。IEEPAは1977年に制定された法律で、外国からの脅威によって生じた国家緊急事態の際に通商を規制する権限を大統領に認めています。しかし、約50年間にわたり、いかなる大統領もIEEPAを関税賦課の根拠として使用したことはありませんでした。歴代の大統領は、関税を課す場合には1974年通商法301条や1962年通商拡大法232条といった関税に特化した法律を根拠としてきました。この歴史的前例の欠如も、最高裁の判断を裏付ける根拠の一つとなりました。

対象となった関税措置

今回違憲と判断されたのは、IEEPAを根拠とした以下の関税措置です。

  • 2025年4月に幅広い国・地域に対して発動された相互関税
  • 合成麻薬フェンタニルの米国流入を理由とした中国、カナダ、メキシコへの追加関税

なお、通商拡大法232条に基づく自動車や鉄鋼・アルミニウムへの関税は、今回の訴訟の対象外であり、引き続き有効です。

株式市場の即時反応:消費関連株に買い集中

ダウ平均230ドル高、一般消費財セクターが牽引

判決が発表された2月20日、米株式市場は即座に好感しました。ダウ工業株30種平均は前日比230ドル(0.47%)高の4万9625ドルで取引を終了しました。S&P500種株価指数やナスダック総合指数も反発しています。

特に目立ったのは、関税の打撃が大きかった一般消費財セクターの株価上昇です。ダウ銘柄ではプロクター・アンド・ギャンブルが前日比1.4%高、コカ・コーラが同1.2%高と堅調でした。

Eコマース・テクノロジー銘柄も上昇

アマゾン・ドット・コムやエッツィ(Etsy)など、輸入品への依存度が高いEコマース企業の株価も上昇しました。アマゾンのアンディ・ジャシーCEOは以前、関税の影響で一部商品の価格上昇が始まっており、消費者が低価格帯の商品に乗り換える動きが出ていたことを認めていました。判決によりこうした価格圧力が緩和されるとの期待が広がりました。

半導体への関税負担が軽減されるとの思惑から、ハイテク銘柄にも買いが入りました。アルファベット(グーグル親会社)が3.7%高、エヌビディアが1%高となっています。

欧州市場にも波及

判決を歓迎する動きは海外市場にも広がりました。米国が主要な輸出先である欧州の高級ファッションブランドや自動車メーカーの株価が急伸しています。

債券市場・為替への影響:財政悪化懸念が重石に

米国債が売られ利回り上昇

株式市場が判決を好感する一方、米国債市場では売りが優勢となりました。長期債を中心に利回りが上昇し、30年物国債利回りは一時6ベーシスポイント(bp)上昇して4.75%に達しました。10年物国債利回りも4.09%まで上昇しています。

この背景には、関税還付をめぐる米財政悪化への懸念があります。米税関・国境取締局(CBP)の集計によると、今回違憲とされた関税について徴収済みの額は2025年12月14日時点で1,200億ドル(約19兆円)を超えています。最高裁は還付の是非について判断を示しませんでしたが、仮に還付が実現すれば米財政収支の大幅な悪化を招くことになります。

米シンクタンク「責任ある連邦予算委員会(CRFB)」は、徴収済み関税が還付され代替の歳入措置も導入されない場合、債務が金利負担を含めて2036年度までに2兆4,000億ドル(約370兆円)増加するとの試算を公表しました。

ドル下落の動き

為替市場では、米ドルが主要通貨に対して下落しました。ドルは判決直後に一時上昇する場面もありましたが、投資家が判決の長期的な財政への影響を消化するにつれ、下落に転じました。財政悪化がドルの信認を損なうとの懸念が売り材料となっています。

日本株への波及と注意点

日本株には上昇の見方

米国市場での関税撤廃期待は、日本株にも波及する可能性があります。特に、米国向け輸出比率が高い自動車や電子部品メーカーにとって、関税負担の軽減はポジティブな要因です。また、日本に対する15%の相互関税が撤廃されること自体は、日本経済にとって追い風と見る向きもあります。

トランプ政権の代替関税に注意

ただし、楽観は禁物です。トランプ大統領は判決当日の記者会見で「深く失望した」と述べ、直ちに代替措置を発表しました。1974年通商法122条に基づき、全世界に対して一律10%の関税を2月24日から発動する大統領令に署名しました。さらに翌21日には、この税率を15%に引き上げると表明しています。

通商法122条は、国際収支の悪化を理由に150日間の関税措置を認める規定です。事前調査が不要なため、大統領が迅速に発動できる利点があります。しかし、150日間という期限があるため、恒久的な措置にはなり得ません。

この代替関税の存在が、判決の市場へのプラス効果を限定的なものにしているとの見方もあります。実際、週末にトランプ氏が15%への引き上げを表明した後の2月23日(月曜日)には、ダウ平均が822ポイント(1.7%)下落し、4万8,804ドルで取引を終えました。

232条に基づく関税は存続

また、通商拡大法232条に基づく自動車や鉄鋼・アルミニウムへの関税は今回の判決の対象外であり、引き続き有効です。日本の自動車メーカーにとって、この点は依然として大きなリスク要因です。

まとめ

米連邦最高裁による相互関税の違憲判決は、金融市場に大きな波紋を投じました。株式市場は短期的に好感し、特に一般消費財やテクノロジーセクターに買いが集まりました。しかし、米国債市場では財政悪化懸念から売りが優勢となり、ドルも下落しています。

今後の焦点は、通商法122条に基づく代替関税の実効性と150日間の期限後の展開、そして1,200億ドルを超える徴収済み関税の還付訴訟の行方です。トランプ政権が議会と協力して新たな関税法制を整備するのか、それとも既存の法的権限の範囲内で対応し続けるのかが、今後の市場動向を大きく左右することになるでしょう。

日本の投資家にとっては、代替関税や232条関税の動向に加え、還付による米財政への影響が円ドル相場を通じて日本株に波及する可能性にも注意が必要です。

参考資料

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