サッポロHDとDyDoが自販機事業を縮小、業界に何が起きているか
はじめに
日本は世界有数の「自販機大国」として知られてきました。しかし今、その自販機ビジネスが大きな転換点を迎えています。サッポロホールディングス傘下のポッカサッポロフード&ビバレッジが約4万台の自販機事業をライフドリンクカンパニーに売却すると発表。ダイドーグループホールディングスも不採算の自販機約2万台を撤去する方針を打ち出しました。
さらにコカ・コーラボトラーズジャパンが904億円、伊藤園が137億円、ダイドーが298億円と、主要飲料メーカー4社で半年間に1,300億円を超える減損損失が発生しています。かつて「定価販売の稼ぎ頭」だった自販機ビジネスに何が起きているのか。その構造的な要因と今後の展望を解説します。
自販機ビジネスを追い詰めた3つの構造問題
消費者の節約志向とチャネル競争の激化
自販機事業が苦境に陥った最大の要因は、消費者行動の変化です。原材料費や物流コストの高騰により飲料価格は上昇を続け、自販機でのペットボトル飲料は200円前後にまで達しています。一方、スーパーやドラッグストアでは同じ商品が100円以下で購入できるケースも珍しくありません。
かつて自販機の強みだった「定価販売」は、消費者の節約志向が強まるなかで「割高」という認識に変わりました。コンビニエンスストアのカウンターコーヒーも100〜150円程度で本格的な味を提供しており、自販機の缶コーヒーとの競合が激しくなっています。利便性だけでは価格差を埋められなくなったことが、販売数量の減少に直結しています。
コスト上昇が利益を圧迫
売上が伸び悩む一方で、自販機の運営コストは上昇し続けています。特に深刻なのが以下の3つのコスト要因です。
第一に、人件費の上昇と人手不足です。自販機への商品補充や空き容器の回収には多くの人手が必要ですが、トラックドライバー不足や最低賃金の引き上げが運営コストを押し上げています。第二に、電気料金の高騰です。冷却・加温機能を持つ自販機は電力消費が大きく、エネルギー価格の上昇が直接的なコスト増につながっています。第三に、コーヒー豆をはじめとする原材料費の高騰です。缶コーヒーは自販機の主力商品ですが、原材料費の上昇が利益率を大きく圧迫しています。
値上げすれば客離れが加速し、据え置けば利益が出ない。この悪循環が自販機ビジネスの収益構造を根本から揺るがしています。
「台数拡大路線」のツケ
自販機ビジネスが構造的に抱えていた問題は、設置台数の拡大によって売上を伸ばすというビジネスモデルそのものにありました。飲料用自販機の設置台数は2012年にピークを迎え、その後は減少傾向が続いています。ピーク時から約40万台以上減少したとされています。
台数拡大路線は、好立地を確保できているうちは有効でした。しかし設置場所が飽和すると、1台あたりの販売数量が減少し、固定費が重くのしかかります。採算が取れない「不採算台」が増えても、設置場所のオーナーとの契約関係や営業実績の維持から撤去が進まず、赤字の自販機を抱え続ける状況が生まれていました。
各社の対応と業界再編の動き
サッポロHD:主力事業への集中を選択
サッポロHD傘下のポッカサッポロは、全国約4万台の自販機事業を会社分割(吸収分割)の形でライフドリンクカンパニーが設立する新会社に承継します。効力発生日は2026年10月1日の予定です。対象事業の売上高は96億3,900万円(2025年12月期)で、子会社3社も含まれます。
サッポロHDとしては、自販機事業から撤退し、主力の酒類事業に経営資源を集中させる戦略です。自販機事業は定価販売により利益率が高いとされてきましたが、市場環境の変化により、もはや経営資源を投入し続ける合理性が薄れたと判断したと考えられます。
ダイドー:過去最大赤字から2万台撤去へ
ダイドーグループHDは2026年1月期連結決算で最終損益が303億円の赤字となり、過去最大の赤字を記録しました。298億円の減損損失を計上し、うち大部分が自販機事業に起因するものです。同社は全国に約27万台の自販機を展開しており、国内飲料事業の売上の約9割を自販機チャネルに依存しています。
対策として、不採算の約2万台を撤去するほか、リファービッシュ(再整備)した自販機を活用してコストを抑制する方針です。また、サプライチェーンの効率化や、炭酸飲料など人気カテゴリの品揃え強化で1台あたりの収益改善を目指しています。
コカ・コーラ・伊藤園も苦戦
自販機事業の苦境はサッポロやダイドーにとどまりません。コカ・コーラボトラーズジャパンHDは2025年12月期決算で主に自販機関連で904億円の減損損失を計上しました。伊藤園も2025年5月〜2026年1月期決算で自販機事業の減損損失を137億円計上し、純利益が94%減少する事態に陥っています。伊藤園は自販機事業をグループ会社に移管し、運営の外部委託を進めるなど構造改革に着手しています。
注意点・展望
自販機が日本の街角から完全に消えるわけではありません。駅構内やオフィスビル、病院など、利便性が高く安定した需要が見込める好立地の自販機は引き続き収益を上げています。問題は、採算が取れない場所にまで広がった「野放図な設置」の部分です。
今後の自販機ビジネスは「量から質」への転換が不可避です。台数を減らしつつ、1台あたりの収益性を高める方向への再編が進むでしょう。キャッシュレス決済への対応、AIを活用した需要予測による品揃えの最適化、サブスクリプションモデルの導入など、デジタル技術を活用した新たな付加価値の創出が鍵になります。
また、食品自販機や冷凍食品自販機など、飲料以外のカテゴリでは新規参入が増えている点も注目です。飲料自販機が縮小する一方で、自販機というインフラ自体の活用方法は多様化しつつあります。
まとめ
サッポロHDの自販機事業売却やDyDoの2万台撤去は、長年続いた「台数拡大路線」の終焉を象徴する出来事です。飲料メーカー4社で1,300億円超の損失が発生したことは、自販機ビジネスの構造問題がいかに深刻かを物語っています。
消費者の節約志向、運営コストの上昇、チャネル競争の激化という三重苦のなかで、自販機ビジネスは「量から質」への大転換を迫られています。好立地への集約と1台あたりの収益向上、そしてデジタル技術の活用が、これからの自販機ビジネスの生き残りの条件となるでしょう。
参考資料:
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