「70歳以降も働く」が初の4割超え、その背景と課題
はじめに
2025年10〜12月に実施された郵送世論調査で、「70歳以降も働く」と回答した人の割合が42%に達し、2018年の調査開始以来、初めて4割を超えました。「70〜74歳」が23%、「75歳以上」が19%で、何歳まで働くかの平均値は68.3歳です。
この数字は、企業に雇用確保が義務づけられている65歳を上回っており、制度と実態の間にギャップが生じていることを示しています。本記事では、高齢者の就労意欲が高まっている背景と、企業や制度が抱える課題について解説します。
調査結果の詳細分析
「70歳以降も働く」42%の内訳
今回の調査では、何歳まで働くつもりか具体的な数値を記入してもらう方式が採用されました。その結果、70歳以降も働くと答えた人は全体の42%に上りました。内訳を見ると、「70〜74歳」が23%、「75歳以上」が19%です。
特に注目すべきは「75歳以上」と回答した人が19%に達していることです。4〜5人に1人が75歳を超えても働く意思を持っていることになります。全体の平均値は68.3歳で、法定の雇用確保義務年齢である65歳を3年以上上回っています。
年齢が高いほど継続意向が強い傾向
今回の調査では、年齢が高い回答者ほど「まだ働き続けたい」という意向が強い傾向が確認されました。これは実際に高齢期に入った人が、健康であれば働き続けることに前向きであることを示しています。
内閣府の高齢社会白書(令和7年版)でも同様の傾向が報告されています。現在収入のある仕事をしている60歳以上の約3割が「働けるうちはいつまでも」と回答しており、70歳くらいまでまたはそれ以上との回答を合わせると約8割が高い就業意欲を持っています。
前回調査からの推移
前回の調査(2024年実施)では「70歳以降も働く」との回答は39%でした。2018年の調査開始時と比較すると、就労意向の年齢は着実に上昇を続けています。少子高齢化の進展や年金への不安が、この傾向を後押ししていると考えられます。
就労意欲が高まる3つの背景
経済的な不安と年金への懸念
高齢者が働き続けたいと考える最大の理由は、経済的な不安です。世論調査でも将来不安の要因として「経済」を挙げる人が7割に達しています。
公的年金の受給開始年齢は原則65歳ですが、66歳以降に「繰り下げ受給」することで受給額を増やせる制度があります。75歳まで繰り下げれば受給額は約1.84倍になりますが、実際の繰り下げ受給の利用率は厚生年金・国民年金ともにわずか2%程度にとどまっています。目の前の生活費の必要性が、制度の活用を難しくしているのが実情です。
健康寿命の延伸
日本人の健康寿命は年々延びており、男性72.57歳、女性75.45歳(2019年時点)に達しています。70歳を超えても健康で活動的な高齢者が増えたことで、「まだ働ける」「社会と関わりたい」という意欲が高まっています。
体力や健康面で就労可能な高齢者が増加したことは、就労意向の上昇を支える基盤です。医療の進歩や健康意識の向上が、働く期間の延長を可能にしています。
社会参加と生きがいの追求
経済的理由だけでなく、「社会とのつながりを維持したい」「生きがいを感じたい」という動機も大きな要因です。退職後に社会との接点が減ることへの不安から、仕事を通じた人間関係やコミュニティへの参加を求める高齢者が増えています。
特に、長年培った専門知識や経験を活かせる場があれば、働くことそのものがやりがいにつながります。企業にとっても、熟練した人材の知見を活用できるメリットがあります。
制度と企業の現状
高年齢者雇用安定法の枠組み
2025年4月から、65歳までの雇用確保が完全に義務化されました。企業は「65歳までの定年引き上げ」「65歳までの継続雇用制度の導入」「定年制の廃止」のいずれかの措置を講じる必要があります。
一方、70歳までの就業機会確保は2021年の改正高年齢者雇用安定法で「努力義務」として導入されました。70歳までの定年引き上げ、継続雇用制度の導入、定年制の廃止に加え、業務委託契約や社会貢献事業への参加を通じた就業確保も選択肢に含まれています。
企業の対応状況
70歳までの高年齢者就業確保措置を実施済みの企業は31.9%で、前回調査に比べ2.2ポイント増加しました。しかし、まだ約7割の企業が未対応であり、「働きたい」高齢者の意欲と企業側の受け入れ体制にはギャップがあります。
総務省の統計によると、2024年の65歳以上の就業者数は930万人と過去最多を記録しています。労働力人口に占める65歳以上の割合は13.6%に達し、70〜74歳の労働力人口比率も35.6%と上昇傾向にあります。高齢者の労働参加は、数字の上では着実に進んでいます。
高齢者雇用の質の課題
ただし、課題もあります。高齢者の再雇用では賃金が大幅に下がるケースが多く、現役時代の6割程度の給与水準にとどまることも珍しくありません。また、非正規雇用の割合が高いことや、男女間の格差も指摘されています。
リクルートワークス研究所の分析では、日本の高齢者就業率は世界有数の水準にあるものの、雇用の「質」に課題があるとされています。単に就業機会を増やすだけでなく、適切な処遇や働き方の整備が求められています。
注意点・展望
「努力義務」から「義務」への移行はあるか
現在70歳までの就業確保は努力義務にとどまっていますが、今後これが義務化される可能性は十分にあります。65歳までの雇用確保も、当初は努力義務として導入された後、段階的に義務化されたという経緯があります。
政府内では、高齢者の定義を現在の65歳以上から70歳以上へ引き上げる議論も進んでおり、これが実現すれば年金制度や雇用政策に大きな影響を与えます。経済界からも、年金受給開始年齢の引き上げと連動した議論が出ています。
求められる柔軟な働き方
70歳以降も働きたいという意向が増える中で、フルタイム勤務だけでなく、短時間勤務やフリーランス、業務委託など多様な働き方の選択肢が重要になります。高齢者一人ひとりの体力や希望に合わせた柔軟な就業環境の整備が、企業と社会の課題です。
まとめ
「70歳以降も働く」が初めて4割を超えた調査結果は、日本社会の構造変化を映し出しています。経済的不安、健康寿命の延伸、社会参加への欲求が重なり、高齢者の就労意向は今後も上昇が続くと見込まれます。
一方で、企業の受け入れ体制や雇用の質、制度の整備は追いついていないのが現状です。平均68.3歳という「働きたい年齢」と、65歳の雇用確保義務のギャップを埋めるために、制度改革と企業の取り組みの両面からの対応が求められています。
参考資料:
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