中国の国防費2026年は7%増、経済減速でも軍拡は止まらず
はじめに
中国の全国人民代表大会(全人代、国会に相当)が2026年3月5日に開幕し、2026年の国防費(中央政府分)として前年比7%増の1兆9095億元(約43兆4000億円)が計上されました。伸び率が7%を超えるのは5年連続です。
注目すべきは、経済成長率の目標が「4.5〜5%」に引き下げられ、政府全体に節約志向が求められる中でも、軍事費だけは経済成長率を上回るペースで増加し続けている点です。本記事では、中国の国防費増加の背景と、台湾統一を見据えた軍事戦略について解説します。
2026年国防費の詳細
予算額と伸び率
2026年の国防費は1兆9095億6100万元で、前年比7%の増加です。この伸び率は過去3年間の7.2%と比べるとわずかに減速していますが、2021年以降では最も低い伸び率にとどまっています。ただし、金額ベースでは中国史上最大の国防予算です。
日本円に換算すると約43兆4000億円に達し、日本の2026年度防衛費(約8.7兆円)の約4.2倍に相当します。中国の国防費は過去10年間でほぼ倍増しており、軍拡のペースは一貫して維持されています。
経済目標との乖離
中国政府は2026年の実質経済成長率目標を「4.5〜5%」に設定しました。これは前年の「5%前後」から引き下げられたもので、不動産市場の低迷や消費の伸び悩みを反映しています。政府活動報告では「節約志向」が強調され、一般行政経費の削減が求められる一方で、国防費は経済成長目標を大きく上回る7%増が認められています。
軍事近代化の方向性
重点投資分野
中国の国防費増加は、以下の分野への重点投資に充てられるとみられています。
まず、先端装備の取得です。ステルス戦闘機J-20の配備拡大、第3世代空母「福建」の実戦化、極超音速ミサイルの量産などが含まれます。次に、兵士の給与引き上げと訓練の強化があります。中国軍は「実戦化訓練」を重視しており、台湾周辺での大規模軍事演習を定期的に実施しています。
さらに、サイバー戦・電子戦能力の強化も優先分野です。AI(人工知能)を活用した軍事技術の開発や、宇宙空間での能力構築にも予算が振り向けられています。
台湾統一をにらむ戦略
習近平国家主席は台湾統一を「歴史的使命」と位置づけ、武力行使の可能性を排除していません。国防費の継続的な増加は、台湾海峡での軍事的優位を確保するための長期的な投資と位置づけられます。
中国軍は近年、台湾周辺での軍事演習の規模と頻度を拡大させており、海空軍の能力強化が着実に進んでいます。米国の安全保障関係者の間では、中国が2027年までに台湾侵攻の能力を整えるとの見方が広がっています。
公表額と実際の軍事支出のギャップ
過少申告の構造
中国の公表国防費は、実際の軍事支出を大幅に下回っているというのが国際社会の一致した見解です。米国防総省の2025年版対中報告書によれば、中国の2024年の実際の軍事支出は3040億〜3770億ドル(約47兆〜58兆円)と推計されており、公表予算より32〜63%高い可能性があります。
公表予算に含まれない項目としては、武器の研究開発費、海外からの装備調達費、人民武装警察(武警)の費用、退役軍人への給付金などが挙げられています。
国際比較
公表ベースでも中国の国防費は世界第2位ですが、実際の支出を考慮すると、米国との差はさらに縮まります。2026年の米国国防予算は約8950億ドル(約138兆円)で、公表ベースでは中国の約3倍ですが、購買力平価で調整すると差は大幅に縮小するとの分析もあります。
注意点・展望
中国の国防費増加は、インド太平洋地域全体の安全保障環境に直接的な影響を与えます。日本を含む周辺国は防衛費の増額で対応していますが、軍事バランスの変化は避けられない状況です。
今後の焦点は、7%という伸び率が今後も維持されるかどうかです。経済の減速が続けば、いずれ国防費の伸びにも制約がかかる可能性があります。しかし現時点では、習近平指導部が軍事力の強化を最優先課題と位置づけていることは明白であり、国防費の増加基調は当面続くとみられます。
まとめ
中国の2026年国防費は前年比7%増の約1兆9095億元(約43兆4000億円)で、日本の防衛費の約4.2倍に達します。経済成長の減速にもかかわらず軍事費の増加は続いており、台湾統一を見据えた軍備拡張の姿勢は揺らいでいません。公表予算は実際の軍事支出を大幅に下回っている可能性も指摘されており、地域の安全保障環境への影響を注視する必要があります。
参考資料:
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