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by nicoxz

中国船3隻がホルムズ海峡通過、その背景と世界への影響

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はじめに

2026年3月31日、中国外務省の毛寧報道官は定例記者会見で、中国の船舶3隻がホルムズ海峡を通過したことを公式に確認しました。毛報道官は「関係方面の協調」によるものだと説明し、「関係方面が提供した支援に感謝する」と述べています。

ホルムズ海峡は2月28日の米国・イスラエルによるイラン攻撃以降、イラン革命防衛隊(IRGC)による事実上の封鎖状態にあります。通過する船舶は1日120隻超から数隻程度に激減し、世界のエネルギー供給に深刻な打撃を与えてきました。この状況下で大手コンテナ輸送企業の船舶が海峡を通過するのは紛争開始以来初めてであり、国際海運の転換点として注目されています。

本記事では、今回の通過の詳細と背景にある中国の外交戦略、そしてエネルギー供給への影響を解説します。

中国船3隻の通過経緯と詳細

コスコのコンテナ船2隻による歴史的通過

今回通過した3隻のうち2隻は、中国国有の中遠海運(COSCO SHIPPING)が運航する超大型コンテナ船「CSCL インディアン・オーシャン」と「CSCL アークティック・オーシャン」です。いずれも積載能力2万TEU(20フィートコンテナ換算)の大型船舶で、コスコのMEXサービス(オーシャン・アライアンスの中東〜極東航路)に投入されています。

マリントラフィックのデータによると、2隻は3月30日にドバイ沖から北東方向へ航行を開始しました。ホルムズ海峡入口に位置するイランのララク島とケシュム島の間を通過し、ほぼ12時間かけて海峡を横断しています。CSCL インディアン・オーシャンが午前9時14分(GMT)頃に通過し、その27分後にCSCL アークティック・オーシャンが続きました。両船はマレーシアのポートクラン港に向かっています。

注目すべきは、2隻が3月27日にも一度海峡付近まで接近しながら引き返していた点です。2度目の試みで通過に成功した形であり、事前に何らかの調整が行われたことがうかがえます。

3隻目はタンカー「Egret」

3隻目は香港船籍の石油・化学品タンカー「Egret(イーグレット)」です。海運分析会社Kplerによると、同船は3月25日に東から西へ、つまりオマーン湾からペルシャ湾側へ向けて海峡を通過しています。コスコのコンテナ船2隻とは異なる時期・方向での通過であり、中国系の船舶による通過の広がりを示しています。

ホルムズ海峡危機の全体像と中国の外交戦略

2月28日以降の封鎖状態

2026年2月28日、米国とイスラエルはイランに対して大規模な軍事攻撃を実施しました。これに対しイラン革命防衛隊はホルムズ海峡の通航禁止を宣言し、ペルシャ湾内に150隻以上のタンカーが滞留する事態となっています。

東洋経済オンラインの報道によれば、海峡を通過する船舶は1日あたり120隻超から5隻程度にまで激減しました。国際エネルギー機関(IEA)は、1970年代のエネルギー危機以来最も深刻な供給途絶と評価しています。大手コンテナ海運のマースク、CMA CGM、ハパックロイドなどは海峡通過を一斉に中止し、世界のサプライチェーンに甚大な影響が出ています。

イランの「友好国」限定通過政策

3月26日、イランのアラグチ外相は中国、ロシア、インド、イラク、パキスタンの5カ国の船舶にホルムズ海峡の通過を認めると発表しました。「われわれの敵が海峡を通過することを許す理由はない」と述べ、米国やイスラエルを念頭に敵対国を排除する姿勢を明確にしています。

その後、マレーシアやタイの船舶にも通過が認められ、さらに3月27日には国連の要請に応じて人道支援物資や肥料の輸送も許可されました。しかし、大手海運各社による本格的な運航再開には至っていません。

中国の二国間外交による独自路線

中国は米国主導の多国間海軍連合への参加を拒否し、イランとの二国間の直接対話を通じて船舶の安全な通過を確保する独自の外交戦略を取っています。中国外務省は紛争開始直後の3月初旬から、関係各国に対して海峡の安全確保を呼びかけていました。

中国にとってホルムズ海峡は死活的に重要です。中国が輸入する原油の約半分がこの海峡を通過しており、封鎖の長期化は戦略備蓄の取り崩しと代替供給源への依存強化を余儀なくさせる状況です。今回のコスコ船舶の通過成功は、中国の外交努力が一定の成果を上げたことを示す象徴的な出来事です。

注意点・展望

今回の3隻の通過は画期的な出来事ですが、海峡の正常化にはほど遠い状況です。アルジャジーラの分析によると、仮にホルムズ海峡が全面的に開放されたとしても、海運の混乱は数カ月続く見通しとされています。ペルシャ湾内に滞留するタンカーの移動や、迂回ルートに切り替えた航路の復旧には時間がかかるためです。

日本への影響も深刻です。日本は原油輸入の約94%を中東に依存しており、そのほぼ全量がホルムズ海峡を経由しています。ブルームバーグの報道では、原油価格の急騰に伴うインフレ加速のリスクが指摘されています。中国が独自の外交ルートで通過を確保する一方、日本は米国との同盟関係もあり、イランとの直接交渉による通過確保は容易ではありません。

今後の焦点は、中国以外の国の船舶にも通過が広がるかどうかです。イランの「友好国」政策の運用実態と、停戦交渉の行方がホルムズ海峡の正常化を左右することになります。

まとめ

中国船舶3隻のホルムズ海峡通過は、2月28日の紛争開始以降、大手コンテナ輸送企業としては初の通過となりました。コスコの超大型コンテナ船2隻とタンカー1隻の通過は、中国がイランとの二国間外交を通じて海上輸送路の確保に動いていることを示しています。

しかし、世界全体の海運正常化にはまだ長い道のりが残されています。ホルムズ海峡を通過する船舶数は依然として紛争前の数十分の一にとどまっており、エネルギー供給の逼迫は続いています。日本をはじめとするアジア諸国にとって、この海峡の安定は経済の根幹に関わる問題であり、今後の外交・安全保障の動向から目が離せない状況です。

参考資料:

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