サイバーパンク2077続編、返金騒動の教訓で開発刷新
はじめに
ポーランドのゲーム大手CD PROJEKT RED(以下CDPR)が、世界累計3,500万本を販売した人気タイトル「サイバーパンク2077」の続編開発に向け、体制の抜本的な見直しを進めています。「Project Orion」のコードネームで知られる続編は、2025年5月にプリプロダクションに入りました。
前作は2020年の発売直後に深刻な不具合が多発し、PlayStation Storeからの削除や全額返金という前代未聞の事態に発展しました。この苦い経験をバネに、CDPRはゲームエンジンの変更、北米拠点の新設、開発プロセスの根本的な改革に取り組んでいます。本記事では、前作の失敗から何を学び、続編でどのような変革を実施しているのかを詳しく解説します。
サイバーパンク2077の「返金騒動」を振り返る
PlayStation Store削除という前代未聞の事態
2020年12月にリリースされたサイバーパンク2077は、発売前の期待が極めて高かったタイトルです。しかし、発売直後からPS4やXbox Oneなどの旧世代コンソールで大量のバグやフレームレートの著しい低下が報告され、プレイヤーからの批判が殺到しました。
ソニーは異例の対応として、サイバーパンク2077をPlayStation Storeから完全に削除し、購入者への全額返金を実施しました。これは大型タイトルとしては前例のない措置でした。マイクロソフトも返金ポリシーを拡大して対応に追われました。CDPRの株価は20%以上下落し、時価総額にして約18億ドル(約2,700億円)が失われました。
経営陣が認めた「開発アプローチの誤り」
CDPRの経営陣は投資家向け説明会で、PS4とXbox One向けの開発において「間違ったアプローチを取った」と明確に認めました。発売前にコンソール版の実機映像を公開しなかったことへの批判も受け、透明性の欠如が問題をさらに悪化させたと総括しています。
その後、CDPRは約2年をかけてアップデートとパッチを配信し、ゲームの品質を徐々に改善。2023年には大型DLC「ファントムリバティ」をリリースし、これが1,000万本以上を販売する大ヒットとなりました。批評家からの高い評価も得て、サイバーパンク2077は「復活」を遂げたと評されています。
続編「Project Orion」の開発体制改革
Unreal Engine 5への移行
続編における最大の技術的変革は、自社製のREDengineからEpic Gamesの Unreal Engine 5(UE5)への移行です。REDengineはウィッチャー3やサイバーパンク2077で使用されましたが、エンジン自体の開発・保守に多大なリソースが必要であり、これがゲーム本体の開発を圧迫していたとされます。
UE5への移行により、CDPRはエンジン開発の負担から解放され、ゲームプレイの革新やワールドビルディングにリソースを集中できます。また、UE5は業界で広く使われているため、経験豊富な開発者の採用が容易になるという利点もあります。
北米スタジオの新設と開発チーム拡大
もうひとつの大きな改革が、開発拠点の地理的な分散です。続編はポーランドのワルシャワ本社ではなく、ボストンとバンクーバーの北米スタジオが中心となって開発を進めています。ボストンスタジオは、サイバーパンク2077のコアメンバーによって設立されました。
2025年時点で開発チームは約135人ですが、2027年までにボストン、ワルシャワ、バンクーバーの3拠点合計で300人以上に倍増する計画です。チームの約半数がボストン、残りがバンクーバーとワルシャワに配置される予定です。
「急がない開発」という新方針
前作の最大の教訓のひとつが、タイトなスケジュールに追われた結果として品質が犠牲になったことです。続編では、華やかな発表や厳しい締め切りに追われるのではなく、基盤をしっかり構築してから本格的な開発に移行するアプローチを採用しています。
CDPRは「プリプロダクションから最終リリースまで平均4〜5年かかる」と述べており、2030年後半から2031年初頭のリリースも否定していません。時間をかけてでも完成度の高い製品を届けるという姿勢が明確に示されています。
マルチプレイヤーとフランチャイズの拡大
初期段階からのオンライン設計
前作ではシングルプレイヤー専用として開発され、マルチプレイヤーモードは後から追加する計画がありましたが、最終的に実現しませんでした。続編では、開発の初期段階からマルチプレイヤー機能が設計に組み込まれています。
CDPRの求人情報には、ネットワークアーキテクチャ、マッチメイキングシステム、マルチプレイヤーインフラに関するポジションが多数掲載されており、単なる協力プレイではなく、「GTA Online」のような大規模なオンラインモードが想定されているとの見方が出ています。
復活を証明した数字
サイバーパンク2077の累計販売数は2025年第3四半期時点で3,500万本に達し、DLC「ファントムリバティ」も1,000万本を突破しました。2025年第3四半期のCD PROJEKT全体の売上高のうち、サイバーパンク関連が72%を占めるなど、ブランドの回復力の強さを示しています。
2025年6月にはNintendo Switch 2向けの「アルティメットエディション」も発売され、新たなプラットフォームでのファン獲得にも成功しています。
注意点・展望
CDPRの改革は前向きなものですが、いくつかの課題も残ります。まず、UE5への移行は技術的なメリットが大きい反面、自社エンジンで培ったノウハウの活用が限られる可能性があります。また、北米を中心とした開発体制は、ポーランド発スタジオとしてのアイデンティティに影響を与えるかもしれません。
リリースまでのスケジュールが2029〜2031年と長期にわたる点も注目されます。その間にゲーム市場のトレンドが変化する可能性は十分にあり、柔軟な対応が求められます。一方で、同じくUE5を採用して開発中の「ウィッチャー4(コードネーム:Polaris)」が先にリリースされる見込みで、そこでのUE5活用の経験が続編に活かされることが期待されます。
前作の苦い経験を経て、CDPRは「時間をかけて正しいものを作る」という原点に立ち返りました。ゲーム業界では発売日に未完成品をリリースし、アップデートで修正するという慣行が問題視される中、CDPRの改革は業界全体にとっても重要なテストケースとなるでしょう。
まとめ
CD PROJEKT REDは、サイバーパンク2077の返金騒動という大きな挫折から重要な教訓を得て、続編「Project Orion」の開発体制を根本から見直しています。UE5への移行、北米スタジオの新設、300人規模への開発チーム拡大、そして初期段階からのマルチプレイヤー設計と、あらゆる面で改革が進んでいます。
「急がない開発」という方針は、発売まで数年を要する可能性がありますが、前作の復活とファントムリバティの成功が示すように、サイバーパンクブランドの求心力は健在です。CDPRが返金騒動の教訓をどこまで活かせるか、ゲーム業界全体が注目しています。
参考資料:
- Cyberpunk 2 - Wikipedia
- Cyberpunk 2 Development Update Reveals It’s a Next-Gen Game - Vice
- CD PROJEKT wraps up the third quarter of 2025
- Cyberpunk 2 Is Taking Its Time, and This Time That Might Be the Point - NoobFeed
- Sony pulls Cyberpunk 2077 from PlayStation store after backlash - CNBC
- Cyberpunk 2077 reaches 35 million sales - TweakTown
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