120年未解決の図形パズル、日本の研究者が証明に成功
はじめに
1902年にイギリスで出題された図形パズルの難問が、ついに数学的な証明によって完全解決されました。北陸先端科学技術大学院大学(JAIST)とマサチューセッツ工科大学(MIT)の研究チームが、「正三角形を正方形に変換するには最低4ピース必要である」ことを証明したのです。
この問題は「デュードニーの裁ち合わせパズル」として知られ、120年以上もの間、3ピース以下で解けるかどうかは誰にも証明できませんでした。今回の証明は、図形分割問題における「不可能性の証明」という新たな数学的手法を確立した点で、大きな意義を持ちます。
デュードニーのパズルとは
1902年に出題された古典的難問
このパズルは、イギリスのパズル作家ヘンリー・アーネスト・デュードニーが1902年4月6日、雑誌のパズル欄で出題したものです。問題は「正三角形をできるだけ少ないピースに切り分けて、並べ替えることで正方形を作る」というシンプルなものでした。
デュードニーは19世紀後半から20世紀初頭にかけて活躍したパズル作家で、アメリカのサム・ロイドと並び、数理パズルの大家として知られています。図形分割や覆面算など、多くの古典的パズルを世に送り出しました。
4ピースの解法が発見される
出題から2週間後の4月20日、デュードニーは読者から寄せられた解答を発表しました。多くの解答の中で、マンチェスターのC.W.マケルロイが4ピースで正方形を作る解法を発見し、賞金を獲得しました。
この4ピースの解法には面白い特徴があります。各ピースを蝶番(ヒンジ)でつなぐと、正三角形から正方形へ、また正方形から正三角形へと変形できる「変換パズル」になるのです。この美しい解法は「ハバダッシャーズ・パズル」とも呼ばれ、数学愛好家の間で長く親しまれてきました。
残された謎:3ピース以下は可能か
4ピースの解法が見つかった後も、「本当に4ピースが最小なのか」という疑問は残りました。3ピース以下で解くことは不可能なのか、それとも誰も見つけていないだけなのか。この問いに対する数学的な証明は、120年以上にわたって誰も成し遂げることができませんでした。
日米研究チームによる証明
研究チームの構成
今回の証明を成し遂げたのは、北陸先端科学技術大学院大学(JAIST)の鎌田斗南助教と上原隆平教授、そしてMITのエリック・ドメイン博士による日米共同研究チームです。
鎌田助教は東京理科大学の数学体験館でインストラクターを務めた経験もあり、数学の普及活動にも携わってきました。上原教授は計算折り紙学の専門家として知られ、ドメイン博士は折り紙の数学やアルゴリズム理論の世界的権威です。
証明への道のり
研究チームは2018年頃から本格的にこの問題に取り組み始めました。課題は、図形を切り分けるパターンが無限に存在することでした。すべてのパターンを試すことは不可能です。
そこで研究チームは、グラフ理論を応用した新しいアプローチを開発しました。もともとは折り紙の折り方問題を解くために開発していた手法を、図形分割問題に適用したのです。
証明の方法
まず、2ピースでの解法が不可能であることは比較的容易に示すことができます。正三角形と正方形は同じ面積を持つ必要がありますが、正方形で最も長い切断線は対角線です。計算すると、この対角線は同面積の正三角形の一辺よりも短くなります。つまり、正三角形の辺を2ピースで覆うことは物理的に不可能なのです。
問題は3ピースの場合です。研究チームは「マッチングダイアグラム」と呼ばれる新手法を考案しました。まず、正三角形を切り分ける方法を、切断線が三角形の辺とどのように交わるかに基づいて分類しました。その結果、無限に見えるパターンを5つの基本分類に整理できることがわかりました。
同様に正方形についても分析を行い、38の分類を特定しました。次に、三角形の各パターンと正方形の各パターンをマッチングさせ、3ピースで変換可能な組み合わせが存在するかを調べました。
最終的に、研究チームは背理法を用いて、すべての可能なパターンにおいて3ピース以下での変換が不可能であることを証明しました。
証明の意義と応用可能性
不可能性証明の確立
今回の研究の最大の意義は、「裁ち合わせができない」という不可能性を数学的に証明する手法を世界で初めて確立したことです。
従来の図形分割問題では、「○ピースで解ける」という解の存在を示すことは可能でしたが、「○ピース以下では解けない」という不可能性を証明することは困難とされてきました。今回開発された手法は、この壁を突破するものです。
他の図形問題への応用
この証明手法は、正三角形と正方形以外の図形分割問題にも応用できる可能性があります。任意の2つの多角形について、最小ピース数を数学的に決定できるようになるかもしれません。
製造業への応用可能性
研究チームは、この手法が製造業にも応用できる可能性を示唆しています。例えば、繊維産業における生地の裁断や、金属加工における材料の切り出しなど、最適な形状切り出しが求められる場面で活用できるかもしれません。
今後の展望
国際学会での正式発表
研究成果は2026年1月27日から30日にかけて、イタリア・ミラノで開催される理論計算機科学の国際学会で正式に発表される予定です。この学会はトップレベルの研究が集まる権威ある場であり、世界中の研究者から注目を集めることが期待されます。
日本発の数学的成果
今回の証明は、日本の研究者が中心となって成し遂げた成果です。鎌田助教が考案した新しい証明技法が突破口となりました。120年以上の歴史を持つ古典的問題を日本発の研究で解決したことは、日本の数学研究のレベルの高さを示すものです。
まとめ
北陸先端科学技術大学院大学とMITの研究チームは、120年以上未解決だった「デュードニーの裁ち合わせパズル」について、4ピースが最小解であることを数学的に証明しました。この証明は、図形分割問題における不可能性証明という新たな数学的手法を確立した点で画期的です。
シンプルに見える問題ほど、解くのが難しい場合があります。今回の成果は、基礎数学研究の重要性と、日本の研究者の優れた能力を示す好例といえるでしょう。
参考資料:
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